第139話 八月のクラン会議
「奈倉正輝です。剣が得意なアタッカーで、麟瞳とは高校入学からパーティを組んでいた。縁あって、またパーティを組むことが出来て嬉しく思っている。皆の方がここでは先輩だから、分からないことは教えてほしい。今日からよろしく」
正輝に自己紹介をしてもらった。滅茶苦茶緊張しているようで、余りの辿々しい言葉遣いに笑ってしまったよ。うちのクランは年下の女の子ばかりだから、今までとは全然違う環境でやりにくい面も多いだろう。でも、慣れてもらうしかない。僕としては念願の男性メンバーが入ってくれて嬉しく思っている。これで周りの目も変わって来るだろう………おそらく。
食堂で御昼御飯を皆で食べて少し休憩をした後に、大会議室でクランメンバー全員で会議を行う。
「新しいメンバーも加わり、もう一度八月のクランの活動について会議を行いたいと思う。まずはサブマスターの真姫から七月のクランの活動の結果を報告してもらおう」
「何故かクランのサブマスターをしている橘真姫です。よろしくお願いします。では、まずはクランの月間ランキングに関してですが、七月に受けた依頼は《Black-Red ワルキューレ》の依頼と、マスターの姫路への出張での宝石の納品依頼が十七回でした。この十八回の依頼達成により、七月のクランのランキングは無事に一位になりました」
「青いダイヤモンドはいつのオークションにかけられるのかな?」
「今月の29日、30日ですね」
「じゃあ今月はそれでランキングで上位に入れそうだね。でも、この前ほど落札価格が上がらないこともありえるのか。皆はどうしたら良いと思う」
「《千紫万紅》に所属している橘美姫です。よろしくお願いします。私は依頼はオークションだけで良いと思います。体調が整わないリーダーに無理はさせられないです。今のところリーダーしか依頼達成できる人がいませんから、オークションの結果に頼るしかないと思います」
「僕の体調を思ってくれるのは有り難いけど、Cランクダンジョンなら大丈夫と思うけどね」
「ちょっといいか?依頼の事とか、麟瞳の体調が悪いとか全然分からないんだけど、教えてもらってもいいか?話についていけない」
そりゃそうだ、正輝には悪いことをした。真姫からクランの依頼について説明してもらった。
「僕の体調が悪いのは、三日前に大阪のBランクダンジョンで、大量のゴブリンとオーガを相手に戦闘したからなんだ」
僕はあの時の戦闘の話と、その後現れた青いオーガについて、岡山ダンジョンでの出来事を含めて全部話した。
「そんなことがあったのか。これからも青いオーガは現れるかもしれないんだな」
「どうも僕が強くならないとダメらしいんだ。ほっといて欲しいんだけどね。で、そのオーガの情報が書いてある本を見せてもらう為にクランの月間ランキングの上位を毎月狙っているんだ。毎月上位にランクされることで探索者省も無視出来なくなるかもしれないってね」
「なるほど、全部繋がっているんだ。麟瞳がいなくてもできるような依頼はないのか?」
「ほとんどAランクダンジョンでしか手に入れることが出来ないものばかりです。麟瞳さんのスキルによって高品質の宝石や希少金属がCランクダンジョンから出てくるから、毎月依頼が達成できてる状態です」
「そうだ!皆へ報告することがあったんだ。僕の体調が戻ったら、週一回だけ《Black-Red ワルキューレ》の世那さんと美紅さんと一緒にAランクダンジョンを探索することになったんだ。正輝も一緒に探索するけど」
「なんで俺も一緒に探索することになっているんだ」
「僕が二人に頼んだんだ。もう一人うちのクランから参加させて欲しいって。ちゃんと承諾してくれたよ。十五階層でリタイアして以来だから楽しみだろ。メンバーは世那さん、美紅さん、正輝、僕、それ以外に《Black-Red ワルキューレ》から必要なポジションの人を出してくれることになっている」
「それはオレ達のパーティを離れるということか?」
「皐月、違うよ。僕は世那さんに《花鳥風月》が休みの日の水曜日に、一緒に探索してもらおうと思ってる。世那さん、美紅さん、加納さん、榊さんの四人は青いオーガから僕を鍛えるように言われたんだ。その四人でも青いオーガには勝てない。僕を鍛えて挑戦しろと言われたらしいよ。だから二人はAランクダンジョンで僕を鍛えてくれるけど、あくまで臨時パーティだ。僕は《千紫万紅》でAランクダンジョンを完全攻略するつもりでいるからね。頼むよ」
「望むところっす。でも、今の話だとリーダーは最強の四人より強くなるんっすか?」
「分からない。青いオーガはそう思っているのかもしれない。今僕は日本で225番目に強いらしい。強くなるように頑張るけど、何処まで行けるかは分からないよ。この順位はダンジョンカードを機械に通すことで分かるようになっている。皆も興味があるなら《Black-Red ワルキューレ》のクランハウスで調べることができるからね」
「話が飛びすぎて、何の話をしているのか分からなくなったわ」
真姫、ゴメンね。僕のせいだ。
「僕は正輝と僕がAランクダンジョンで探索を始めたら、魔石の納品依頼を受けることができるようになると言いたかったんだ。僕の場合、魔石は完全ドロップするから数を確保出来ると思う。《Black-Red ワルキューレ》には勝てなくなるけど、その魔石の依頼でランク上位は狙えるようになるかもしれない。真姫、今度その魔石の依頼について調べておいてほしい」
「分かったわ」
これでクランに関する話は終わりでいいのかな。
「じゃあ次に《カラフルワールド》の活動について話してもらおうかな。綾芽、よろしく」
