第84話 ジャケット作り

 橘家で魔物肉の料理を堪能した次の日からも、月火木金は岡山ダンジョンでパーティメンバーと一緒に探索をした。毎日二十六階層から三十階層の探索をして、個人の戦闘力の向上とパーティとしての戦略的な戦い方の習熟を目指した。


「また気持ち悪くなったっす。魔力ポーションを飲むっす」


 詩音は毎日魔力枯渇になりながら、新しい剣を使いこなそうと練習している。付与された効果は正輝の剣とほぼ同じであるが、持つ人が変わると使い方も変わるんだなと思い知らされた。口には出さなかったが、僕はどこかで正輝のような高火力の一撃を期待していたようだ。【風林火山】と【変幻自在】全く違うユニークギフトが表すように個人の能力が違うのだ。【変幻自在】によってどのようにマジックアイテムの剣を使いこなしていくのか期待しておこう。


 この一週間で延べ八回のボス部屋攻略をした。【豪運】スキルによるマジックアイテムの取得である。《千紫万紅》の戦力はまたもや上がったと思う。有用なマジックアイテムは三つあった。


 一つ目は真姫に託した自動修復と水魔法が付与された槍だ。真姫に槍を渡した時に、いきなり泣き出したんだ。どうして良いのか分からずオロオロしてしまった。皐月が僕を見て爆笑していたよ。真姫は嬉しすぎて感情がコントロール出来なかっただけらしい。自動修復と重量軽減の効果のある槍は詩音に所有権を移して装備してもらうことになった。


 二つ目は剛腕の腕輪。僕は皐月に装備してもらおうと思い皆に提案したが、皐月には既に剛力の腕輪があるからという理由で却下された。代わりに僕が装備することになった。皆からメインアタッカーとして期待していると言われて気を引き締めた。


 そして三つ目は風魔法のスキルオーブだ。《百花繚乱》に在籍していたときに、弓術士の心春が風魔法で矢の威力を爆発的に上げているのをずっと見てきた経験から、美姫にスキルオーブを使用するように提案した。


「私はこの前【鷹の目】のスキルオーブを使用したばかりですし、他の人が使う方が良いと思います」


 何を遠慮しているのか分からないが、僕は美姫が使うのが一番良いと確信している。


「想像してみてね。矢に風魔法を纏わせるんだ、どれだけ速度が上がると思う。その矢が魔物に突き刺さるんだ、どれだけダメージを与えられると思う。美姫の一撃が威力を増すほど《千紫万紅》は強くなるんだ」


 美姫も皆も納得してスキルオーブを使用してもらった。


 今回から魔力ポーションはすべて買取りに出さずストックしておくことにした。魔法使いと魔法の付与されたマジックアイテムをこれだけ所有している探索者のパーティは《千紫万紅》と《百花繚乱》しかないと思う。更にマジックアイテムの質は比べるまでもなく圧勝だ。魔力ポーションは《千紫万紅》の必需品、それぞれが収納していつでも使えるようにしている。


 余談だが、五百万円のマジックポーチがまたもや出てきた。色は紺色、大盾を入れることは出来ないが皐月に装備してもらうことになった。これで四人が収納道具を持ち、一人は収納のスキル持ちである。遠征するときには準備に困らないだろう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「児島に全国的にも有名な工房がありますよ。元々児島は国産ジーンズ発祥の地で繊維のまちとして有名ですからね。そこのジーンズ会社の息子さんが付与のスキルを得たのを切っ掛けに、ダンジョン装備の工房を会社内に作ったんですよ。仕事が丁寧だって評判になっています」 


 レアモンスターの皮を加工してくれる工房を中里さんに教えてもらい、紹介状まで書いてもらった。一日休みを作り、皆で工房を訪ねることにした。


「すみません。岡山ダンジョンの中里支部長の紹介で伺わせていただいた者です」

「ああ、中里さんから話は聞いているよ。優秀な探索者さんだって聞いていたけど、まだ若いんだね。こりゃー将来が楽しみだ」


 最初に対応してくれた感じの良い三十代後半に見える人がこの工房の主人だった。職人さんだから勝手に怖そうな人を想像していたよ。優しそうな人で良かった。


「レアモンスターを討伐したときの皮で、探索者用のジャケットを作ると聞いているんだけど」

「はい、レアモンスターの皮は防具にしたら一級品の物になると聞いたのでお願いしたいと思いました」

「レアモンスターの皮は一回しか加工したことがないから楽しみだ。ジャケット作り請け負うよ。今度皮を持ってきてくれたらすぐに制作に取りかかるよ」

「今その皮を持ってきているんですけど、今日お渡ししておいても良いですか?」


 皮を出す場所を指定してもらい、そこに腕輪から取り出した。


「想像以上に大きいな。五人分作っても余りそうだね。デザインはどうする?付与もした方が良いのかな?」


 ジャケット制作を決めたときには詩音はいなかったが、詩音もジャケットを作ることに賛成した。デザインは見本の中から選ぶことにした。それぞれ別々に選んだので少しずつ違うデザインの物になった。皆自分が一番カッコイイと思っている。そして衝撃耐性と温度調節の付与をしてもらうことにした。材料が持ち込みであることと中里さんの紹介であることもあり、一着当たり百万円で制作してくれることになった。かなり安いと思うのだが良いのだろうか?


「制作には一カ月かかるから、出来たら連絡をさせてもらうよ」


 帰りの電車では、出来上がりのジャケットを着ている自分を想像していた。一カ月後が楽しみだな。










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