第176話 再びの勝負の行方

 今日は探索が休みの日であるが、全員が七時にダイニングに集まった。まあ皐月さえ起きれば、毎日全員が揃うだろうね。皐月はちょっと油断すれば寝坊してしまう常習犯である。今回は世那さんと美紅さんがいるから、福岡ダンジョンの探索中は寝坊は勘弁してほしいと思っている。


「皐月達は時間経過のないマジックポーチは持ってないから、お弁当が冷めてしまうな」

「アイテムボックスの中に入れていれば大丈夫っす。今日は入れないっすけど」

「リーダー、昼には一旦携帯ハウスに戻って来て、真姫の料理を食べるつもりだぞ」

「早速【料理】スキルの出番か、なるほどね。携帯ハウスに戻るときには、一応周りを確認してから人目に付かないようにするんだぞ。何があるか分からないからね」

「了解だぜ!」


 携帯ハウスでのお留守番組にも、スイッチをいじらないように注意してから探索に向かった。


「美紅さん、昨日の食事の時に何か考えていると言ってましたよね。普通には探索しないんですか?」

「普通に探索したら面白くないだろう」

「面白くなくても良いと思うんですが………」

「麟瞳、おもろい方がええに決まっとるやろ。今日は勝負やで」


 二十階層までの攻略時間で勝負をするとのことだが、よく分からないな。


「僕達はパーティ登録をしてからダンジョンに入ってますよね。同じ階層で探索しないとダメですよね」

「ああ、恵梨花をどうするか悩んでいたんだ。申し訳ないが一度ダンジョンから出て、パーティを組み直してもう一度入場してほしい」

「個人戦なのかと思ってました。パーティを組んで勝負するんですね」

「基本は個人だが、一人だけ恵梨花とパーティを組んでもらう。お荷物の恵梨花がいると大変だろうが、ババを引いたと思って諦めてもらおう」

「メッチャけなされているんですけど………」


 【用意周到】の美紅さんにしては準備不足のように感じるが、恵梨花をどうするか本当に困っていたんだろうな。


「恵梨花とパーティを組む人はどうやって決めるんですか?」

「そんなん決まっとるやろ、ジャンケンや」

「ん、麟瞳さんはどうしたんだ?」


 思わず膝をついて項垂れてしまった。ジャンケンに勝てる気がしねー。


「勝負という事は、賞品があるんですか?」

「賞品はやっぱり宝箱の中身を考えている。今日の探索で得られる物から順番に選ぼうと思うが、何か良い案があれば変更してもいいぞ」

「今日は宝箱を大量に開けますよね。おそらく十二個のものが手に入ります。一人一つずつ選ぶようにしませんか?残りは他のメンバーが使えるものなら分けてあげたいと思います」

「はっきり言って、絶対に麟瞳が開ける宝箱が一番良いものが入っているだろ。次に幸運の指輪を装備している世那さんだ。それで六個のものから五個選んだらたいしたものは残らないぞ」


 なるほどね。確かに正輝の言う通りだね。


「では、例えば一番に攻略した人は麟瞳さんが得たものの中から一つ選ぶ。選ばれなかった二つのものは他のメンバーの為にストックしておく。二番目の人も世那が得た三つのものから一つ選んで残りはストックに回していくというのはどうだろうか?」

「あのー、私とパーティを組んだ人が一番になったら、私も貰えるんですよね」

「当然恵梨花も選ぶ権利はあるぞ。四番目の恵梨花とそのパーティメンバーは残ったものから一つずつ選べば良いぞ」

「何で私は最下位決定なんですか!ほんまに腹立つわ」


 お怒り中の恵梨花はおいといて、四人で真剣勝負のジャンケンだ。


 奇跡が起こったよ。負けたのは世那さん、僕は勝利したんだよ。世那さんは膝をついて項垂れているよ。


「何でクラマスはショックを受けているんですか!」

 

 一旦ダンジョンの外に転移してから、世那さんと恵梨花がパーティを組んで、美紅さんと正輝と僕はソロで再入場した。【全探知】スキル全開で、ちゃんと周りには気をつけたよ。怪しい人は見当たらなかった。


「正輝、十一階層からの罠には注意して探索するんだぞ。地図情報に載っているからな」

「罠が反応する前に走り抜ける予定だ。麟瞳には負けたくないからな」


 本当に正輝にライバル認定されているのかな?ちょっと嬉しいぞ。僕も負ける気は無いけどね。


「今日のお弁当を渡しておきます。世那さんはお弁当冷めてしまいますね」

「ウチのマジックバッグは時間経過がゆっくりやから、そんなに冷めへんで」


 そうだったんですね。それなら安心だ。


「では、始めようか」


 一斉に動き出した。皆さん結構本気だぞ。僕も負けていられない、雷を纏って移動を始めた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 僕が二十一階層のセーフティーゾーンに着くと、既に皆さんは到着していた。


「麟瞳さん、何かトラブルがあったのか?余りにも遅いから心配したぞ」

「麟瞳、どうして遅くなったんや?」

「本当にすみません。行く手にトレントモドキがいたんです」


 勝手に身体が反応してしまった。最初は無視して進んでいたけど、高級フルーツの誘惑には勝てなかった。「お兄ちゃんは病気なんです」綾芽の言葉が脳裏をよぎった。


 勝負は一位が美紅さん、二位が正輝、三位が世那さんと恵梨花、そして最下位が僕だった。勝負に水を差すようなことをしてしまった。二十一階層からは森林型に変わる。そこで名誉挽回の機会をもらおう。最下位ではなかったことで、美紅さんに絡んでいる恵梨花を見ながら、そんなことを考えていた。








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