第121話 また魔法使いが誕生した

 攻略開始前に全員がヘルメットにダンジョンの情報を取り込んでいる。


 今日は【直感】ギフトを授かっている山吹に道案内をしてもらう。出来るだけ多くのゴブリンパーティと戦闘をしながらボス部屋を目指すような進路を取るように指示をした。【直感】スキルでそこまで分かるのだろうか?


 ゴブリンパーティにエンカウントすると、まず後衛のゴブリンに真琴の矢が突き刺さる。そして二の矢が飛んでいき、狙った場所に正確に突き刺さる。


「後衛ゴブリンはいなくなったぞ。桃と山吹はホブゴブリンを引き付けろ。詩音、止めを刺せ。僕はそれ以外を相手するよ。行くぞ!」


 香川県へのダンジョン旅行で得た腕力強化の指輪の効果もあるせいか、ホブゴブリンに力負けしていない。桃は受け流しでホブゴブリンの体勢を崩し、山吹は挑発の盾の効果でホブゴブリンを引き付け受け止める。そして、詩音が剣で槍で止めを刺していく。


 だんだん任せる数を多くしながら攻略階層を更新していく。ヤッパリ実戦が一番の練習になるようだ。階層を進めていくほど動きが良くなってきた。三十五階層のボス部屋の前に着いた。


 順番待ちが三組もいる。この階層で三組も順番待ちがいるとは、岡山ダンジョンは今も人気があるようだね。二つ前に並んでいるパーティが手を振ってくるが、無視して水分補給をしよう。


「何で無視するのよ」

「他のパーティの邪魔になるから、わざわざ来なくて良いよ。無視してるんじゃなくて、これからの戦いに集中しているんだよ。邪魔だから戻って、戻って」


 真姫がちょっかいをかけて来るが無視だ。


「三人の動きはどうなの?完全攻略出来そう?」

「何だ、真面目な話をするのか………三人ともだんだん動きが良くなって来たよ。視野も広くなってきたし、多数の敵との対処の仕方も身についてきた。練習を重ねていけばもっと良くなって来るよ。予定通り、一週間に五階層ずつ進んでいけば、今月の終わりに完全攻略まで出来そうだね」


 僕の話を聞いて満足したらしく、大人しく帰っていった。三人のことが気になっていただけだったようだ。


「三十五階層のボス部屋は二十匹ほどのパーティで後衛の数が多いことがある。今までと同じで、基本は真琴の弓で倒すけど、三匹以上いる場合には僕も魔法で攻撃をするよ。前衛のホブゴブリンは武器持ちが出てくる。受け流すか、受け止めるか、しっかり判断するようにしよう。中途半端なことはしないようにな。フォローはするから安心して戦っていこう」


 ボス部屋の扉が開き僕達の順番が来た。僕を先頭に皆が入り、扉がしまった。


 ボス部屋での戦闘では桃と山吹の二人の大盾が大活躍だった。詩音と僕は二人が盾で受け流したり、受け止めたゴブリンだけに攻撃を加える。次々に襲い来るホブゴブリンはどう対処するのかを一瞬で判断しなければならない。武器持ちホブゴブリンの攻撃はいなして体勢を崩し攻撃出来る隙を作る。他のホブゴブリンは今までの経験で危なげなく対処する。体勢を崩した最後のホブゴブリンの首を僕が斬り落とした。


 詩音とハイタッチ。振り向いて三人のパーティメンバーとも………片手を挙げて待つ。片手を振って待つ。やっと三人のパーティメンバーともハイタッチを交わした。


 ドロップアイテムを拾い、金色の宝箱の前でジャンケンをした。宝箱を開ける順番を決めてなかったんだよ。珍しく勝った僕が宝箱を開けた。中には久々の高級ポーションが五本ずつと杖が入っていた。金色の宝箱が初めての三人の興奮はしばらくおさまらなかった。


 三十六階層の転移の柱に桃と山吹と真琴が登録して、セーフティーゾーンで弁当を食べる。弁当は皆の分を母さんに作ってもらい、僕と美姫がそれぞれ五個ずつ収納しておいたものだ。


 食後にもう一度、三十一階層から三十五階層を探索して今日は終わりだ。


 二度目のボス部屋の宝箱は真琴が開けた。銀色の宝箱からは中級ポーションが五本ずつとスキルオーブが出てきた。


 《晴れの国騎士団》と合流するために探索者センターに戻らなければならないが、その前に武具店に寄って、矢の補充を忘れずしておこう。


 バトルスーツ姿はここのダンジョンでは目立つ。すぐに皆がいる場所が分かったよ。遥は赤色、綾芽は明るい紫色、真姫は白色、皐月は紺色のバトルスーツを着ている。《桜花の誓い》は派手な色がお好みのようだ。


「派手な色が好きだから選んだ訳じゃないわよ。花の色に合わせたの!麟瞳さんには花が集まるんだから、花の色にしないとね。《千紫万紅》は暗い、黒と紺って華がないわよ」


 そんな色の決め方だったんだね。気付かなかったよ。でも、日曜日の朝の戦隊シリーズに出てきそうだな。そうするとリーダーは遥になるのか?


「お久しぶりです」


 常盤さんとは四月の会見の日に会って以来だから、本当に久しぶりだ。


「お久しぶりです。今日もよろしくお願いします」


 六月はメンバーを入れ替えての探索だから、配分もいつもと変えている。僕はいつものように自分のパーティの半分が取り分で、残り半分と別パーティの全額を合わせて十一等分するとのこと。十一分の二はクランの運営費用になるらしい。クランの運営に関しては真姫に任せている。勿論僕が最終的な判断はしないといけないと思っているよ。最初に真琴の矢の領収書を渡しておいて、あとは任せよう。


「スキルオーブは風魔法です。買取り価格は二千万円です。杖は魔法杖です。買取り価格は三億円です」

「ん、ちょっと待って、僕の耳が悪いのかな?今、三億円って聞こえたんだけど」

「聞き間違いではないです。四属性の攻撃魔法が三種類ずつ使えるようになる夢のような魔法杖です。オークションに出すと落札価格はいくらになるんでしょうか?」

 

 とんでもないマジックアイテムが出てきたよ。四属性の魔法使いが簡単に誕生してしまう。しかも三種類ずつということは十二種類の魔法が使えるようになる。僕は火魔法でまだファイヤーボールとファイヤーアローの二種類しか使えない。そして雷魔法で一種類の合計三種類の魔法が使える。魔力消費がどれくらいなのかが問題になるだろうが、大きな戦力になるのは間違いない。


 風魔法のスキルオーブは真琴に使ってもらった。僕は風魔法は弓術士こそ使うべきだと思っているからね。スキルオーブを使用しダンジョンカードを確認した真琴は感動に震えていた。


 これで、また《花鳥風月》に魔法使いが誕生した。







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