第三章

題名「エトモフ兄弟」

 むかし、むかし。


 あるところに、ラウ・エトモフとレオ・エトモフという双子の兄弟がいました。


 ふたりの見た目はそっくりでしたが、性格はぜんぜんちがいました。


 ラウは勇敢ですが、強欲でした。


 レオは臆病ですが、無欲でした。


 ある日、ラウが言いました。


「泉の剣を抜いて、売ってしまおう! おれたちは、村で一番の大金持ちになるんだ!」


 泉の剣。


 それは、村を悪しき者たちから守っていると言い伝えられているとても大切な剣でした。


 しかし、ラウは泉の剣が村を守っているなんて、これっぽっちも信じていませんでした。


 そんなに大切な剣なら、きっと売れば高く値がつくだろうとラウは考えたのです。


「それは、よくないことだよ!」


 レオは反対しました。


「大丈夫だって!」


 欲に目がくらんだラウは、レオの言うことに耳を貸しませんでした。


 レオは気が乗りませんが、大切な兄弟の言うことです。


 しぶしぶとラウの手伝いをすることになりました。


 あくる日。


 小さな祠の前に立てられた泉の剣は、木漏れ日を浴びて、きらきらと輝いていました。


 ふたりで協力したいかだに乗って、ラウとレオは泉の剣のところまでたどり着きました。


「さあ、持っていくぞ!」


 ラウが剣を引き抜きました。


 そのとき!


 ゴゴゴゴゴ! と大きな音を立てて、地面から巨大な黒い門がせり上がってきました。


 ラウとレオはお互いを抱きしめあって、ぼうぜんとしていました。


 ゆっくりと門が開かれると、中から、夜の闇を纏ったような真っ黒で大きな鎧と兜を身に着けた大男があらわれました。


「剣を抜いたのはだれだ!」


 大男がどなりました。


「こいつだ! 剣を抜いたのはレオです!」


 とっさに剣を投げ捨て、レオを大男のほうに突き飛ばして、ラウはうそをつきました。


 ああ、なんということでしょう!


 ラウはレオを身代わりにしようとしたのです。


 けれども、大男はだれが本当の悪者なのかを知っていました。


「ふん! おれは、お前が剣を抜いて売ってしまおうと企んでいたことを知っているぞ!」


 そう言うと、大男はラウの手首をぎゅうっとつかんで、うでを強く引っ張りました。


「痛い! た、助けて、レオ!」


 ラウはレオに助けを求めました。


 しかし、レオは自分を身代わりにしようとしたラウの裏切りへの驚きと悲しみで、その場にへたり込んでしまいました。


 あばれるラウですが、大男の力はとても強く、彼は門の中へと連れ込まれてしまいました。


 そして、門が閉まると、ゴゴゴゴゴ! と大きな音を立てて、門は地面の中に沈んでいきました。


 あとには、なにも残っていません。


 泉にひとり残されたレオは、あわてて家に戻ると、お父さんとお母さんに今日あった出来事を全て話しました。


「ああ、お前たちは、なんて愚かなことをしてしまったの」


 両親は深く悲しみましたが、ラウを連れ戻そうとはしませんでした。


 月日が流れて、大きくなったレオが、あの日のことを両親にたずねると、彼らはこう教えてくれました。


「ラウはとても悪い子だったのよ。悪い子は黒騎士に連れていかれて、許してくれるまで家に帰してくれないの」


「それじゃあ」


 レオは、ラウが未だ許されていないことを知りました。


 ラウは、いつ帰って来られるのだろう、とレオは悲しみで胸がいっぱいになりました。



おわり

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