レモンシャワー

メイ

第1話 始まり

 私には憧れている選手がいる。

 それは去年の夏に遡る。

 全国中学校バスケットボール大会、通称全中が幸いなことに私の住んでいる兵庫県で行われた。

 もちろん、バスケをする中学生なら誰でも夢見る舞台であり、当然私も全中を目指し、一生懸命練習した。

 しかし、結果は兵庫県予選二回戦負け、そんなに甘い世界ではないのだ。

 だからこの全中をみて少しでも多く学び高校で全国を目指すことを決意した私、長月優奈ことゆなはそんなことを心の中でぼやきながら会場を歩いていると、親友でありバスケ仲間でもある天海夏恋ことかれんに声をかけられた。

 「ねぇ〜ゆな、完全にちょーぜつかわいいかれんちゃんの存在忘れてない?」

 「忘れてないよ〜ん、それよりかれん見たい試合ある〜?」

 「中宮中の試合は見たいかな、あいつらがミスしたらやじを飛ばしてやらないと気が済まない!」

 まさに、ゆなとかれんが兵庫県予選二回戦で完膚なきまでにたたきのめされたのが中宮中学校である。

 中宮中に負けた後に2人で体の水分が全てなくなるほど泣いたのは記憶に新しい。

 「あはは、、」

 かれんの愚痴を軽く聞き流していると会場の体育館の方で大きな歓声が聞こえた。

 「そういえば、うちの男バスも今頃試合じゃなかった?応援しにいく?」

 ゆなとかれんが通う高田中学の男子バスケ部は今年は全中で優勝を狙えるくらい強いチームだ。

 「そうやね、あいつらが負けるビジョンがあんま見えないけど美少女2人でパワー送っちゃいますか!」

 そう言い残しかれんは陽気なステップを踏みながら客席に入っていった。

 ゆなも遅れて入った時何故かかれんが棒立ちになり予想外のものでも見たような表情でコートをぼーっと見つめていた。

 「かれん、かれん、自分のことが世界一大好きで世界一可愛いとおもってるかれんさ〜ん」

 「ゆな、得点板を見て」

 私は恐る恐る得点板を見て何が起こっているのかをすぐに理解した。

 「83対16、、」

 すでに、高田中学側の応援先は静まり返っていた、ありえないものでも見ているような表情をしている部員たち、悲しそうにコートを見つめている選手の親、その表情を見ているだけで何が起こっているか察するのは誰にでも容易なことだろう。

 次の瞬間、コートに向き直ると相手チームの1人のプレーヤーが目に入った。

 綺麗な顔、冷静な目、しなやかなシュート、相手を嘲笑うかのようなドリブル、どこまで見えているんだと思わせるようなパス、そのどれもに私は目を逸らせなくなっていた。

 気づけばずっと目で追っていた。

 試合が終わってもコートから完全に彼がいなくなるまでずっと目が離せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る