第80話 詩音
月曜日はいつものように朝の鍛練をおこない、いつものバスに乗って岡山ダンジョンに到着した。探索者センターの中のいつもの場所でパーティメンバーと落ち合い、着替えた後に、いつものようにダンジョンに入る手続きをする。いつもと違うのはパーティメンバーの人数だ。
「君、誰?」
「
何で昨日の今日でいるんだよ。美姫も連絡くれてもいいと思うんだけど。
「リーダーごめんなさい。昨日あれから詩音に連絡を入れたら、今日の始発の新幹線で岡山に来てしまったの。朝早くからリーダーに連絡するのも悪いと思い、後でしようと思ってたら連絡しそびれてしまって、本当にごめんなさい」
「麟瞳さん、美姫をあまり責めないで。面白そうだから黙っておこうと言ったのは皐月と私なの」
「オレは真姫が言うから、面白そうだと言っただけだろ。着替えに行くときにリーダーが気づいてないのが笑えたぞ」
「じゃあ僕は真姫を責めれば良いんだな」
「いやいや、そこは美姫を許しておしまいでしょ」
「黒幕が分かったんだ。おしまいにする訳にはいかないだろ」
このパーティは切っ掛けがあればすぐに不毛な会話に進んでいくな。今回は僕も一緒に入ってしまったけど。
「原田さん、すみません。うちのパーティはいつもこんな風になるんですよ。大体真姫が主犯です」
「皆仲が良いっすね。羨ましいっす。私のことは詩音って呼んで欲しいっす」
「じゃあ、詩音って呼ばせてもらうよ。話は練習場でしようか」
受付を終わらせて武器ケースの封印を解いてもらい練習場へと移動した。
「美姫、今日の探索の配分は言ってあるのか?」
「ええ、いつもの配分を伝えてます。詩音も納得してここに来ている筈です」
「今日の配分には文句ないっす。自分の力を見てもらってパーティに入れてもらいたいっす」
「詩音はどのポジションでもこなせると聞いているんだけど、特にやりたいポジションはないの?」
「一つのポジションにこだわったら私の良さが出せないっす」
「今日はタンクとアタッカーの両方を見せてもらおうかな?盾は用意してないの?」
「用意してるっす。スキルで盾は出せるっす」
「それは凄いスキルだね。最後に一つ聞いて良い?」
「何でも良いっすよ」
「その話し方は素なの?それとも作ってるの?」
「最初は作ってたっす。ずっと使っているうちにこれが普通になったっす」
………詩音の言葉に心が納得していないが………探索を始めよう。ダンジョンの外側の扉を探索者証を通してくぐり、パーティ登録をしてから転移の柱に皆で触れて一階層に転移する。転移した場所はセーフティーゾーン、ここで最後の確認をしておく。
「最初はゴブリンが多くても三匹の集団だ。アタッカーをしてもらおうと思うが、タンクは必要か?」
「普通のゴブリンなら大丈夫っす」
詩音の武器は片手剣、単独ゴブリンに静かに近づき切りつける。今度は二匹のゴブリンを相手に槍で突く。そして連続で突く。ん、おかしいぞ?
