第147話 携帯ハウス
「魔石の納品依頼は買取りの時に言うだけで良いと聞いたんですけど………」
「はい、勿論大丈夫です。クランの名前を教えてください」
「《花鳥風月》です。よろしくお願いします」
ドロップアイテムの取り分は《Black-Red ワルキューレ》と《花鳥風月》で半々ということで、魔石の納品依頼の処理をしてもらった。探索したのは一階層から五階層であり、得られた魔石のランクはEランクだ。今日はEランク魔石を3,678個納品したことになる。
魔石以外のドロップアイテムはウルフ系定番のお肉はたっぷりドロップしてくれたが、そのほかに毛皮、角、スクロールもあった。
「スクロールは火魔法が27本、風魔法が16本、水魔法が11本ありました。これも今日一日で得たものなんですか?普通一ヶ月かかっても集まりませんよ」
「今日のこの買取りの情報は内緒やで。絶対にバラしたらあかんで」
買取り担当の女性が高速で頷いている。世那さん、あんまり脅したら可哀相ですよ。まあ、僕のために言ってくれているのは分かるんですけど。
「世那さん、火魔法のスクロールと水魔法のスクロールはどちらが良いですか?奇数だから半分に分けられません。どちらか好きな方を多く渡しますよ」
「美紅、どっちがええ?」
「まあ、火魔法の方が良いだろう。スクロールの攻撃力は火魔法の方が上だと思っているからな。私達が火魔法のスクロールを多めにもらっても良いのか?」
「ええ、どうせ買取りしてもらうので良いですよ」
「魔法のスクロールを買取りに出すのか?勿体ないだろう」
「うちのクランメンバーはほとんど魔法が使えますから、普通の魔法のスクロールは使わないんですよ。だから特別な魔法のスクロール以外は全部買取りに出してます」
「では買取りに出さずに、私達に売ってくれないだろうか?」
「その場合、税金とか面倒臭くなりそうですよね。スクロールの代金分を魔石でもらえませんか?それなら納品依頼をこなすことも出来ますし、税金も普段通りになりますよね」
「ああそうだな。では、それでお願いするよ」
買取り担当の女性にその旨を告げて処理をしてもらった。
「マジックアイテムですが、携帯ハウスというものです。鑑定では、どのくらい大きくなるのか分からないので、一度大きくなった状態を見せてくれませんか?このままだと買取り価格が決められません」
「いや、そのまま持ち帰りますので買取り価格が分からなくても良いですよ」
「そんな~、見せてくださいよ。次回同じようなマジックアイテムが出て来たときのためにもお願いします」
「あんまり目立ちたくないんですけど………」
「麟瞳、ダンジョンの中で大きゅうしてみんか?ウチも興味あるわ。ウチのクランメンバーしかおらんところでやってみぃひんか?」
結構時間も遅くなってきているが、世那さんの希望である。断る訳にはいかない。皆でダンジョンの一階層に転移していく。
「じゃあ、ここで大きくしてみます。どうすれば良いんですか?」
「スイッチが玄関のところにあります。それを押せばしばらくして大きくなります。小さくするときも同じです」
確かに、可愛いらしい手の平に乗るサイズの小さな家の玄関にスイッチがある。それを押して、地面にそっと置き様子をみる。しばらくすると立派な家に早変わりした。
「いや~、ビックリですね。小さめのお洒落な家が十秒で建ちましたよ。これは中に入れるのかな?」
ラノベでは何度か出て来た便利アイテム、絶対にダンジョンを作った人ってラノベ読者だよね。全員で家の中に入っていこう。
「滅茶苦茶広くないですか?外から見たときより、中に入った方が絶対に広いですよ」
家の中を詳しく見て回る。
「6LDKっていうのかな?お風呂も大きいのが付いている。一部屋も八畳ぐらいはありそうだし、水も出るし、明るくも暗くもできる。謎テクノロジー満載ですね」
「ああ、結界も張れるみたいだぞ。これはダンジョンを探索するためのものだろう」
