第10話 姉弟のような親子
翌日、沙羅はお昼時にラクウショウの下のベンチにやってきた。
「ここ、いいですか?」
「あっ、こんにちは古田さん。どうぞ」
ナナもしっぽを振って大歓迎だ。
「今日はナナちゃんにもおやつ持ってきたんです。わんちゅーる食べますか?」
「うわー、これ大好きなんですよ。よかったねナナ」
つぶらな瞳をキラキラと輝かせながら喜んでいる。
沙羅の今日のランチはサンドイッチ。
「昨日三澄さんが食べてたベジサンドがおいしそうだったので、まねして作ってみました。まだまだ足元にも及びませんが」
たっぷりのサニーレタスに、ハムとチーズ入り。
「断面もきれいです!お料理上手なんですね」
「最近は仕事のストレスで食もすすまなかったので簡単なもので済ませていましたが、昨日対決して、あんな人達のことで悩んで胃をやられるなんてバカらしくなって。料理好きだったことも思い出して、健康のために食事ちゃんと摂ろうと思ったんです」
「とても大事なことですね。それより、対決って何があったんですか??」
沙羅はサンドイッチをモグモグして飲み込むと、昨日の出来事を打ち明けた。
「それは…なんとも思いきりましたね!」
「言いたいこと言えて、スッキリしました」
その言葉通り、昨日より表情が生き生きとしている。
「話を聞いていると、なんだかあの人達が哀れに思えてきました。学歴や職歴という鎧で身を固め、過去の栄光にしがみつき、今の自分に納得できない言い訳を延々と述べ、似た者同士でつるんで安心してるんですよね。私はそんな人達の悪口合戦には参加しない。そう決めたら、心がスっと軽くなりました」
「悪口や不満に関わってる時間がもったいないですよね。仕事中といえども、自分の時間は大切にしたいですよね」
お日様の下、気分晴れ晴れ食事がいつも以上においしく感じるふたりだった。
「昨日ここでたまたま三澄さんとナナちゃんに会えたことで、私の生き方が大きく変わり、心のモヤモヤも吹き飛ばしてくれました。ありがとうございます」
ピスピスピスピス…
ナナもうれしそうに鼻を鳴らして応える。
「きっと必要な時に、必要な出会いがあるんだと思います。僕らと古田さんがここで出会ったのも、偶然じゃない。そうだよね?ナナ」
クゥン
誇らしげに沙羅を見上げた。
「あれ…?」
「どうしました?」
少し先を、女の人と男の子が歩いている。
「お知り合いですか?」
「男の子が…最近コンビニで会って、ナナとお友達になった子なんだ。隣の人は…誰だろう」
男の子は光とナナがこの街で初めて友達になった小学生、大山誠。誠は手を引いてもらい、満面の笑みでとてもうれしそう。
女性の年齢は20歳前後といったところか。
長い茶髪でモデルのように細く、メイクもバッチリ。大きな瞳が印象的な超絶美人。
誠とよく似た顔立ちをしている。
…一緒にいるのはお姉さんなのか?
ミニのワンピースにジャケットを羽織って、ハイヒールで歩く姿はあまり公園にはそぐわない。
ナナに気づいて、誠のほうから声をかけてきた。
「ナナ!光兄ちゃん!」
この前の暗い表情はなく、元気。
「こんにちは誠くん。今日学校は?」
平日の昼間に私服でランドセルもないので、気になって尋ねる。
「お母さんがお仕事お休みだから、僕も休んでいいって」
「お母さん!?」
思わずふたりで声を合わせて叫んでしまう。
「はじめまして、誠がこの前コンビニでお世話になったみたいで、ありがとうございます。大山誠の母、瑠香です」
挨拶は見た目の派手さとは裏腹に、意外としっかりしている。
「お姉さんかと思いました、お若いですよね」
光の質問に、瑠香はあっけらかんと笑顔で答える。
「よく言われるんですよ~。誠は私が16歳の時に産んだ子なんで」
「えっ、じゃあお母様は今…」
「23歳です」
そりゃ姉弟に見えるわ…
ふたりの心中は同じことを思っていた。
誠は楽しそうにナナとふれあって遊んでいる。
「ふふ、あの子動物好きなんで。この前もうちでかわいい大きなわんちゃんと仲良くなったって、うれしそうに話してくれました。私身体が弱いので、あの日も食事を買ってきてもらってたんです」
「あ、そうなんですね」
光は誠の買い物の様子に納得した。
「うち父親もいないし、ひとりっ子だし学校で友達もいないみたいなので。仲良くしてくれる人がいてうれしいです、ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。誠、行くよ」
「はーい、ナナちゃん、光兄ちゃんまたね!」
大山親子は手を振って去っていった。
クゥンクゥン…
ナナは名残惜しそうに、寂しそうな声をあげた。
「なんか…いろんなご家庭があるもんですね。まぁうちに来る生徒さんもいろいろですけど」
「ナナ…あのお母さんのほうも何か感じるのかな」
三人三様(二人一犬)様々な想いを胸に母子を見送った。
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