第15話 《桜花の誓い》と倉敷ダンジョン十一階層の転移の柱へ
四時半にセットされた目覚ましの音で起きた。すぐに冷たい水で顔を洗って頭をシャキッとさせようとするが、まだ頭がボーっとしている。完全に寝不足だ。
「母さん、これ受け取ってよ。少ないけどね」
「別にいいよ。麟瞳は私達の子供なんだから」
「いやいや、僕もう社会人だからね。それにこっちに帰って来てからの方が断然稼ぎが良いんだよね。もうビックリするぐらいだから、遠慮せず貰ってよ」
「分かったよ。これで美味しいもの沢山作るよ。期待しときな」
「美味いものといえば昨日魔物の肉をゲットしたんだ。それも渡しておくよ」
収納の腕輪から昨日の戦利品のお肉を全て出してみる。
「量が多いよ。今日食べたいのだけ出して、残りは麟瞳が持っておきな。腐らないんだろ」
朝早くから朝食と弁当を作ってくれている母さんに、角有りウルフの肉と昨日現金で貰った五万円を生活費として渡しておく。
起きてきた綾芽と一緒に朝食を食べてから、弁当を受け取りそのままリビングでストレッチをする。収納の腕輪があると準備が楽だ、時間直前にジーパンとTシャツに着替えてお出かけだ。
時間に余裕を持って駅に着き、電車に乗り込んだ。この時間だと十分席も空いているから、ちょっと得した気分になる。席に座って綾芽と話をしていると女の子が三人近づいてくる。綾芽のパーティメンバーのようで、簡単な挨拶をしているとあっという間に倉敷駅に到着した。5人一緒にダンジョンまで歩いて行くと、最後のパーティメンバーが既に探索者センターの前で待っていた。着替え終わったら受付付近で待ち合わせという約束をして更衣室へと移動する。
今日は綾芽のウエストポーチがあるのでリュックは無しにして、着替えのバッグと武器ケースを持って受付へと向かう。まだ綾芽達は来ていないようだ。
「ゴメン、お兄ちゃん待った」
「いや、今来たところだよ」
もっと別の女性としたい会話だなと思ってしまう。皆揃って受付に行きましょう。狙った通りまだ人は多くなく、すぐに呼ばれて窓口へ移動する。武器ケースの解除をしてもらって、荷物とケースを預かってもらうのはいつもと一緒だ。
全員の受付が終わり、訓練場へ移動し体をほぐしながら自己紹介、まず僕からだ。刀を使っての近接戦闘が得意で、もしもの時は助けるが基本的に手を出さないことを伝える。
続いて綾芽達のパーティ《桜花の誓い》のメンバー紹介だ。まず綾芽は薙刀のアタッカー、戦闘は見たことがないけど【身体強化】のギフトを持っているので結構やれそうな気がする。次に槍のアタッカーが
自己紹介後はフォーメーションを簡単に確認してから早速ダンジョンへと移動する。折角早く来たのだ、混んでしまっては勿体ない。
《桜花の誓い》の五人はダンジョンカードを重ねてパーティ登録を行い、転移の柱から一階層へ転移して行った。パーティメンバーではない僕はその後に続いて転移しセーフティーゾーンで《桜花の誓い》と合流し、攻略開始である。
昨日とは違ってある程度人はいるが十分戦闘するスペースはある。出来るだけ人がいない所を通って二階層への階段を目指す。
早速頭突きラビットとエンカウント、突進を黒盾で受けてラビットの体勢が崩れた所を槍で仕留めた。危なげなく討伐した後にドロップアイテムは何もない。初めて見る光景に唖然とした。不思議でならない。
一匹ずつエンカウントするので、メンバーが代わる代わる順番に仕留めていく。銀盾の山吹と綾芽、黒盾の桃と槍の遥が組になって対処する。遠くに見つけたラビットには弓の真琴がアタックする。うまく機能している。ビッグラビットの突進にもびくともしないタンク、踏み込み鋭く急所を突く槍術士、遠距離から的確に射抜く弓術士、そして【身体強化】を随所に発揮し、あっという間に獲物を仕留めていく綾芽。うん、僕は要らないな。【身体強化】ってユニークギフトじゃないんだよね。僕より確実に強いと思うけどな。後は経験を積んでいけば綾芽も《桜花の誓い》も将来有望である。因みに名前呼びになっているのは皆からそう呼ぶように言われたからだからね。
六階層の転移の柱で綾芽達が登録し、セーフティーゾーンで少し休憩を入れる。荷物は綾芽のマジックポーチで管理している。スポーツドリンクを受け取り水分補給していると感想を求められた。
「思っていたよりも練度は高いし、今の所申し分ないと思うよ。後は八階層からのウルフ戦だね。五人でしっかりフォーメーションを組んで冷静に対処できれば良いけどね」
よし、十一階層の転移の柱へ向けて出発しよう。
七階層までは順調に進んで、いよいよ八階層のウルフエリアに到着した。
「お兄ちゃん、最初のウルフ戦で戦い方を見せてよ」
「いいけど、複数と接敵すると討ち漏らしが出るかもしれない。それは自分達で対処しろよ」
