第146話 Aランク大阪住之江ダンジョンの一階層から五階層を攻略
「龍泉さんと奈倉さんはAランクダンジョンには入ったことはあるのか?」
「ええ、京都のAランクダンジョンに去年の七月に入って、十五階層のボス部屋で失敗しました。僕はそれ以来入ってないです」
「俺は麟瞳と一緒に失敗した後も、五階層までは何回か入りました」
「二人は元々パーティを組んでたのか?」
「あれ、言ってませんでしたっけ、僕達は高校入学からパーティを組んでいたんですよ。ほら、この前の入団テストで《Black-Red ワルキューレ》に入った天沢和泉と紅心春、それから《東京騎士団》に入った真中悠希と一緒に五人で《百花繚乱》というパーティでした。まあ僕は道案内と荷物持ちでしたけどね」
「そうか、三人ともう一人と言っていたな。もう一人が奈倉さんか?」
「何べん聞いても、麟瞳が一年前まで荷物持ちいうて信じられへんな?」
「ホントに弱かったんですよ。Cランクダンジョンでもソロでは二十階層がやっとでしたよ」
「和泉と心春はたいしたことあらへんで。ユニークギフトが勿体ないわ。そんなんで、どないしてBランクダンジョンを攻略したんや?」
「たいしたことないって、僕からしたら羨ましいほど和泉も心春もそして悠希も強く見えましたけど………まあ、正輝が頭一つ抜けて強かったから、正輝を中心に魔物を倒していましたね。特にボス部屋では、正輝が強い魔物の相手をして、周りを他のメンバーで倒すことが多かったですね。僕は自衛することで精一杯でしたよ」
「まあ、この前のゴブリンやオーガと戦ったことを思えば、Aランクダンジョンの低階層なんて楽なもんだぞ。京都のAランクダンジョンの十五階層のボス部屋はどんな魔物が出て来たんだ?」
「そのゴブリンが相手でした。俺がゴブリンキングに向かって行ったんですが、ゴブリンキングに到達する前にパーティが崩壊しました。麟瞳が帰還石を持ってなかったらヤバかったです」
「十五階層やろ。何匹ぐらいおったんや?」
「五百ぐらいだと思いますよ」
「まあそんくらいやろ。今なら楽勝やな。この前は麟瞳だけで二千は倒しとんやからな」
「大阪住之江ダンジョンはゴブリンではないが、数は同じくらいだ。今日は五階層までだからボス部屋は三百といったところか。思う存分戦えるから頑張れ」
お二方は簡単に言うが、Aランクの大阪住之江ダンジョンは草原型から始まるといっても、起伏のある見通しの悪い草原でウルフ系の魔物が出てくる。しかも魔法を使うウルフが混じっている。群れを作り連携をとって襲い掛かって来て、ボス部屋では約三百匹のウルフ。階層が進むごとに上位種の割合も多くなるという情報を移動するバスの中で恵梨花から聞いた。勿論正輝と一緒に事前の調べはしてきているんだけど、経験者から聞くと気をつける点等もチェック出来てありがたいね。
「今回は個人の能力を高めるための探索と言ってましたよね。パーティとしては戦闘しないということですか?」
「別にバラバラに行動するつもりはないぞ。いきなり連携を取りながら行動するのは無理だろう。低階層では向かって来る魔物を個人の力で倒していけば良いと思っている。他のメンバーの戦闘も見ながら戦っているうちに、特徴も分かって来るだろう。中階層からは流石に個人の力だけでは危なくなると思うが、まだまだ先の話だ」
なんだか良く分からないが、来た魔物を倒していけば良いようだ。深くは考えないようにしよう。
「恵梨花も僕達と同じように戦うんですか?」
「恵梨花は斥候だからな。先行してウルフを引き付けて来てもらうつもりだ。それを龍泉さんと奈倉さんで倒してもらう。討ち漏らしは恵梨花が倒すよ。【身体強化】スキルで戦えるようになったからな」
「僕も【身体強化】スキルが欲しいんですよね。【身体強化】スキル優秀ですよね。スキルオーブ出てこないかな?」
「恵梨花のスキルオーブは先程のクランハウスでも話したが、Aランクダンジョンの十五階層の宝箱から出て来た物だぞ」
「じゃあ、宝箱から出てくるかもしれませんね。楽しみだ」
「麟瞳なら本当に出そうやな。でもウチらの宝箱から出たらウチらが使うで」
「それは分かってます。世那さんが宝箱を開けるときに祈っておきますよ。出るな~って」
宝箱まで到達するのが大変そうだ。世那さんと美紅さんはほとんど戦わないつもりのようだし、しっかりと戦闘経験を積ませてもらおう。
ダンジョンに着いた。探索者はいるがほとんどの探索者が《Black-Red ワルキューレ》の方達のようで、世那さんと美紅さんを待っていたようだ。クランハウスでの話が長かったから、到着が遅くなった。大分待ったんじゃないのかな?
