私たちが通う千葉市の女子校は世間知らずが多いんだけど、なぜか私たち三角&四角コンビが彼女たちの世間知らずを治すことになった。でも私たちだって完璧超人じゃないので七転八倒の大騒ぎ
第21話 世治会メンバーで牧場に向かうとなれば、やっぱりごちゃごちゃうるさくなるのね
第21話 世治会メンバーで牧場に向かうとなれば、やっぱりごちゃごちゃうるさくなるのね
土曜日の早朝。私たちは、学校指定のジャージに着替えて、校門前に集合した。
問題児だらけなので、たとえ少人数であっても点呼しておく。
「シカコ、真奈美ちゃん、彩音ちゃん、ちゃんといるわね?」
シカコは、両手を挙げつつ、いまいちよくわからない踊りを披露した。
「いるぜ、ここにな!」
真奈美ちゃんは、そーっと静かに手を挙げた。
「いますぅ」
彩音ちゃんは、ボクシングの右ストレートを披露した。
「いるに決まってるじゃないかっ!」
やっぱり濃いわね、このメンバー。まぁ世治会のお世話にならなきゃいけない人材と考えたら、濃くなって当然なんだけど。
そんな濃い連中と街中を移動するとなったら、平常心が大切だ。よくわからないノリで大騒ぎが始まらないように、私がしっかりしなきゃ。
私は、まるでツアーガイドみたいに手招きした。
「シカコの牧場は千葉市の内陸部にあるから、路線バスで移動することになるわ。最寄りの停留所は千葉駅のロータリーにあるから、みんなちゃんとついてきてね」
ちゃんとついてきてといったのに、初手からシカコが足並みを乱した。
「あーっ! ウグイスがいるぜ! こんな街中じゃ珍しいなぁ、ほーほけきょ。そういえばさ、ウグイスが、ほーほけきょって鳴く時期って、繁殖期なんだぜ」
と言いながら、スマートフォンでウグイスを激写である。それだけで踏みとどまるなら遠征中に起こりうる憩いの瞬間だ。
しかしシカコは、斜め上の発想で暴走した。
「あーっ! ラブホテルから人間のカップルが出てきた! やっぱあれもウグイスと同じで繁殖期なのかなぁ、ほーほけきょ?」
といいながら、カップルを激写しようとした。
バカじゃないの!? 私はシカコの後頭部をぶっ叩いて、激写を寸前で阻止した。
「やめんか痴れ者!」
「なんだよいい子ぶるなよ、サカミだってちょっと楽しそうじゃないか」
ご指摘のとおり、私の頬も少々ニヤニヤしていたのは否めない。だって思春期の女の子だもん、ある程度はしょうがないでしょ。
真奈美ちゃんは「はあうぅう、刺激が強すぎますぅ」と両手で顔を覆った。
純真な反応ね。でも保健体育の点数が私より高いことは忘れてないわよ。
彩音ちゃんは「元気があってよろしい!」と清々しいガッツポーズになった。
パワーバカらしい率直な反応ね。ところで他の教科の点数が壊滅しているのに、保健体育の点数だけ高いのはなぜかしら。
うん、やっぱり世治会のメンバーは、問題児だらけだ。私がしっかりしないと、この遠征はあっという間に瓦解するわね。
まるで爆発寸前の火薬庫みたいな雰囲気で、私たちは千葉駅の駅前に移動した。
千葉県の玄関と呼ばれるだけあって、土曜の早朝であろうとも、人間であふれていた。
飲食やショッピングを楽しむ人が多い。映画やボーリングなんかも賑わっていた。
そんな繁華街に囲まれているのが、路線バスのロータリーであった。十個以上の停留所が設置されているため、どれに乗ればいいのか少々わかりにくい。
だが私は、千葉駅発の路線バスに詳しかった。小学校時代の友達が内陸部に引っ越していて、彼女の家に遊びにいくときに利用しているからだ。
そんな事情もあって、私は自信をもって、みんなをエスコートできる。
公共の交通手段となれば、怖がりの真奈美ちゃんがビクビクしていた。
「バスは初めてですぅ。でも電車と違って、ただの大きな車だから、そこまで怖さはないですね」
真奈美ちゃんの怖がりが薄れるぐらい、路線バスの利用方法は電車よりシンプルだ。
シンプルゆえに、利用者には精神の余裕が出てくる。
シカコは、精神的な余裕を、おバカな発想に変換した。
