僕らは『読み』を間違える 1.5巻 ~つまり、タイムリープはできないということ~

水鏡月 聖

第1話  序文

 ――事実は小説よりも奇なり。


 言わずもがな医ギリスの詩人バイロンの言葉だが果たしてそうだろうか。

 小説、あるいはフィクションというものは人間の願望の権化である。

 現実世界でたわいもない人間であってもその世界の中では天才となり勇者となり、時としては魔王にもなりうる。

 嫌われ者の自分であっても皆にちやほやされる存在になれたり、空を飛んだり魔法を使ったり、男が女になったりもできる。


 そして、時間を戻すして、犯してしまった過ちをなかったことにできたりもする。


 しかし、現実世界はそうはいかない。


 犯してしまった過ちは決して取り戻すことはかなわず、過ちの延長線上にしか生きることができない。

 

 果たしていつかの未来にタイムマシンは完成するのだろうか?


 それはあまり期待しないほうがいいだろう。もしいつかそんなものが完成するのであれば、今現在そのタイムマシンが現在に存在しないということが何よりの証拠である。

 もし未来にタイムマシンが完成するのであれば今現在よりも過去にタイムリープしようとするものがいないはずもなく、現在この世界にタイムマシンが存在しないはずもない。

 過去にさかのぼり、過去の人間にタイムマシンの製造方法を教えるものがいないなどということは考えにくいだろう。

 たとえば自分ならタイムマシンで過去に行き、これは自分が作ったのだと言い張り歴史にその名を残そうとするだろうし、自分がそれに失敗したとしても人類の未来が続く限りそれをするものは後を絶たず、どこかの時点で必ず過去にタイムマシンを持ち込むはずだ。


 タイムマシンが完成した後の未来がそんなに続くわけがないだって? 

 だったらタイムマシンを使って人類の滅亡を防げばいいだけのことだろう? 失敗しても、繰り返しやり続ければいいだけのことだ。


 ――ああ、なるほど。タイムマシンで過去に遡った世界線というものはこの世界とは別の世界で、だからこの世界には影響がないっていう理屈か……

 いや、だとしたらそれはそれでこの世界に起きた出来事は変えられないってことだろう?

 

 それって結局なんの意味もないじゃないか。そのタイムマシンが向かった先は、そうならなかったという別の世界に行っただけであって、その世界線の過去に行ったということではない。

 まあ、何が言いたいかっていうと……


 つまり、タイムリープはできないってこと。

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