「うん、分かった。昨日映像を見たから、私はだいたいどうなるか分かっているよ。大丈夫!」
ということで、今日初めての戦闘を仰せつかった。お兄ちゃんとしていいところを見せたいものだ。
三匹の角無しウルフ、いつも通りこちらから突っ込んでいく。一匹だけ反応してこちらへ向かって来るが、僕にとっては好都合だ。直前で躱し首を狙う。残りの二匹も突っ込んで来る所を躱して切り付ける。普段は一匹はスルーして二匹目を狙うが、討ち漏らすと今日は綾芽達がいるので、一匹目は機動力をなくすために足を狙い水平に一文字斬り。二匹目を討伐した後に一匹目にとどめを刺して討伐を完了し、ドロップアイテムを拾う。
「こんな感じだな。はいこれ、ドロップアイテムだ」
「いや、それはお兄ちゃんのだよ。お肉二つもドロップしたね。あ、でもそうか。預かっておくからね」
綾芽が、僕荷物持てませんという設定を思い出したようで、急いで魔石とお肉をマジックポーチに収納する。まあ、それはいいとして簡単に注意点だけ皆に説明しておく。
「見える範囲で三十匹ぐらいいるけど、一遍に襲って来る事はないから焦らないように。近づく距離に反応していると思う。だから逃げ回ることは絶対にしないように、モンスターパレードが起こるかも知れないからね。大体三匹から六匹の集団だ。今みたいにこちらから仕掛ければ、単純に突っ込んで来る事が多い。たまに回避するのもいるけどね。でも、待ってると自由に動き回るから少し厄介になる。特に数が増えればそれだけ難易度が上がっていく。だからアタッカーは自分から動いて行く、そしてタンクは弓術士を守る事に専念した方がいいと思う。アタッカーも弓術士の射線に気をつけながら動かないとダメだからな。声を掛け合いながら上手く対処していかないといけない。最初は一戦毎に話し合って戦い方を修正していけばいいと思う。とりあえず一戦やってみよう」
ということで、三匹の角無しウルフに向かって行く。アドバイス通り左右から槍と薙刀で攻撃を仕掛ける。槍の遥が突っ込んで来るウルフに怯んで大きく回避し、二匹のウルフが後方のタンク目掛けて突っ込んで来る。一匹ずつ大盾でブロックしたところを僕がとどめを刺した。綾芽は上手く対処出来ていた。やっぱり【身体強化】優秀だな。
「ごめんなさい。私ちょっと怖くなって」
「私もこんなに接近してからの攻撃は初めてで、味方に当たるかもと思ったら射れなかったわ」
遥と真琴が自信をなくしているようだ。
「そんなに気にすることはないよ。今までと戦い方が違うんだから失敗して当たり前だ。遥は大きく避けすぎたね。このクラスのウルフはフェイントを入れずに直線的に突っ込んで来るから、出来るだけ引き付けてほんの少し横にズレれるだけでいいんだ。または槍だから最初に攻撃してから回避しても十分に間に合うと思うよ。最初は怖いかもしれないけど慣れるしかないね。後ろに逃しても大丈夫だから感覚を徐々に掴んでいこう。それから真琴は最初に一射入れればいいだろう。左右から攻撃を仕掛けるから真ん中はがら空きだ。そこで一匹でも仕留めれば大きく貢献できる。まずはそこからやってみよう」
次は四匹の角無しウルフと出会う。綾芽と遥が左右から攻撃を仕掛ける。今回は真琴が最初に上手く弓で一匹仕留めた。残り三匹、今回も遥の方に二匹が突っ込んで来た。一匹目を槍で突くがタイミングが会わず空振りし、そして回避。一匹は後方を狙って来たが、もう一匹は遥の方にUターンする。後方に突っ込んで来るウルフは今回盾を構えて待っている桃を横から狙って来る。慌てて盾を横に振り何とかウルフの攻撃を止めた。体勢の崩れたウルフに僕がとどめを刺した。遥は後方から再度突っ込んで来るウルフを直前で回避して上から槍の柄の部分でたたき落とし、刺突でとどめを刺した。綾芽は軽く一匹倒している。
「二匹だと焦っちゃいますね。失敗しました。でも少し分かってきたように思います」
「焦った。早く構えるダメ。よく見て対処」
「まず最初に一匹確実に仕留める事ができるように頑張るわ」
遥、桃、真琴がそれぞれに感想を言っている。良いことだ。とにかく話さないと進まない。
「真琴も遥も断然良くなったね。特に遥の失敗した後の対処は良かったと思うよ。二匹以上が向かってきたら最後の一匹だけを狙えばいいよ。それ以外は後に任せればいい。確実に一匹仕留めてから後のことは考えよう。桃はもっと引き付けないとウルフに主導権を握られるのが分かったと思う。よく見てから盾を構えても十分間に合う。よし、次に行こう」
戦闘を重ねるうちに、五匹までのウルフなら五人だけで倒すことができるようになった。そして十一階層の転移の柱に到着した。セーフティーゾーンでお昼ご飯を食べて一旦休憩にしよう。
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