薪が如く
松田勝平
第1話
───空の下、一つの国があった。
…街があり、城があり、広大な大平原がそれらを包む。
風が吹き、平原にぽつぽつと生えている木を揺らした。
その平原の中に、いくつか引かれた、白い線───交通道。
城下町を起点に、無数に枝分かれする"それ"は、やがて、ぽつんと立てられた、大きな家へと辿り着く───。
「…。この理論は…こう、か。でも……。」
大きな家の中でも、沢山の本が存在する場所───書庫。
"貴方"は、そこで、"父"が残した"魔導理論"についての事を学んでいた───
「───魔法、又は、魔導、魔術とも呼ばれるもの。」
「それは、体内に存在する"魔丹"より放出されるエネルギーを利用したものである。」
貴方は、辛抱ならんと言った様相でページをめくる…。
…貴方がめくったページは、"魔力量"のページだった。
「…"魔力量"の増大には、毎日の鍛錬が必要不可欠、とにかく、魔丹を酷使すべし…。」
「………また、それか。」
…貴方は、一つため息をついて、その本を閉じた。
(そんな方法は、十年も前からやっている…!)
…貴方の名は、【シャルル・アンリ】。
貴族たるアンリの家の"長男"であり、魔力量不足に苦しむ17歳の少年。
「…久しぶりに、アレを、試して見るか。」
眩い金髪をガシガシと掻いて、貴方は"父"の書庫より一つの物品を取り出す。
それは、ある透明な"溶液"が入った、手に収まる程度の大きさのガラス玉のようなものだった。
「───……は…っ!」
そのガラス玉を両手で包み、貴方は"魔力"を放出する…。
幾つもの青い粒子が、ガラス玉へと入って行く…!
「………やはり、中の下か…っ!」
…ガラス玉にいくら魔力を注ごうとも、その中の溶液の色は、くすんだ緑色から動かない。
緑色に変化するということは魔力量が平民程度であるということを示す。
…これは、貴族では、本来ならありえない事だった。
魔力量が高い者同士の血族が、貴族であり、本来なら、彼らの魔丹は大きくあるはずである。
「…くそ…っ。」
貴方がいくら魔力を注ぎ込もうとしても、溶液は碌な反応を見せなかった。
「…なんでだ。」
貴方は、泣きそうだった。
顔は苦渋を舐めたかのように、苦痛を示した。
(いや…せめて、俺が、"長男"じゃなかったら、良かったのに…。)
…貴方は、一ヶ月後にある"王立学園高等部"への進学試験に出ることになっている。
貴族であれば、そこが社交界への入り口であるため、もし、入学出来なければ───。
「他の貴族が、アンリの家を貴族の恥というだろう…。」
(…俺は長男だから、逃げたらそれはそれで、皆に迷惑がかかる…さらに、弟や妹の人間関係にも影響が出るはずだ…!)
「……はぁ…。」
……領地を持たぬ貴族の家であるアンリ家は、各々の代で"功績"を立ててきた一族である。
アンリには領民と言う後ろ盾はなく、貴方が頑張るしかないのだ───。
「…最近、シャルル兄様、様子がおかしい。ソワソワしてる…。」
「…多分だが、一ヶ月後の試験の事だろう。…兄さんは心配症だからなァ。」
その様子を、物陰から"きょうだい"達は覗いていた…。
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