「バスの時刻表ってさ、早朝と夜間の本数が少なくて、日中の本数が多いわけじゃん。これが平日ダイヤと休日ダイヤで左右に並んでると、数字の並びがおっぱいに見えるわけよ。なんかセクシー!」
まったくもう、なんでシカコの発想は、お下品な方向に転びがちなんだろう。
だが本日は、彩音ちゃんというパワー重視のメンバーがいるため、お下品に対する返しも直球勝負だった。
「つまり時刻表くんのバストサイズは、シカコくんより大きいというわけだね?」
「うるせーよ! どうせあたしは草原みたいにまっ平らだよ! くそっ、このパワーバカめ、ちょっとおっぱいデカいからって、いい気になりやがって」
彩音ちゃんのバストサイズは、世治会メンバーで二番目に大きい。脂肪が大きいというより、ちゃんと鍛えているから胸筋が張っている感じだ。
なお世治会メンバーで、一番大きなバストの持ち主は真奈美ちゃんだ。立体的で質量も大きく、たゆんたゆんしている。正直うらやましい。
でも真奈美ちゃんは、大きなカバンで巨乳を隠した。
「目立つのは好きじゃないですぅ……」
うん、その気持ちは、なんとなくわかる。女子からは嫉妬されるだろうし、男子からはえっちな目で見られるだろうし。
私は男子が苦手なので、おっぱいが大きすぎると面倒ごとが増えそうだから、いまのサイズで我慢することにした。
そんな女子特有の乳トークをしていたら、タイミングよくバスがやってきた。
私は、真奈美ちゃんの背中を押しながら、バスに乗車していく。
「この乗車口の機械で発行された乗車券をゲットしておくの。バスを降りるときに、運賃と一緒に支払い口に投入すればいいから」
真奈美ちゃんは、おっかなびっくりの仕草で、乗車券を引っこ抜いた。
「ほえー、形は電車の切符みたいなのに、後払いなんですね。公共の乗り物は不思議ですぅ」
公共の乗り物における、先払いと後払いの不自然さを解消するのが、電子マネー払いだろう。
私とシカコは、電子マネー機能を搭載したスマートフォンをかざすことで、バスの運賃を精算するわけだ。
パワーバカこと彩音ちゃんは、紙の乗車券でバスを利用するつもりらしい。なんとなく気になったので、私は率直に質問した。
「スマホの電子マネー払いじゃないんだ」
彩音ちゃんは、爽やかな笑みを浮かべながら、手のひらを握りしめた。
「たとえスマートフォンを持ち歩いても、ちょっとした瞬間に握り潰してしまうから、どんなときでも現金払いなのさ」
うん、牧場に遠征することに気を取られて、すっかり忘れていた。パワーバカは、自動販売機にかぎらず、機械全般を壊しやすいんだった。
でも今日の牧場遠征で、この弱点が少しは改善されるかもしれない。
「彩音ちゃん、もし今日、牛さんのお世話がうまくいったら、スマートフォンを使えるようになるかもよ」
私が前向きな展望を語ったら、彩音ちゃんはグっと力こぶを作った。
「それは楽しみだね。ボクはスマートフォンを持ってないせいで、休日に友人と遊ぶ回数が少なかったから」
スマートフォンを持っていない相手を遊びに誘うのは、連絡を取り合うのが難しいし、現場で待ち合わせるのが大変だから、つい敬遠しがちだ。
でもそれは、褒められた行為ではない。
だって彩音ちゃんにかぎらず、なにかしらの事情があって、スマートフォンが欲しくても持てない子たちは少なくない数でいるはずだ。
そんな子を、道具の有る無しで扱いに差をつけようだなんて、フェアじゃない。
なんで人生って、こんなに複雑なのかしら。まぁ私が苦悩したところで、世界に影響なんて与えられないんだろうけど。
もしかしたら私って、典型的な青二才なのかも。でも私だけじゃなくて、社会経験のない学生は、みんな似たようなものだと思うし。
なんだかなぁ、年を重ねるごとに考えることが増えていく。まだ大学受験も終わっていないのに、大人になることが不安だった。
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