「正輝さん、お久しぶりです。これから、よろしくお願いします。《カラフルワールド》は今探索している京都の草原型のCランクダンジョンを引き続き探索します。この一ヶ月で二十階層まで進んだので、今月は四十階層まで進みたいと思って頑張っています」
「クランへの要望はあるのかな?」
「魔力ポーションのストックが少なくなってきたので、それをなんとかしてほしいです」
「そうだよな。うちは全員が魔力を使って戦闘するから魔力ポーションの消費が激しいんだよな。買うのもありかもしれないけど、なんだかもったいないんだよね。とりあえず要望を真姫に出しておいてね。なんとかするよ。他にはないかな」
「以上です」
順調に行けば、三ヶ月で完全攻略出来そうだ。《カラフルワールド》も強くなっているようだ。
「最後に《千紫万紅》だけど、正輝が探索に参加してくれたらBランクダンジョンを攻略しようと言っていたんだけど、それが出来なくなってしまった。僕のバトルスーツがボロボロになってしまって、買い替えないといけなくなったんだ。申し訳ない」
「そんなの謝ることではないです。生きて帰って来てくれて嬉しかったです。新しいバトルスーツが出来るまで、今攻略している湿原型のCランクダンジョンを探索すればいいと思います。正輝さんが合流すればすぐにでも完全攻略してしまいそうですが、その時はまた考えれば良いと思います」
「俺はそのダンジョンを高校卒業してすぐに完全攻略しているから何処からでも合流出来るよ。それに麟瞳も身体が良くなったら………まあ、麟瞳が戻って来たらBランクダンジョンになるのか」
「僕はもう少し身体が動くようになったら、バトルスーツが納品されるまでの間は岡山ダンジョンを探索しようかと思っているんだ。ポーションの確保もしたいけど、靴のマジックアイテムが欲しい。靴も今回のことで使い物にならなくなってしまった。岡山ダンジョンで風魔法の付与された靴を手に入れたからもう一度出る確率が高いと思うんだけど、こればっかりは運次第だからね」
「運次第ならリーダーは負けないっす。でもバトルスーツがないと危ないっす」
「今回の入団テストの探索でスキルオーブを手に入れて【結界魔法】を取得したんだ。それの練習もしたいと思ってるんだけど、【結界魔法】が上手く使えたら普通のジャージでも探索できそうだ」
「リーダー、無理はダメだぜ。体調もまだ悪いんだからな」
「そうだね。皆に心配はかけられないな。《千紫万紅》は当面湿原型のCランクダンジョンを探索してもらうよ。何か要望はあるかな?」
「私達も魔力ポーションは欲しいですね」
やっぱり魔力ポーションが足りなくなるのは、うちのクランの悩みどころだ。普通の装備で行ってこようかな?バトルスーツを買う前に使っていた装備は、まだ着ることは出来るだろうか?
「美姫、真姫に要望を出しておいてね。最後にもう一つ提案があるんだけど良いかな。今回はバトルスーツや靴と一緒にジャケットもダメになった。で、これも新しく児島の工房で作ってもらおうと思うんだけど、まだジャケットを着ていないクランメンバーも一緒に作らないか?今回の入団テストでハプニングはあったけど、ゴブリンキングとオーガキングの皮が手に入ったんだ。これも良い素材になるらしいんだ。ゴブリンキングが緑色、オーガキングが赤色で《カラフルワールド》の皆には良いと思うんだ。ただし、それぞれ二人分しか取れそうにないから、一人は真姫と同じ黒色で我慢してもらわないといけないけどね。黒色は前のが結構余っているから、僕と正輝ともう一人分はあると思うんだ。費用は僕が出しても良いと思っているよ」
「リーダーは《カラフルワールド》に甘すぎです。自分で費用は出させないとダメです。バトルスーツはリーダーが安全の為と言うので納得しましたが、年下ですが立派な社会人なんですよ。欲しいものは自分で手に入れないとダメ人間になってしまいます」
「分かったよ。でも、休みの日に臨時パーティを組んでダンジョンを探索するのは自由なんだよね。僕の身体が良くなったら、姫路ダンジョンの探索をしようかな。あそこは儲かるからな~、誰が一緒に行ってくれるのかな~」
「もう分かりました。なんか私が悪者みたいじゃないですか」
「美姫にはいつも感謝しているよ。僕は世間とは感覚がズレているようだから、いつも助かっているよ。今後ともよろしくね」
「じゃあ、ジャケットが欲しいと思う人達で色も決めておいてね。それから正輝は黒色で作るから………お金はあるから大丈夫だね」
「俺は決定なのか?」
「勿論だよ。大体百万円、大丈夫だろ」
「ああ、値段は大丈夫だけど必要なのか?」
「僕は今回の事で作っていて良かったと思ったよ。ジャケットとバトルスーツとヘルメットのお陰で身体へのダメージが少なかったんだと思う。見た目はボロボロだったらしいからね。ジャケットには衝撃耐性と温度調節の付与をしてもらったんだ」
「そうだな、Aランクダンジョンの探索を考えたらあった方がいい気がするな。付与ができるなんて岡山には凄い人がいるんだな」
「ああ、岡山ダンジョンの中里さんに紹介してもらったんだ。衝撃耐性は勿論だけど、温度調節は侮れないぞ。滅茶苦茶快適だぞ」
《カラフルワールド》の面々も皆が作ると言っている。これでまた少し安全面を強化できると思う。自分が居ないから不安なんだよね。また、お父さんと言われちゃいそうだけどね。
「じゃあ、全員で八月も頑張っていこう」
最後に皆が正輝に自己紹介をして、クラン会議は終わった。
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