クランメンバーに指示をしていくのは美紅さんのようで、指示を受けたパーティからダンジョンに向かって行く。和泉と心春の姿も見える。しっかりと《Black-Red ワルキューレ》の一員になれたようで良かったよ。僕が世那さん達に頼んで入れてもらったようなものだ。戦力になってもらわないと世那さん達に顔向け出来ない。
「待たせて、すまんな。クランハウスで指示を出しておけば良かったのだが、バタバタしていて出来ていなかった。では私達もダンジョンに入っていこうか」
いよいよ、Aランクダンジョンに入場だ。気持ちが高ぶるのを抑えられない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「五十です。赤いのいます」
恵梨花がウルフの集団を引き付けて戻ってきた。もう何度目の戦闘になるだろうか?正輝と僕ですべてを倒してきた。今回もウルフの真ん中にフレイムボムを撃ち込み、陣形を乱して高速移動を始める。
「奈倉さんの動きには無駄がないな。う~ん、強いな。龍泉さんが強いと言うだけはある」
戦闘後に美紅さんが感想を言う。正輝の戦闘を見て感心している。僕も何度も見てきたお手本のような身体の動き、【円転自在】スキルで更に洗練されてきたのだろう。
「魔法は麟瞳、近接戦で正輝やな。美紅が新しい短剣で戦いたくてウズウズしとるし、交代で休みを入れよか?まずは麟瞳が休んだらええで」
戦闘を続けてきて疲れが出ているのが分かったのか、世那さんがさりげなく理由をつけて休ませてくれた。
「麟瞳、美紅の動きをよう見といてな。あんたは正輝の動きより、美紅の方が多分参考になるわ。高速移動の戦闘が得意なあんたにはええ勉強になると思うで」
「正輝の動きを参考にしてずっと練習してきたんですけどね、僕の動きは正輝には届かないですか?」
「正輝とあんたはタイプが違うんや。正輝の動きを参考にするのはええことや。正輝は無駄がない戦い方が身についとる。ウチでも感心する動きをしよるで。でも、麟瞳の強みは魔法を織り交ぜた多彩な攻撃や。一つ一つの動きは取り入れてもええが、違うタイプのアタッカーを目指さんと勿体ないで。美紅の動きを見てみ。ええ勉強になると思うで」
美紅さんの戦闘を目で追う。短転移を随所で使い、相手に狙いを絞らせず一方的に攻撃をしていく。短転移優秀すぎでしょ。じっくり見ている僕でも動きを追えなくなる。ウルフも混乱して連携がとれない、動きがバラバラだ。世那さんが僕の参考になると言うんだから、似たような素養が僕にもあるのだろうか?
「いや~、斬撃が飛んでいくぞ。まだ私も強くなれそうだ。感謝する」
戦闘を終えて戻って来る美紅さんが嬉しそうに言ってきた。まだ本気を出していない戦闘でも目で追えないのに、今より強くなるのか?更に上には八人もいる。最強になるのは大変そうだ。
五階層のボス部屋の前に到着した。車の中で確認したように約三百の魔物が待っている。
「麟瞳と正輝は自由に動き回ってええわ。ぎょうさん倒してもらおか。ウチらのことは考えんでええで」
今後のことも考えて、一番大きな魔法の攻撃から戦闘を開始する。恵梨花に見せるためだ。僕は刀に魔力を流し雷魔法を広範囲に撃ち込む。正輝は巨大な火の斬撃を遠くまで飛ばす。勿論皆さんに耳栓は渡している。クレームを後からされないようにしないとね。いつも通り魔物に向かい高速移動をしながら近づく。近づく集団の中にフレイムボムを発動する。バラけるウルフに近づき刀で斬りつける。どんどんウルフは少なくなっていく。最後のウルフに美紅さんが止めを刺した。
「最後の良いところをもらってしまったな」
今日の美紅さんは短剣が新しくなったせいか、途中から積極的に戦闘に加わっていた印象だ。後で映像を見て動きをよく見てみようと思う。何処かに僕が参考に出来るところがある筈だ。
三百の魔物の相手をしたんだ、ドロップアイテムを拾うのもいつもより大変だよ。
「流石にAランクダンジョンのボス部屋ですね。数が多いからドロップアイテムを拾うのも大変ですね」
「麟瞳、ウチらは一万二千個の魔石とそれ以外にも大量のドロップアイテムを拾わされたんやで、これぐらいで大変言われても困るわ」
僕が意識をなくしている間の話ですよね。確かに桁が二桁違う。大変のレベルが違いますね。今回は積極的に拾わせていただきます。
最後に正輝が金色の宝箱の中身を回収して、今日の探索は終了した。
六階層の転移の柱に正輝と僕が登録をして、そのままダンジョンの外に転移した。
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