第156話 福岡遠征前日・中編
「正輝は岡山ダンジョンを二十階層まで攻略していたよね」
「ああ、去年の夏だよな。たしかそうだったと思うぞ」
「二十一階層に転移してから、高速で完全攻略するのが良いか、それとも低階層のボス部屋を周回するのが良いか悩むな~。ボス部屋の待ち時間は相変わらず長いのかな?」
「岡山ダンジョンの受付で聞けば良いだろ、それを聞いてから探索する階層を決めよう」
「そうだね。そうしようか」
クランハウスから岡山ダンジョンへと向かう車の中で会話しながら進んで行った。
「正輝は《千紫万紅》をどう思ってる。率直な意見を聞きたい」
「俺には比較対象が《百花繚乱》しかないからな、ここだけの話にしてくれよ。まず個人の技量から考えると、俺を除くとまず悠希と今の麟瞳は比べるまでもなく麟瞳の方が強いだろ。それに地図読みや罠の探知や解除は《百花繚乱》では誰も出来なかったからな。次に心春と美姫だと技量は互角のように感じるな。美姫が風魔法を纏った矢を撃ち込むことが出来るのにはビックリしたぞ。で、【以心伝心】ギフトを考えると弓術の技量を超えた存在感があるよ。次に和泉と詩音だよな。ちょっとタイプが違うから比べにくいところはあるよ。詩音は皐月と組むと威力が倍増するよな。皐月はまだまだ成長途上の有望なタンクだ。個人で比べると和泉の方が強いのかもしれないが、チームプレイなら詩音だよ。最後に皐月と前の麟瞳を戦闘力だけで比べると………ハハハハ」
「笑う事はないだろう。確かに僕は何も出来なかったよ」
「拗ねるなよ。事前準備や地図読みはかなり役立っていたよ。でも、良いパーティを麟瞳は作ったと思うぞ」
「最後のピースが高火力のアタッカーだったんだ。正輝が入ってくれて本当に良いパーティになったと感じてたんだ。確認できて良かったよ」
「今回は更に高火力のアタッカーがもう一枚加わるぞ。どうなるのかワクワクするよな」
「綾芽か~、確かにあの年齢を考えたら驚異的な能力だと思うよね。どんなフォーメーションにすれば良いのかとかいろいろと楽しみだよな」
岡山ダンジョンに到着した。ゆっくりとは出来ない。更衣室で着替えて入場受付へと急いだ。
「まだ岡山ダンジョンの探索者は多いですか?」
「お蔭さまで大盛況ですよ。《花鳥風月》様には感謝してます」
「五階層と二十五階層のボス部屋だとどちらが順番待ちの時間が長いと思いますか?」
「すみません、ちょっと分かりません。夏休み中の大学生パーティも多くて低階層も今の時期は多いんですよ」
「いやいや、謝らないでくださいよ。大変参考になりましたよ、探索経験の少ない人が多い低階層はやめておきます。ありがとうございました」
ということで、二十一階層から探索を始める為に転移した。
「基本は正輝は右から、僕は左から倒していくようにしよう。それと絶対に一度は魔法攻撃を入れることだね。魔力ポーションの獲得には魔法攻撃が必須だからね。でも、魔力ポーションは出来るだけ使いたくないんだ」
「難しい注文だな。移動にも魔力は使うかもしれないぞ。風魔法の付与された靴も使いながら慣れたいんだ。まあそんなに魔力ポーションは使わないと思うけどな。使っても文句は言うなよ」
「了解。使った分以上にドロップさせればいいんだよね。あまり気にする必要が無いように思えたよ。さっきのは忘れて、普通に探索しよう。普通にといっても、僕も高速移動はしっかりと練習しないとね」
探索を開始すると、まあ想像以上の速度で攻略は進んでいった。低級ポーションも欲しいので出会うゴブリンパーティ全てと戦ったが、一瞬でいなくなるのは何匹いても同じだ。ボス部屋の待ち時間だけがかかるのは予定通りだ。
「いつも炎の斬撃を飛ばす時に、正輝は上段から振り下ろすだろ。で、巨大な斬撃が遠くまで飛んでいくよね。例えば腰の所から横なぎに振れば広範囲に斬撃は飛ばないのかな?」
「なるほど、可能性はあるよな。ここのボス部屋でやってみようかな」
「えっ、いきなり挑戦するの?僕に斬撃は飛んで来ないよね」
「麟瞳が提案したんだ、責任は取ってくれよ。多分大丈夫な気がするよ」
多分………気がする………なんだか怖くなってきたよ。
「よし、やっと順番が来たぞ。ここは俺に任せてくれよ。ほら、グズグズするなよ」
真姫の時の特級ポーション以来の頼み事を神様にしたよ。こんな時だけ頼ってゴメンナサイ。でも、お願いします。僕に斬撃が飛んで来ませんように!
神様ありがとうございます。無事でいられました。二十匹程のゴブリンのほとんどが消えていたよ。
「麟瞳、ありがとう。俺にも広範囲の攻撃が出来るようになったよ。本当はちょっと麟瞳に嫉妬してたんだよ、雷魔法の大技が凄いなってさ」
いえいえ、どういたしまして。しっかりと練習してからパーティでの探索では使うようにしようね。……………そういえば僕には結界魔法があったじゃないか。真姫が言うように本当に僕はバカなのかもしれない。ガックシと膝を突いてしまったよ。
「麟瞳、何をやってるんだ」
「いや、僕はバカだなって思ってたんだよ」
正輝に飽きれられながら攻略を再開した。道中は高速で移動しながら発見即撃退を繰り返し、ボス部屋では交互に大きな魔法の一撃でほとんどの魔物を消し飛ばしながら最後のボス部屋に到着した。
「ここにはオーガが三体いるんだ。オーガは近接戦闘で仕留めようか?オーガを見る度に青いオーガを思い出すんだよね。三体の内の二体は僕に任せてね」
「ああ、順番的にも麟瞳だし、それで良いぞ。一番右にいる一体だけもらうよ」
ボス部屋に入り、扉がしまった。扉が閉まると同時に、魔力ポーション獲得の為に軽く一発だけファイヤーボールを放った。そして雷を纏い全力で超高速移動をする。オーガは速さに付いてこれない。スピードに乗ったまま空歩の靴で駆け上がり、刀の一振りで首を落とした。そのまま空中で方向転換、もう一体の首も続けて落とした。
「おい、今のはなんだよ。今までにないスピードだぞ」
「この前のAランクダンジョンの探索で世那さんから言われたんだ。正輝の動きは参考にして良いけど、美紅さんの戦い方の方が僕には勉強になるって。ずっと映像を見ながら考えていたんだけど、一瞬の速さを追求するのが一つの答になるのかなってね。でも、正輝もあっという間に倒してるじゃないか」
「俺は一体だからな」
おっと、話している間に金色の宝箱が出てきたよ。今日の宝箱からは結構良いものが出てきたが、最後に最高のプレゼントがもらえるようだ。
「これでポーションは大丈夫かな?」
「明日のこともある。これ以上の探索は無理だと思うぞ。初級、中級、高級ポーションとそれぞれ手に入れたし、明日福岡ダンジョンで購入できるなら魔力ポーションを全部購入するしかないだろ」
「そうだよね。今日も一応あるかどうか確認しておこうか」
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