「いつ武器を持ち替えたんだ?それに最初に使ってた剣は何処にいったんだ?ああ、言いたくなければ、言わなくても良いよ。ちょっと気になったから、聞いてしまったんだ」
「これは私のアイテムボックスっていうスキルっす。よそでは言わないで欲しいっす」
「教えてくれてありがとう。アイテムボックスってラノベの定番スキルだよね。絶対に他の人に言わないから」
そういえば僕の腕輪もアイテムボックスと同じようなことが出来るんだよね。もしかしたら、とんでもない攻撃が出来るのかも知れないな。ただ、手で触れないと収納できないし、取り出すときも手で触れている。この制限がある中で何が出来るか考えてみようかな。
探索は進み四階層に続く階段を降りる。
「次の階層から五匹のゴブリンパーティも出てくる。タンクがいた方が良いと思うんだが必要か?」
「普通のゴブリンなら大丈夫っす」
今度は左手にバックラーという丸盾を装備して右手には剣を持ち進んでいく。複数のゴブリンを相手に攻撃をバックラーでいなして剣で切り付ける。途中で短槍に持ち替えて刺突攻撃を仕掛ける。自由自在に武器を持ち替えて攻撃を加えるのが詩音のスタイルのようだ。五階層のボス部屋に着いた。
「ここのボス部屋は六匹のゴブリンパーティで、ゴブリンファイターが入ってくる。タンクを入れて戦うか?」
「じゃあお願いするっす」
「皐月、頼んだぞ」
「やっと出番だ。任せておけ!」
ボス部屋に入り、扉が閉まる。戦闘の開始だ。皐月が挑発でゴブリンの注意を引き、誘っている。そこに静かに近づき槍で仕留めていく。一匹ずつ確実に仕留めてすべて討伐した。
「凄いっすね。私には全然ゴブリンの視線が来なかったっす」
銅色の宝箱が現れた。中身を回収してボス部屋奥の階段を降りて六階層の転移の柱の前に来た。詩音の登録をして、少し早いがセーフティーゾーンでお弁当を食べよう。
今日の弁当は四人とも同じで、橘父さんの作品だろう。詩音は本当に朝早く岡山に来たようだな。
「麟瞳さん、父がこの前貰ったお弁当ほど美味しく出来ないって悩んでいるのよ。何か魔物肉の料理のコツとかあるのかしら?」
「僕に聞いても分からないよ。うちは全部母さんが料理をするからね。今度コツがあるか母さんに聞いてみるよ。今日も皆の弁当は真姫と美姫の父親が作ったのか?」
「ええ、とても美味しいんだけど、父は納得してないのよ」
料理もいろいろ難しいんだろうね。僕は食べるの専門で良かったよ。
「詩音、ここからはタンクをしてほしいんだけど、何かアタッカーに注文を付けることはあるのか?」
「三匹以上を同時に捌くのは厳しいっす。自分でも受け止めながら右手の槍で攻撃するんで、左側から攻撃を加えて欲しいっす」
「真姫、出来るか?」
「了解したわ」
食後に水分補給もして探索を再開した。
詩音は中盾を装備して先頭を進む。五匹のゴブリンパーティにエンカウントした。
「こっちに来るっす!」
中盾を両手で構えてゴブリンに向かっていく。ゴブリンが棍棒を振り回して来るところを両手で受け止め、勢いがなくなったところで盾を片手で持ち、右手の槍で攻撃する。バランスが崩れたゴブリンに真姫が止めを刺す。次々と向かって来るゴブリンを盾と槍のコンビで捌いていく。まるで手品を見ているような戦い方だ。槍の出し入れが目まぐるしい。最後のゴブリンを真姫が倒した。
「不思議な戦い方だ。これがいつもの詩音の戦い方なのか?」
「そうっす。皐月のようながっしり受け止めるようなタンクは出来ないっす。メインは任せて、周りの敵を倒す役割が多かったっす」
「美姫とのコンビでゴブリンの相手は出来るのか?」
「私の念話で会話しながら倒していました。六年間同じパーティでしたから息は合っています。次のゴブリンパーティは私と詩音で相手をして見せましょうか?」
「ああ、お願いするよ」
六匹のゴブリンパーティにエンカウントした。詩音が先ほどと同じように盾を構えて向かっていく。棍棒を振り回して来るゴブリンを盾で左に受け流す。そこに美姫の矢が突き刺さる。右に左に受け流す度にゴブリンは矢の餌食になっていく。確かに息がピッタリだった。
真姫と美姫を交互に相棒として討伐を繰り返す。六年間の積み重ねの凄さを感じる。美姫とのコンビは安定感が段違いだ。ボス部屋の前に到着した。
「六匹のゴブリンパーティで、ゴブリンアーチャーが入ってくる。先に美姫がアーチャーを倒して、残りを詩音と真姫で倒そうか」
「一人でやってみていいっすか。いいところを見てほしいっす」
「ゴブリンアーチャーの相手はどうするんだ?」
「【投擲】スキルを持っているっす」
僕が欲しかった【投擲】スキルまで持っているのか。詩音は一体いくつのスキルを持っているのだろうか?
