第141話 元の《桜花の誓い》と姫路ダンジョンの探索

 八月のクラン会議の後のすぐの休みの日に、児島の工房を訪ねた。


「お久しぶりです。今回もよろしくお願いします」

「いらっしゃいませ。こちらこそ、またのご利用ありがとうございます」


 以前と同じく、本当に当たりの柔らかいご主人と挨拶を交わした。


「お電話でもお話させていただいたように、今回もジャケットの制作をお願いします。前回の残りの皮とゴブリンキングとオーガキングの皮を持ち込みでお願いします」

「まず、皮の状態を確認させてください。前回からだいぶ時間が経ってますよね。状態が悪いと加工が出来ない場合もあるのでお願いします」


 もっともな意見である。場所を指定してもらってそこに全ての皮を出した。


「いやいや、保存が凄いですね。うちでもここまでは出来ないですよ。前回から何も変わっていないようです。それにゴブリンキングとオーガキングの皮も大きくて、最高の状態です。腕が鳴りますよ。依頼をお受けさせていただきます」


 時間経過のない収納道具に感謝である。黒色の皮で正輝と綾芽と僕の物を、緑色の皮で遥と桃の物、そして赤色の皮で真琴と山吹の物を作ってもらうことになった。付与は前回と同じで衝撃耐性と温度調節をお願いした。デザインは僕は前と同じにした。結構気に入ってたんだよね。他のメンバーは一生懸命選んでいた。正輝がこんなに真剣に選ぶとは思ってなかったよ。デザインを決めた後は採寸をしてもらった。


「今月中に完成させます。完成したら連絡をさせていただきますね」


 お値段は前回と同じにしてくれた。そして出来れば今月中に出来ませんかと聞くと、一度作っているので大丈夫ですよと言ってくれた。来月からBランクダンジョンやAランクダンジョンの探索も始まるから、これで一安心だ。


 気分がよくなったので、児島からの帰りは少し遠回りをしてウナギを食べに行く。去年に母さんと行った人気のお店だ。ウナギは流石に母さんもお手上げだ。あそこより美味い場所は知らない。持ち帰りで皆の分もちゃんと用意するのは忘れない。


「美味いな~」

「本当に美味しいです」


 皆の反応も上々だ。何回食ってもやっぱり美味しいものは良いよね。少し多めに持ち帰りも注文しておいた。ストックはいくらあっても困らない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 八月の第四水曜日、お約束通り元の《桜花の誓い》のメンバーと姫路ダンジョンへと向かう。勿論僕の運転する車で朝早くに岡山のクランハウスを出発した。


