ノルデン家

 エイル・ノルデンは、ノルデン家の長男だ。


 父親のロドルフと母親のティルザの間に生まれて、両親から愛情をこめて育てられてきた。


 母親はエイルを妖精のように可愛がって甘えさせるが、父親は厳しくエイルに戦いを教えてきた。

 そんなこともあって、幼いころのエイルは母親にべったりで、父親がちょっぴり苦手だった。

 しかし、訓練用の武器の重さが苦にならない程度に身体が成熟してくると、今度は母親の無償の愛がむず痒くなってきて、父親の厳しさが心地よく感じるようになってきた。


 成長とは、不思議なものだ。


 父親のロドルフは高名な騎士で、誇りをもって仕事をしている。


 現在のエイルは、父親の厳格な態度に憧れを抱いて、彼に接している。

 いつか、あなたのような、立派な騎士になれるだろうか?

 かつて、父親にそう尋ねたことがある。どうせ、自分には無理だろうな、と諦めの気持ちが混じっていた。

 ところが、ロドルフはエイルの瞳を真っすぐ見据えると、落ち着いた声で、こう言ったのだ。

「なれるさ。お前は、私の自慢の息子だ」

 そのときから、エイルは心に誓った。

 いつか、自分は父親を継ぐ騎士になってみせる。ノルデン家の誇りになるのだ、と。


 いっそう訓練に励むようになったエイルの上達は著しい。

 将来が楽しみだ、と決して態度には表さないが、ロドルフの心は踊っていた。


 半年前、ノルデン家に新たな生命が誕生した。

 エイルの妹にあたる、ノルデン家の長女――リーセが生まれた。

 当然、両親の愛情は生まれたばかりの妹を優先するわけで、エイルはそれが面白くなかった。

 だが、背伸びをしたがる時期がエイルの味方をした。独り立ちを望む息子が、両親の愛情を独占しようと画策することは、めったになかった。


 しかし、今日はエイルの誕生日である。

 両親は、ちゃんと祝ってくれるだろうか?

 エイルの悩みは深刻だ。

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