第一章
少年エイル
小さな寝息を立てて地面に転がっている少年――エイルは、今日、十一歳の誕生日をむかえた。
栗色のやわらかい髪の毛は、土だらけでぐしゃぐしゃだ。
母親似のエイルの顔立ちは優しさに溢れていて、これからの成長を期待させてくれる。
日中の暖かい陽気で眠気を誘われてしまったのだろう。敷地内であるのをいいことに、無防備に腹を見せて、寝入っていた。
これが市場や公道なら、踏み潰されてしまうか轢かれてしまうだろうに。
……まったく。かわいい、かわいい、愛しの我が子め。
エイルの母親は彼を注意するでもなく、家の中から、ただ優しい笑顔で息子を見守っていた。
どこから飛んできたのか、陽で美しく輝く、銀色の蝶がエイルの鼻先にとまった。
……くしゅん!
それが刺激になったのか、エイルは小さなくしゃみをした。
むにゃむにゃと言葉にならない言葉をつぶやきながら、目をこすって、エイルはのろのろと身を起こした。
「……あれ? 母さん? ごはんなの?」
なにかと背伸びをしたがる年ごろのエイルだが、ふとした拍子に、彼の幼さが暴かれる。
そんな息子のことを知り尽くしている母親は、彼の寝ぼけ眼を遠巻きに見守って、くすくすと笑っていた。
エイルが目を覚ましたことに驚いた銀色の蝶は、不思議な魔法を使うと、きらきらと輝く銀色の粉となって、消えてしまった。
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