ボス部屋に五人で入り、扉が閉まった。詩音の投擲で戦闘が始まった。ナイフを投げたのだろう、ゴブリンアーチャーの肩に刺さっている。その隙に他のゴブリンに向かっていく。左手にバックラー、右手に片手剣のスタイルだ。バックラーで攻撃を受け流し、剣と槍をチェンジしながら攻撃を仕掛ける。少しずつダメージを与え、ゴブリンアーチャーにもう一度ナイフを投擲する。しばらくして、すべてのゴブリンが消えていなくなった。
ドロップアイテムと銅色の宝箱の中身を回収して次の階層にやって来た。取りあえず詩音が転移の柱に登録した。少し離れた場所で四人で話し合う。
「皆、詩音をパーティメンバーに迎えるのか決めていこう。意見がある人は発言してくれ」
「私から見れば、まだまだ詩音の力はこんなものではないです。火力がないから連携が必要になります。お互いの理解が進めば大きな戦力になっていくと思います」
「そうよね、美姫との連携は良かったもの。私はまだまだ上手く連携出来ていない感じだったわね」
「オレが一番強い相手を止めている間に、他を守ってくれると安心だ」
三人は好意的に詩音を捉らえているようだ。もう少し火力があればと思うのだが………。
「火力がもう少し欲しいと思うんだが、皆はそこのところはどう思っているんだ」
「正直に言いますね。今の詩音は最初に会ったときのリーダーとよく似ていると思います。飛ぶ斬撃の攻撃が強力でしたから簡単にゴブリンを倒していましたが、自分は火力が足りないとよく言ってました。今の詩音はリーダーからあの刀を取った状態です。工夫をして相手を倒します。とにかく頭をフル回転させて相手をしていきます。どこかで化けるかも知れないと思っています。リーダーが刀と魔法で変わったように」
「確かに僕は火力の無さに悩んでいた。そのために求人票で美姫のような遠距離攻撃者を求めたんだよな」
最近立て続けにメンバーが増えて、Cランクダンジョンなら完全攻略出来る自信がある。でも、所詮Cランクダンジョンだ。Bランクダンジョンに通用するかは今のところ分からない。皆のレベルアップがなければ厳しいように思う。そのために高火力のアタッカーを欲していることは意識している。急ぎ過ぎているのだろうか?皆のレベルアップか?
「皆は詩音をパーティに入れるで一致しているんだよな」
三人とも力強く頷く。これで決定だな。
「新しい仲間の誕生だね。じゃあ伝えに行こう!」
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ランク:B
名 前:原田 詩音
スキル:変幻自在 アイテムボックス 剣術 ヒール 盾術 槍術 投擲 忍び足 罠解除
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「詩音もユニークギフト所持者なんだな。それにスキルの数がハンパないな、九つもあるぞ。ヒールというのはあの回復魔法のことなのか?」
「そうっす。パーティメンバーが探索中に怪我を負ったときにスキルが発現したっす。多分【変幻自在】スキルのおかげっす」
「ポーションが要らなくなるな」
「魔力が足りてないのか、【ヒール】はあまり使えないっす」
「その話し方、何とか普通にならないか?」
「無理っす」
………ダンジョンの外に転移しよう。
※※※ ここから後書きです。本編とは全く関係ありません※※※
鱗瞳問題、解決しました。
第67話に紛れていたようです。もう喉に刺さっていた小骨が取れたような爽快感です。まあ、喉に小骨が刺さったことは一回も無いんですけど………
発見して頂きありがとうございます。
そして、協力して下さった全ての方々に感謝します。
一箇所だけしか鱗はなかったそうなので、これで安心して続きが書けると思います。………本当に書けるかな?
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