第22話 サンタクロースになりたい人達

時は流れ、気付けば12月に入っていた。

公園のラクウショウも冬枯れし、寒さゆえ寂しい佇まいをみせていた。

街はクリスマス一色で、年の瀬の慌ただしさとともに賑わいをみせている。

晴れの日、光とナナは相変わらずラクウショウ下のベンチで過ごしている。

この時期さすがに公園で過ごす人は減ったが、元気なランナー達が通りすがりふたりに声をかけていった。


「いらっしゃいませー、あらこんにちは!光さん、ナナちゃん!」

「こんにちは、伊知子さん。今日もお元気ですね」

公園近くの、馴染みのドッグカフェわんだふるもクリスマス一色で、看板犬達もサンタの帽子でお出迎え。

「今日はクリスマスケーキの予約をお願いに来ました」

「あらうれしいわ!ありがとうっ。こちらの申込用紙にご記入お願いしますね」

光を待つ間、ナナは友達の看板犬達としっぽをフリフリご挨拶。みんなうれしそう。

とそこへ、またひとり常連客がやってきた。

「いらっしゃいませー、あら華ちゃん!おつかれさま」

「寒い~、伊知子さん温かいカフェオレとチョコケーキ!お腹空いた~」

三澄家にもよく配達に行く、フードデリバリーをしている華未だった。

「あっ、華未さんこんにちは。いつもお世話になってます」

「あらっ、毎度どうも」

午後3時のおやつ時。ランチタイムが終わりひと息つける時間だ。

光も同席し、午後のティータイムを楽しむ。

作家という仕事柄、人間に対しての興味が高い。

それは人の心の動き、感情を描く際に役立つため、リサーチを兼ねた人間観察を自然と行っているのかもしれない。

「もうすぐクリスマスですけど、やっぱりイベント事の日は配達大変ですか?」

「そうですね、やっぱりピザ系とか怒涛の注文ラッシュですからね。多分今年も朝から夜中まで走り回ると思います。仕事あるのはありがたいんですけど、考えただけで今からおそろしいっ」

そう言いながらも、表情はどこか楽しそう。

「クリスマスの日のデリバリーは、大変ですが自分がサンタさんになれたようで、ちょっとうれしいんです。相手に喜んでもらえて、報酬もザクザクで、寒さも忘れて顔がにやけちゃいます」

「ぶっちゃけ最高多い月でどれくらい収入あったんですか?あっもちろん言いたくなければ言わなくていいです、すみませんこんな話お金のこと他人に言うのは失礼ですよねほんとはこんなこと聞くの。でもお恥ずかしながら好奇心が勝ってしまいました」

饒舌にまくしたてる光をみて、華未は笑った。

「三澄さんっておもしろいですね。全然いいですよ、なんか変にばか正直で絶対悪人じゃない感じなんで、こちらも身構えず素直に話せるとこありますね」

「そうですか?自分じゃよくわかんないんですケド」

急に子供っぽくしゃべる姿がまたおもしろく、華未は吹き出してしまう。

「50万ちょいですかね」

「ご、50万っ!?」

今度は驚いて光が吹き出す。

「あれは去年の12月かな。在宅ワークが増えて需要が増えて、そのうえで年末年始の繁盛期が重なり、いい年越しになりました」

「すご…がんばりが認められるお仕事。やりがいがありますね」

「今年はサンタの衣装で配達しようと思います。SNSでバズるかも??」

「それいいですねっ」

仲睦まじい2人の姿をみながら、伊知子店長もクリスマス前の保護犬譲渡会のチラシ作りやSNSの投稿など、細かな作業を行っている。

「僕もサンタさんになりたいから、この後買い物行くんです。配達、今夜も気をつけて行ってきてくださいね」

「ありがとうございます。サンタさんになりたいって、三澄さんもサンタ衣装とかお買い上げですか?」

「あははっ、僕みたいなひょろっとしたサンタじゃ貫禄ないですね。大切な人にプレゼントを贈りたくて」

「大切な人へプレゼント…すてきですね。確かにサンタさんって恰幅のいいおじいちゃんのイメージですけど、私は見てみたいな~。三澄さんみたいな長身でかっこいいサンタさんも♪それじゃ、そろそろ行きますね」

「そう言ってもらえて光栄です。それではまた」

休憩を終えて華未は会計を済ませ出ていった。

温かい部屋から外へ出ると、北風が身に染みる。


「大切な人…やっぱり彼女とかいるのかな…。いいなぁ、三澄さんみたいな優しくてすてきな人に大切な人って言ってもらえる人」

同棲中のダメ男とは、最近関係が冷えきっている。

なるべく顔を合わせたくなくて、仕事を増やし距離をおいている。

いっそ別れたいが、行くあてのない相手は図々しく居座っている状態。

怒ると逆ギレしてめんどくさそうなので、刺激しないようにトドメを刺すことを保留している状態。

そんな華未だが、心に留めている言葉があった。

それは

『良いことをすれば、いずれそれが自分に帰ってくる』

ということ。

その気持ちで、今の仕事を続けている。

お客様、お店からの

『ありがとう』

もちろん、報酬ですぐに還元されるわけだが

例えばちょっとした心遣い、思いやりの言葉。

置き配のドア近くにゴミが落ちてたら捨てるとか、

誕生日ケーキのお届けにはおめでとうございます、

の一言を添えるとか。

自分だからできる心配りを大切に。

日常的に善行を積むことで、いつか必ず自分にも大きな幸せが戻ってくるんだ。

その一心で過去の辛さを乗り越えようとしている。

その一環が、クリスマスのサンタクロース作戦だ。


「誰かの幸せを願う。笑顔になってほしくて奔走する。そんなサンタクロースみたいな気持ちが溢れるクリスマスになればきっと、もっといい世の中になるよね、ナナ」

窓の外、自転車で走り去る華未を見送りながら、つぶやく光だった。


クゥン


ナナも同調するかのように、光に寄り添った。

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