第158話 福岡へ向けて京都から出発

「じゃあ美姫、サービスエリアやパーキングエリアで休憩を入れながら、急がず安全運転で行こう」

「リーダーこそ京都出発で私よりも長距離運転なんですから、気をつけてくださいね」

「ああ、分かったよ。福岡ダンジョンの探索者センターで落ち合おう。《花鳥風月》の名前を出さない限りは何も無いと思うけど、合流してから一気に入場手続きをするから、それまではユックリしていてね。近くまで行ったら一度連絡を入れるよ」

「了解しました」


 午前九時、美姫の運転するワゴン車はクランハウスを出発して行った。


「正輝、僕らも出発しようか?」

「了解、二人だけに運転を任せて申し訳ないな。時間があれば俺も運転免許証を取ろうかな?」

「今度運転免許証を取りたいメンバーを集めて、教習所に行ってもらうのも良いかもね。一人より何人かで行った方が良いと思うよ。負けたくないから学科の勉強も頑張れるんだよね」


 京都の永久拠点へと移動した。出かける前にクランハウスのことは僕の母さんと美琴さんにヨロシクと任せてきたよ。永久拠点では忘れずに繋ぐ札を回収して、大家さんに《Black-Red ワルキューレ》が近いうちに来ることを伝えた。これで事前準備は完了だ。腕輪からSUV車を出して出発だ。


 時間帯も良かったのか一時間もかからずに《Black-Red ワルキューレ》さんのクランハウスに到着した。勿論到着する前には連絡を入れているから、既に用意をして待ってくれていた。


「恵梨花、荷物はどうしたんだ?もしかして収納道具を持っているのか?」

「いえ、大荷物になったのでサブマスのスキルで収納してもらっているんですよ」

「それなら良かったよ。これ中古なんだけどマジックポーチなんだ、今回無理を言って参加してもらったお礼にプレゼントしようと思って持ってきたんだけど、受け取ってほしい。容量は三十立方メートルだから、そんなに沢山の物は収納出来ないんだけど、あると便利だと思うよ」

「えっ、そんな高価な物を貰っていいんですか?」

「ああ、受け取ってほしい。今回の探索で《カラフルワールド》は迷惑をかけると思うけどヨロシク頼むよ」

「メッチャ嬉しいわ!頑張ります。任せてください!」


 早速血液登録をして、美紅さんから自分の荷物を受け取り収納していたよ。ここまで喜んでくれると、昨日の真姫の言葉は真実なんだと分かったよ。喜んでいる恵梨花を急かすことはしなかったよ。そこまで鈍感じゃあないからね。その間に忘れずに拠点の鍵を美紅さんに渡しておいた。でも、大阪から福岡は六百キロ以上ある、準備が終わるとすぐに三人を車に乗せて出発した。


「なんや、この前は美紅、今日は恵梨花にプレゼントか?ウチもおるんやで、もう不貞腐れてしまうで」


 世那さんは冗談で言ってるんでしょうが、こうなることは想定内、正輝がこちらの車に乗ると決まった時から計画してたんです。サプライズプレゼントだ。


「これなんですけど、昨日岡山ダンジョンを麟瞳と二人で探索して得ました。受け取ってください」


 武器ケースに入った状態で正輝から世那さんへと渡された。バックミラー越しに見ると、世那さん滅茶苦茶ビックリしているよ、サプライズ大成功だね。ちょっと狭い車の中だと槍は渡しづらかったね。これは想定外だった。


「これは槍なんか?」

「そうです。武器ケースの登録は俺がしていますから、変更は福岡ダンジョンでします。この槍は今世那さんが使用している槍に負けない性能だと思います」

「正輝、ウチの持っとる槍は相当な逸品やで、これはどんな性能なんや?」

「不壊と光魔法の付与された槍です。光魔法は探索者協会では今まで出て来ていない魔法属性らしいです」

「はっ、なんやそれ。あんたんところは槍使いがおるやろ、こんなんもらえんわ」

「世那さん、昨日クラン会議をして皆が納得して世那さんに渡すことにしました。一連の騒動のお詫びと、今までとこれからの感謝の気持ちです。受け取ってください」

「でも魔法の付与された武具は貴重やで、やっぱりもらうことは出来へんわ」

「うちの槍使いは全員が魔法の付与された槍を装備してますよ」

「なんでやね〜ん!」


 世那さんの絶叫が車の中で響いた。この前のクランハウスの中での絶叫と違って、車の中は狭いんだ。耳にかなりのダメージを受けたよ。


「ホンマにもろうてええんか?」

「世那さんに受け取って欲しいんです」

「ありがとう。ウチもメッチャ嬉しいわ。因みに買取り金額はいくらなんや?」

「一億五千万円です」

「ウチの持っとるのより高いやんか~!」


 再びの絶叫が………もう耳がもちません。


「この前も思ったが、八千万円や一億五千万円のプレゼントっておかしいと思わないのか?」

「美紅さんや世那さんが使うなら、武器も喜びますよ。僕達って、あまり値段にはこだわらないんですよね」

「いや、値段にこだわらないのは麟瞳だけだからな。でも、今回のプレゼントした槍は世那さんが使わないとダメな気がします。他の人が持っても宝の持ち腐れになると思います」


 正輝の裏切り者め。でも、良いことを言うね~、確かに世那さんにピッタリの槍だと僕も思うよ。


 世那さんがご機嫌なまま、途中途中のサービスエリアやパーキングエリアでトイレ休憩を含めて御昼御飯やソフトクリームを食べたりしながら福岡へと近づいて行った。サービスエリアでは色々な土地の有名なお土産が置いてある。毎日の食後を充実させるためにスイーツ系を大量に購入したよ。甘いものは正義だからね。


 そしてやっと関門海峡を渡ったところで、正輝から先発隊に連絡を入れてもらった。長距離運転が予想以上に大変だ、早く着いてほしいよ。


「は~っ、なんだよそれは。無事なのか?」


 ん、どうした?


「出来るだけ早く行くから、皐月が手を出さないようにしておいてくれ。いいか、手を出したら負けだからな」


 皐月が手を出すって、何があったんだ?


「麟瞳、美姫達がトラブルに巻き込まれているらしい」

「まさか探索者省か?」

「いや、前のパーティメンバーに絡まれているらしい」

 

 疲れているなんて弱音を吐いている場合じゃないぞ。ナビを見ると到着まであと百キロほどある。そこからはノンストップで福岡ダンジョンの探索者センターへと向かった。










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