第119話 クランハウス完成

 姫路ダンジョンを完全攻略してから五月の最終日までの数日間、《千紫万紅》は宝石の納品依頼をこなすために姫路ダンジョンの一階層から十階層に通った。アダマンタイトの納品は六月に行うことにして、五月は宝石だけでランクアップを目指すことに決めたからだ。


 そして五月は終わってしまった。皐月の誕生日プレゼントである神戸ダンジョン行きは叶うことなく、僕達は岡山へと帰ってきた。


「返事が遅くなってスマン、もう少し待ってくれないか?」


 姫路を離れる前に正輝に電話をすると、まだ悩んでいるようだった。《千紫万紅》に来てもらえれば嬉しいが、正輝は《百花繚乱》を離れることが出来ないような気もする。正輝の決断を待ち、その決断を受け入れるしかないと思っている。


 六月のクラン《花鳥風月》の活動予定は、岡山ダンジョンの探索だ。《千紫万紅》は《桜花の誓い》のレベルアップの手伝いをする予定だ。ポーション類も来月からの遠征に向けて増やしておきたいと思う。そして六月の大きな出来事として、クランハウスの完成とバトルスーツの受け取りがある。どちらも後数日で完成する予定だ。


 それからクランの車を買うことにした。クランに所属するメンバーは十人いるから、全員が乗れるワゴン車を一台購入して岡山ダンジョンまで車で行く予定だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あの古いアパートが見違えるほど綺麗になりましたね。いろいろと途中で変更を入れて申し訳ありませんでした」


 クランハウスの完成に伴い、全員で見学するお披露目日になった。大きい風呂が欲しい。部屋の中にドアだけある狭い部屋が欲しい。後から要望を出し設計を変えてもらった。リノベーションを請け負ってくれた会社の担当の方が案内をしてくれる。


「では、二階部分の個室から案内します」


 中古物件のアパートは元々は大学に通う学生のために建てられたもので、古くなり誰も入居しなくなっていたため格安で売りにだされていたものを購入した。二階建て十二部屋の物件が東西に二棟建ち並んでいる。二棟を繋ぐ通路を作ってもらい行き来できるようにしてもらった。二階は居住できるような個室にしてもらった。一棟の二階部分は六部屋あるから、十二人がこのクランハウスに住むことが出来る。これから詩音、皐月、桃、山吹の四人はここに住むことになる。


 案内されて部屋の中に入ると、小さな風呂とトイレと洗面所以外はかなり広いワンルームになっている。


「かなり広くて使い易そうだぜ。気に入ったぞ。何処がオレの部屋になるんだ?」


 気の早い皐月が言っているが全部見てから決めようね。同じ部屋が続くので一部屋だけ見てから、一階部分に移動した。


 東棟の一階部分はクランの玄関口になる。広いロビー、応接室、大小の会議室、休憩室、資料室、クランマスター室などクランを運営する上で必要な部屋を用意した。


 西棟の一階部分はクランメンバーが寛ぐことが出来るように、食堂、男女別の大きな風呂、トレーニング室、談話室、そしてドアだけある小さな部屋を作ってもらった。男用の大きな風呂なんかいらないって意見は却下する。大きな風呂で疲れを癒したいんだよ。誰も反対しなかったけどね。


それ以外の施設は車庫と小さな屋内練習場を敷地内に建ててもらった。元が古いアパートとは思えないほど現代風でお洒落な建物へと変貌していた。


「ありがとうございました。皆が気に入りました」


 今日の案内をしてくれた担当の方にお礼を言い、クランメンバーで大会議室に集まる。


「今日からここが僕達の本拠地になる。皆が気に入ってくれて良かったよ」

「個室が十二部屋あるということは一人が一室もらって良いの?」

「《千紫万紅》と《桜花の誓い》の二つのパーティ以外に増やす予定はないから増えても十二人だ。一室は自分の部屋として自由に使ってもらって良いよ。でも、ここに住み込む四人に先に部屋を決めてもらって、あとはくじ引きで順番を決めようか?文句は言わないようにね」


 まずは住み込みの四人は西棟の部屋を選んだ。


「食堂に近いからこっちが良いぜ」

「大きなお風呂が近いのが良いっす」


 理由は単純だよね。くじ引きで順番を決めて残りの部屋を決めていく。順番で一番、二番になった真琴と遥が西棟を選び、残りの四人が東棟に決まった。東棟の角部屋には美姫と綾芽、最後まで残った僕と真姫が残りの部屋から選んだ。


「今渡した鍵はキチンと自分で管理してよ。それと、今僕達はちょっとした有名人だから、外での行動には気をつけてね。何処で誰が見てるか分からないから、見られて恥ずかしい行動はしないように。食事は月火木金の活動日の朝と晩は、僕の母さんに来てもらって作ってもらうことにしたよ。クランの運用資金からパート代を出させてもらうね。それから自分の部屋以外の掃除をどうするか決めないといけない。何か良い案はないかな?」

「自分達で分担して行うのはダメですか?」

「ダンジョンの探索で疲れているのに、更に広範囲の掃除は無理だと思うよ」

「私の母が専業主婦なんですけど、私が卒業してから子育てが終わってしまったと言って寂しそうにしていたので、掃除の仕事をするか聞いてみても良いですか?」

 

 真琴が素晴らしく良い案を言ってくれた。


「それは助かるよ。都合の良い時間だけで良いから来てくれると助かるよ。是非聞いてみてね。ダメならまた考えよう。明日は一日休みにするよ。住み込む四人には悪いけど、明後日は京都にバトルスーツを取りに行かないといけないから、今日と明日で大事なことは終わらせてね」


 僕も部屋にベッドとソファーぐらいは置いて休めるようにしておこうかな。





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る