第6話
公爵家は総出となって引っ越しの準備を始めていたのだが、その場に慌てた様子で執事が走ってきた。
「旦那様！ あの、知らせは届いていなかったのですが、第一王子殿下がエレナお嬢様にお会いしたいと来られております！」
「なんだと！？ 」
「あらあら」
エレナの両親は視線をエレナへと移すが、その青ざめた顔を見てどうしたものかと思案する。
体調不良と伝えれば見舞うと言われるだろう。
エレナは、大きく深呼吸すると青ざめた顔のまま笑みを浮かべると言った。
「挨拶をして参ります……昨日は突然帰ってしまいましたし……」
「大丈夫かい？」
「無理はしなくてもいいのよ？」
両親の言葉にエレナは首を横に降る。
「大丈夫です。ただ、ルカ。あの、ついてきてくれる？」
今までもルカが護衛としてついていたことはあったので怪しまれることはないだろう。
一人で会う勇気はない。けれど、ルカがいれば、どうにか会える気がしたエレナは縋るような瞳でルカを見つめる。
ルカはエレナを安心させるように微笑みを浮かべて言った。
「もちろん」
エレナはほっとしたように息を吐くと、侍女と共に支度を整えてルカと共にジョゼフへと会いに向かった。
今まで荷造りをしていた使用人たちは、ばれないようにこっそりと動くようになった。
客間をノックして部屋に入ると、ジョゼフがこちらに視線を向け立ち上がるとにこやかに微笑みを浮かべた。
エレナは以前ならばその笑顔にうっとりとしていただろう。けれど今ではその笑顔を見るだけで背筋が凍る思いである。
ぞっとしてしまう自分をどうにか奮い立たせて、エレナは笑顔を張り付けた。
「突然来てすまない。君に会いたくなってね。昨日は大丈夫だった？ 突然用事があると帰ったと聞いたけれど」
「ジョゼフ様……そうなのです、ね。来てくださり、ありがとうございます。昨日は申し訳ありませんでした」
「いや、いいよ。僕もいろいろ考えることがあったから」
「そうなの、ですか……」
そう答えながらも、何故来たのだろうかという疑問で頭がいっぱいである。
アイリーンはどうしたのだろうか？とエレナは考える。
運命の相手であるアイリーンといい雰囲気になっている頃ではないのだろうかと、エレナは動揺しながらも笑顔を崩さないようにする。
「エレナ？ なんだか、いつもと様子が違うけれど……」
小首をかしげるジョゼフは、エレナの方へと歩み寄るとその頬へと手を伸ばそうとするが、エレナは後ろへと下がりそれをよけてしまった。
「エレナ？」
「あ……すみません。あの……」
「もしかして何か心配なことがあるの？ 大丈夫だよ。僕を愛してくれるのはエレナだけなんだから」
「え？」
「ずっと、ずーっとこれから大切にするから。安心して？」
その瞳を見た時、エレナはぞっとした。
怖い。
絶対にこの人を好きだなんてもう二度と思えないとエレナは顔を引きつらせると、思わずルカの洋服の袖を握ってしまった。
その様子にジョゼフは一瞬で顔を歪めた。
「……エレナ？……その手は、何？」
「え？ あ、す、すみません」
ジョゼフはルカを睨みつけ、エレナはどうしようかと戸惑いいながらも、小さく呼吸を整えて言った。
「ジョゼフ殿下、申し訳ありません。少し体調を崩しておりまして……」
「え？ あ、そうだったんだね。無理させてごめんね？」
「い、いえ」
早く切り上げようと私がそう伝えると、ジョゼフは焦ったようにこちらを心配するような視線を向けてくる。
エレナからしてみれば、何故ジョゼフが変わったのかが分からない。
アイリーンと出会ってからのジョゼフはエレナに冷たかった。それだというのに、どういうことなのかがエレナには理解できない。
そんな様子にルカはジョゼフとエレナの様子を見つめて目を細めた。
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