第184話 指輪の行方と智美との会話
指輪を賭けてのジャンケンの結果は、魔力回復の指輪は奈緒、俊敏の指輪は早紀が所有者に決まった。そして一番希望者の多かった会心率アップの指輪は、ド派手なガッツポーズを決めた冬子が装備することになった。あんなに落ち込んでいたのに立ち直りが早い冬子を見て、こいつは大物になると感じたのは私だけではないだろう。
「盛り上がっているところ悪いが、伝えなければならないことがあるから、皆座ってくれ」
トップチームを組んで完全攻略を目指す話に私も興奮していたのか、大事なことを言い忘れていた。
「探索者省が毎月発表するクラン順位は気にするな。Aランクダンジョンの探索者を減らしたことにより、うちのクラン順位は大幅に下がるだろう。しかし、順位が下がったからといって《Black-Red ワルキューレ》が弱くなった訳ではない。トップチームを決めるまでの間は、今までのように常に上位にランクされなくなり周りから何か言われるかもしれないが、気にしないでほしい」
「最近も一位になれへんから、結構言われとったもんな。特に若手のメンバーにはよう言うとかんとあかんな」
特級ポーションを落札して、いち早くトップチームを立て直した《東京騎士団》にはずっとランキングで後塵を拝する結果になっていた。《花鳥風月》が登場してからは、更に順位が下がり何かと言われてきたからな。
「最後に一つだけ言っておく。Aランクダンジョンを探索した方が、Bランクダンジョンを探索するより強くなれるのではないかと考える者がいるかもしれないが、そんなことはないからな。実際に今私はBランクダンジョンの探索をしているが、Bランクダンジョンの探索だけで順位が上がった。私はどのダンジョンを探索するかではなく、どのような心構えでダンジョンの探索に取り組むかが大切だと思っている。自己研鑽に励んで、心と身体を鍛えてほしい。では、クラン会議を終わりにする」
長い一日が終わった。明日も大変な一日になることは確定している。早く休んで明日に備えよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
朝の六時にセットしたアラームで起こされた。私が起きるのを待っていたかのように、ドアがノックされた。
「美紅、起きたか?」
私が毎朝六時に起きることを知っている智美が訪ねて来たようだ。特急ポーションを使った結果を教えに来てくれたようだな。ドアの鍵を開けて招き入れた。
「美紅、ありがとう」
一年以上の間失われていた右腕が見事に再生されている。
「本当に良かった。私は智美に届けに来ただけだ。龍泉さんには智美が感謝していたことを伝えておくよ。それより私に最初に見せに来てくれたんだろ、嬉しいよ。腕の感覚はどうなんだ?」
「感覚か?なんか不思議やな。右腕が無いのが普通になっとったし………着替えるのがメッチャ楽になったわ」
「着替えが楽か?それが最初の感想なのか?智美は余程普段の生活が大変だったんだな」
「今までは言えなんだけどな、正直ほんまに大変やったで。まあこんな冗談が言えるのも、《花鳥風月》のクランマスターのお陰やな。左腕しかつこうてなかったから左腕が器用になったし、強うもなったで。これで右腕のリハビリを終えたら《Black-Red ワルキューレ》のスーパータンクが誕生するで。トップチームの話は奈緒や音乃から聞いたで、アタイも候補には入っとんやろな」
「いや、大怪我をしたんだ、無理はしないほうが良いだろう」
「何を言うとんねん。あのメンバーでもう一度続きが出来るんや、ここで無理せんでいつするねん。リハビリ頑張るで」
流石に結成当時から残っているメンバーは戦闘バカばかりだな。
「まあトップチームを組むときに力があれば選ばざるを得ないだろうな。リハビリ頑張ってくれ。でも、あまり無理はしてほしくないと私は思っている」
「あまり時間はないんや、ある程度の無理はすると思うで。話は変わるけど、美紅と世那は《花鳥風月》と今は一緒に行動しとるんよな。《花鳥風月》のタンクはどんな人なんや?」
「それは智美といえども、私からは言えないな。《花鳥風月》には無理を言って帯同させてもらっているんだ。迷惑はかけられないし、クランの情報を流すことは出来ない」
「美紅から見て、《花鳥風月》のタンクはBランクダンジョンを攻略するのに十分な力があるんか?」
「いや、だからそういう情報は言えないんだ」
「アタイは一年以上も《Black-Red ワルキューレ》の若手の育成をしてきたで。Bランクダンジョンを完全攻略するようなチームのタンクも、アタイが育ててきたと思うとる」
「ああ、若手の育成には感謝している。中堅の早紀も智美が育てたと思っているぞ」
「せやろ、アタイが《花鳥風月》のタンクを指導したら、伸びると思わんか?それとも、もう十分Bランクダンジョンを完全攻略出来るような力のあるタンクなんか?」
「いや、下のチームのタンクの二人には完全攻略はまだ無理だろうな。上のチームのタンクは、まだ戦うところを見ていないから何とも言えないな」
「三人か四人はタンクがおるんやな。なあ美紅、アタイは《花鳥風月》のクランマスターにはメッチャ感謝しとるんや。でも、アタイにはタンクの指導ぐらいしか返すもんがないんや。頼むわ、アタイも福岡に連れて行ってや」
しまったな、思わず喋ってしまった………確かに《花鳥風月》には早く強くなってほしいと思っているから、タンクの指導は良いかもしれないが………
「《花鳥風月》のタンクは三人だ。福岡に連れて行くが、もしも龍泉さんがダメと言ったら諦めると約束してほしい」
「ありがとな、約束するで。アタイも指導しながら自分の訓練もせんとあかんから急がしゅうなるな」
もう受け入れてくれると思っているところが智美らしいな。
「美紅、お腹が空いたな。一緒に食堂で朝ごはん食べようで」
「いやー、そんな自殺行為は止めておくよ。私が今から食べに行くから、智美は二十分後ぐらいに食堂に行くようにしてくれ」
「なんでやねん!」
そんなの当たり前だろう。右腕の再生した智美と一緒にいたら、身動きが取れなくなるほど人が集まるのは確実だ。着替えてさっさと食事を済ませて来よう。
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