「ダンジョンで泊まることがあるんですか?」
「龍泉さんはダンジョンで泊まったことがないのか?今日の探索のような低階層では何とか五階層進めるが、攻略が進めばAランクダンジョンでは一気に五階層進むのは大変だ。今、私達は七十五階層まで進んだが、一階層進むのに十日ほどかかる。探索するのに野営が一番難しいんだ。結界で魔物から護ってくれる家なんて夢のようなアイテムだ。恵梨花がジャンケンに負けたのが悔やまれる」
「サブマス、今更責めへんでもええやないですか」
「冗談だよ。でも、それぐらい欲しいアイテムということだ」
でも、あげられないな。まだBランクダンジョンを探索し始めたばかりだが、僕達もいずれAランクダンジョンの探索をする予定だ。こんな便利アイテムは譲れない。今の話を聞くとすぐに一日で五階層進めなくなるようだ。これがあればパーティメンバー全員が毎日十分な休息を取ることが出来る。多分疲れない分、探索もはかどることだろう。良いものを手に入れることが出来た。【豪運】スキルとジャンケンに勝った正輝には感謝だね。
すべての設備を確認してからダンジョンの外へ転移した。もう外は暗くなっている。明日もBランクダンジョンの探索があるので早く帰りたい。でも、なかなか買取り担当の女性は部屋へ帰ってこない。
「まだ時間がかかるんですかね。何でこんなに時間がかかるんでしょうか?僕はマジックアイテムは持ち帰ると言いましたよね」
「ウチにも分からんわ。でも、値段をつけとるんやろうな。ほんま無駄な時間やわ」
世那さんも少し怒っているようだ。ですよね。何でこんなに時間がかかるんですかね?
「お待たせしました。ここの支部長の
持ち帰るという話は担当の女性から聞いていないのだろうか?
「先ほどの女性の方には言ったんですが、このマジックアイテムは持ち帰ります。自分達で使いますから」
「そこを何とかなりませんか?あなたが持っているより役立てることができる人に譲った方が良いと思いませんか?」
何だこの失礼な奴は。
「支部長、あんたは《Black-Red ワルキューレ》に喧嘩を売るんやな。もう分かったわ。ウチらここにはもう来んわ」
「いえ、決して《Black-Red ワルキューレ》様にそのようなことはしません。そちらの方に所有権があると伺ったのですが、違いましたか?」
「そんなの関係あらへん。探索で得たもんはそれを得てきた探索者のもんや。それを奪おうとするような人とは付き合い出来へんわ」
「いや、たった十人のクランで、普段はCランクダンジョンを探索しているような人達ですよ。そのマジックアイテムは宝の持ち腐れですよ」
散々な言われようだ。怒るを通り越して呆れてしまった。
「なんやその言い方、ありえんわ。あんた何様のつもりや。大体十人やのうて十一人やで。何もしらんとそないなことよう言いよるわ。もうウチら帰るわ。時間の無駄や。持ち帰るスクロールとマジックアイテムを早う持って来てな。それから入金もお願いするで、とにかく早うしてな」
なんだかトラブルによく巻き込まれてしまう。変な支部長もたまにいるんだよね。世那さんのお怒りモードで渋々処理をする支部長以下職員の人たち。まあ渋々なのは支部長だけのようだけど、何とか手続きを全部終わらせて探索者センターを後にした。
《Black-Red ワルキューレ》と《花鳥風月》の連名で探索者協会にすぐに抗議の連絡を入れた。探索者協会として、明日の朝に《Black-Red ワルキューレ》のクランハウスに来て、事情を詳しく聞きたいと申入れてきた。
今日は正輝と二人で近くのビジネスホテルに泊まることになった。勿論クランメンバーには連絡を入れたよ。
「流石リーダーですね」
何が流石なのだろう。さっぱり分からないことを美姫から言われた。
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