第83話 新幹線の中、そして不穏な言動
《千紫万紅》が休みの日の土曜日の朝に、私は実家のある山口市に向かって岡山駅から新幹線に乗り込んだっす。新幹線は自由席だったっすけど、幸運にも席にすわれたっす。これもリーダーの【豪運】スキルのお陰っすかね。………そんな訳ないっすよね。
私は小さい頃からダンジョン情報を見るのが大好きだったっす。テレビや雑誌、そしてネットなどあらゆる媒体から最新のものを得ていたっす。特に好きだったのが、トップ探索者についての情報っす。
私が中学生に入ったばかりの頃に、初めてBランクダンジョンを踏破した《東京ナイツ》の加納創一さんと榊伊織さんにも憧れたっす。でも、黒澤世那様が率いる《Blackアマゾネス》と赤峯美紅様が率いる《Redソルジャーズ》がBランクダンジョンを踏破した時は、心が震えたっす。女性だけのメンバーでの快挙ということもあると思うっすが、画面越しでもお二人はキラキラと輝いて見えたっす。更にお二人が一緒のクラン《Black-Red ワルキューレ》を立ち上げたときには、もう興奮しっぱなしだったっす。
私は十五歳の誕生日に【変幻自在】というギフトを授かったっす。恐れ多くも憧れのお二方と同じユニークギフトギフトっす。考えるまでもなく、国立福岡ダンジョン高校への進学を希望したっす。両親も心配しながらも、賛成してくれたっす。
高校へ入学後は、同級生とパーティを組んだっす。何度かメンバーは入れ替わり、途中では探索者としてやっていくのは無理かもしれないと思った時期もあったっすけど、高校三年生でDランクダンジョンを踏破したっす。その時はちょっとした英雄気分を味わったっす。嬉しかったっす。
高校卒業後も、プロになろうと約束した同じメンバーで継続してパーティを組んだっす。順調にキャリアを積み、Cランクダンジョンも一年と掛からずに踏破したっす。その後も約一年、Cランクダンジョンで研鑽したっす。この頃が一番充実していたのかもしれないっす。お金は実家に頼っていたっすけど…………。
Bランクダンジョンを探索し始めてから、少しずつおかしくなっていったように思うっす。
プロはBランクからと言われるように、攻略難易度が上がったっす。確かに実入りは良くなったっすけど、五階層進むのがしんどくなって来たっす。私は残念ながら、メインで魔物をバッサバッサと倒すことは出来ないっす。どちらかと言えば補助的な立場っす。いつももどかしさを感じていたっす。
とうとう危惧していたことが起こったっす。福岡ダンジョンの三十階層のボス部屋を攻略出来なかったっす。三度チャレンジしたっすけど、三回ともボス部屋から帰還石でダンジョンの外に逃げたっす。
犯人探しが始まったっす。私がターゲットになったっす。確かにメインのポジションを張ることは出来ないっすけど、私さえ入れ替えれば上手く行くと言われたっす。悲しくて何もする気になれなかったっす。その時は美姫だけが庇ってくれたっす。
気落ちしたまま山口の実家に帰ったっす。今まで応援してくれた家族には、本当に申し訳なかったっす。
山口でも探索者は続けたっす。でも、Bランクダンジョンに入れそうなパーティはなかったっす。そりゃあそうっすよね、Cランクダンジョンしかない山口に、そんなパーティがある訳無いっすよね。落ち込んだっす。元のパーティメンバーにBランクダンジョンでもやれることを見せたかったっす。
元パーティメンバーの美姫とは、パーティ解散後も連絡を取り続けていたっす。最初は電話で愚痴の言い合いになっていたっすが、七月に突然Aランカーの人の面談を八月に受けることになった、うまくいけばパーティを組んでもらえると連絡して来たっす。
岡山も山口と同じで、Cランクダンジョンしかないと美姫は言ってたっす。そんな所にAランク探索者がいるなんて奇跡としか言いようがないっす。
すぐに美姫から連絡があり、そのAランカーとのパーティに姉の真姫と一緒にお世話になることになったと伝えてもらったっす。
それからの美姫との電話は、美姫のパーティについての話が中心になったっす。新しく生意気なタンクが入った、パーティリーダーと一緒に運転免許証を取りに行っている等、話をするときには美姫の言葉が輝いていたっす。羨ましかったっす。電話後は落ち込んだっす。私を庇ってくれた親友の楽しそうな話を喜んであげられない、私は本当に嫌な奴っす。
「今度うちのテストを受けてみませんか?リーダーがいつでもオッケイだと言ってくれました」
美姫から願ってもない連絡をもらったっす。居ても立っても居られず、連絡を受けた次の日の始発の新幹線で岡山に向かったっす。
テストでは美姫達の口添えもあり、何とかパーティに入れてもらったっす。パーティメンバー同士が滅茶苦茶仲が良いっす。最高っす。
テストの時にも思ったっすけど、探索時のドロップアイテムや宝箱がおかしかったっす。後でリーダーのスキルを教えてもらって納得したっす。………いや、納得は出来ないっす。高校から今までの探索者としてやって来た日々は何なんだったのかと思ったっす。
リーダーが入っての探索では心が震えたっす。あの黒澤様と赤峯様の活躍を見聞きした時以来っす。元のパーティメンバーのメインアタッカーなんて足元にも及ばないっす。圧倒的な強者っす。
探索後に、お話を聞いたっす。リーダーはEランクダンジョンを高校一年の夏休み初日のたった一日で踏破してたっす。続けてDランクダンジョンも、Eランクダンジョンを踏破した次の日のたった一日で踏破したそうっす。更にCランクダンジョンも高校を卒業してすぐに、たった五日間で踏破したらしいっす。パーティメンバーが強かったんだけどねと言っていたっすけど、開いた口が塞がらなかったっす。
世の中には凄い人達も居るもんだと痛感したっす。私達がBランクダンジョンの三十階層が超えられないのも、当然だったのかもしれないっす。
リーダーからは、マジックアイテムの魔力回復の指輪と魔法剣を託されたっす。両方合わせて約一億円っす。今回は心よりも手が震えたっす。責任重大っす。
今その指輪を嵌めている手を見てたっす。決意も新たに、リーダーと私を気遣かってくれた美姫、そして新しいパーティメンバーの為にも精一杯頑張るっす。
一つだけ、リーダーに嘘をついてしまったっす。この口調はまだ作っている部分があるっす。これは永遠に内緒っす。
◯●◯●◯●◯●
「オウヨ、スベテヲムコウニスルアレヲツカワセテクレ。アイツヲタメシタイ」
青い魔物は、王と呼ぶ魔物の前で力強く願い出た。
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