「このメンバーだと、去年の夏休みのダンジョン旅行や倉敷ダンジョンの完全攻略を思い出すな~。ウルフに苦戦してたのが懐かしいよ」

「お兄ちゃん、いつもそればっかり言うよね。私達も強くなっているんだからね。今回はお兄ちゃんは見ているだけで良いからね」 

「じゃあ、そうさせてもらおうかな。今日は楽させてもらうよ。皆はBランクダンジョンにいずれ挑戦するつもりなのか?」

「まだ先の話だと思っています。でも、いつかは挑戦してみたいという気持ちは皆が持っています。綾芽には悪いとは思うんですけど………」

「綾芽に悪いって、どういうこと?」

「綾芽だけ強い。合わせてもらっている」

「そんなの気にすることないよ~。私は満足しているよ」


 確かに綾芽はこのメンバーだと飛び抜けているよね。《百花繚乱》の正輝と同じだ。何だか変な雰囲気にしてしまったな、話題を変えよう。


「真姫はついていけてるのか?」

「真姫姉は今一番伸びている、ノリノリだよ。魔法杖が合っていたんだと思うけど、凄い成長だよ。魔力ポーションがぶ飲みで何度も何度も攻撃するんだよ」

「へーっ、あの真姫がね」

「真姫姉はマスターの為に頑張っていると思います。前に恩を返すんだって言ってました。あっ、これ言っちゃあダメだったかも」


 また変な空気が漂う。聞かなかったことにしよう。


「本当に今日の報酬は要らないのか?結構な稼ぎになると思うんだけど。美姫や他のメンバーには黙っておくぞ」

「報酬としてジャケットを貰います。本当に何時もありがとうございます」


 姫路は高速道路を使うと本当に時間がかからないな。あっという間に姫路ダンジョンに着いたよ。


 探索者センターの更衣室で着替えをしてから入場受付へと向かった。


「お久しぶりです。今日はメンバーの組み合わせが違いますね」


 すっかり顔なじみになった受付嬢が話しかけてきた。


「今日は保護者としてやって来ました。僕は楽をさせてもらいます。うちの子達の受付お願いします」

「今日も宝石の納品をされますか?」

「運良く大きな宝石が出ればさせてもらいますね」

「では、納品依頼の用意しておくように手配しておきますね」

「運が良ければですよ」

「はい、ちゃんと用意をしておきますね」


 何だか噛み合わない会話をしながら、武器の封印解除等の手続きを終えた。


「何階層に転移するんだ?」

「「「「「六階層でお願いします!」」」」」


 声が揃って、気合いが凄いね。少し心配だが、魔法杖を持つ前の真姫とのパーティで十階層までは攻略している。危なくなれば手を貸せば良いだろうと思い六階層へと転移した。


 桃、山吹、真琴とは岡山ダンジョンでパーティを組んで完全攻略しているから能力は分かっていたが、遥は予想以上に成長していた。風魔法の付与された槍がフィットしたためか、一年前と比べると別人レベルになっている。敏捷の靴の効果と腕力強化の指輪の効果もあるだろうが、高校を卒業したばかりとは思えないほどの完成度だ。そして綾芽は相変わらず強いね。我が妹ながら圧倒的な攻撃力だ。そこに桃と山吹の二枚盾に真琴の正確な矢の攻撃を加えて攻略を進める。これはCランクダンジョンだと何処に行っても完全攻略できるレベルに達しているように感じるぞ。更に魔法杖でレベルアップした真姫がいれば………良いパーティになったもんだ。真姫は絶対に無理だと思っていたけど、認識を改めないといけないのかな。Bランクダンジョンの探索も近いのかもしれない、一点だけ心配なことをクリアできればだけどね。


 あっという間に十階層のボス部屋に到着した。


「ここはどうやって攻略するんだ。僕も攻撃に参加しようか?」

「ううん、大丈夫だよ。私がマザーアントを受け持って、残りは他のメンバーで対応できる。ここも見ているだけで良いからね」


 有言実行。マザーアントは綾芽が相手をして、キラーアントは山吹と遥が中心となって、そして残りは桃と真琴のコンビでドンドン黒い靄へと変えていく。僕ってドロップアイテムを良くするためだけに存在しているよね。これじゃあヒモになっちゃうぞ。ヤバイヤバイ。


 銀色の宝箱からはいつものドデカイ宝石を回収して、もう一周するために六階層へと転移し、セーフティーゾーンでお弁当にする。


「次のボス部屋は僕に任せてね。何にもしないとストレスが溜まってしまうから、最後だけお願いね」


 そして二周回目も危なげなく探索は進み、ボス部屋へと到着した。ボス部屋には僕を先頭に入り、いつもの刀の雷魔法で一撃を入れる。ちょっと力が入りすぎたのかもしれないな、轟音とともに稲妻が走り全ての魔物を消し飛ばしてしまった。


「………お兄ちゃん、凄いね」


 振り返るとヘルメット越しでも、皆が唖然としているのを感じた。良いところを見せたかったんだよ。ちょっとやり過ぎたかったかもしれないが後悔はしていない。………驚かせてゴメンね。


 銀色の宝箱からは赤みがかった金属の延べ棒が五本出て来た。これって多分希少金属だよね。クランの為には良かったが、僕一人が貰うのはちょっとね。


 無事にダンジョンの外へと転移し、武具店で矢の補充を済ませて、買取りの受付へと向かった。


「お部屋にご案内します」


 入場の時の受付嬢が言っていたように、部屋で納品依頼の手続きを済ませた。一周目の宝箱から出て来た物が基準を満たしていた。


「延べ棒はヒヒイロカネです。買取り価格は一本四千万円になります」


 あとはオリハルコンだけだな。現実逃避している僕はまだ見ていない希少金属へと心を寄せていた。また億越えの収入を得てしまう。クランの依頼に回せば更に高額になるのだろう。後で真姫に相談しようと思う。


 晩御飯は何を食べたいか皆に聞くと、中華料理だと答が帰ってきた。姫路の打ち上げはヤッパリ中華料理で回転テーブルをグルグル回しながら食事をしたいらしい。


 前回と同じ中華料理屋で食事する。女の子が五人いると賑やかだね。ヤッパリ回し過ぎだって。おい、僕が欲しい料理を目の前に持ってくると取り分ける前に回すのは誰だ?!


 クランハウスに帰ってきたのは十時を過ぎていた。皆お疲れ。明日も探索があるから早くお風呂に入って寝るようにね。


「真姫、ヒヒイロカネが出て来たよ。これをクランの依頼で処理してくれ。で、五人にそれぞれ一本ずつの代金を入金してくれないかな」

「五人は知っているの?」

「いや、言ってないんだけどね。今日の探索で僕は最後のボス部屋しか戦っていないんだ。全部僕が報酬を独り占めしたら精神衛生的に良くないよ。コッソリと処理しておいてね」

「は~っ、分かったわ。麟瞳さん、ありがとう」


 真姫は五人娘に甘いんだよね。僕の意見が通って良かったよ。では、僕も大きい風呂に入って寝るとしよう。お疲れ様でした。






 

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