私たちが通う千葉市の女子校は世間知らずが多いんだけど、なぜか私たち三角&四角コンビが彼女たちの世間知らずを治すことになった。でも私たちだって完璧超人じゃないので七転八倒の大騒ぎ
第1話 通学中の電車で発生した、若さゆえの勢いというか、女子校生的バイオハザードというか
私たちが通う千葉市の女子校は世間知らずが多いんだけど、なぜか私たち三角&四角コンビが彼女たちの世間知らずを治すことになった。でも私たちだって完璧超人じゃないので七転八倒の大騒ぎ
秋山機竜
千葉市LOVE
第1節 世間知らずを治す委員会・略して世治会(せなかい)
第1話 通学中の電車で発生した、若さゆえの勢いというか、女子校生的バイオハザードというか
私の名前は、三ノ宮角子。千葉市の女子校に通う、高校二年生。
友達の名前は、四ノ宮角子。私と同じ女子校に通う、高校二年生。
私たちは、名前がそっくりだ。苗字は漢数字が違うだけで、下の名前は同じだった。
そんな二人が、中学から高校まで同じ学校に通っていれば、関係者全員が呼び名で困ってしまった。
だから本名ではなく、あだ名で呼ばれることになった。
私は、△美(サカミ)。
友達は■子(シカコ)。
二人合わせて、三角&四角(サカシカ)コンビである。
私ことサカミの身長は、平均的な女子よりも、ちょっとだけ高い。悲しいことに胸は小さくて、もうこれ以上の成長は見込めない。大きいやつらが妬ましい、ぐぬぬぬ。はい、体型の話は、ここまで。次は顔の話をしましょう。
私の顔は、キツネっぽいかな。目も細くて、顔もちょっと縦長気味。ほら、漫画の背景で棒立ちする、セミロングのモブキャラがいるでしょう、あんな感じ。
さて次は、相方であるシカコの見た目に触れていくんだけど、身長は平均的な女子よりも、ちょっとだけ低い。やっぱり胸は小さいし、なんなら私よりも小さい。これぐらい平らだと、洋服選ぶの大変だから、ちょっとかわいそう。
もちろん相棒の体型をバカにするつもりはないんだけど、それでも私のほうが幾分かマシだろう。五十歩百歩という評価は聞こえないフリをして、シカコの顔を紹介する。
シカコの顔は、タヌキっぽい。全体的に丸っこくて、目玉もビー玉みたいだ。髪型がおもしろくて、天然パーマが入っているせいで、ブロッコリーみたいに膨らんでいた。
そんなブロッコリーをかぶったタヌキみたいな女子が、通学電車の中で、私に雑談を吹っかけてきた。
「なぁなぁサカミ。あたしさ、ギャグ漫画の真理を見つけたかもしれねぇ」
満員電車であろうとおかまいなしに、シカコは素っ頓狂な声をあげた。どうやら男児向け漫画雑誌コロコロコミックを熟読することで、彼女なりの真理を発見したらしい。
なんで十七歳の女子校生になっても、男児向けの漫画を愛読しているのか理解に苦しむ。ただし年齢や性別によって趣味を限定する時代ではないことも理解しているため、否定するつもりはない。
だからといって、シカコの突拍子もないアイデアに付き合う義理もないだろう。
「聞きたくないわ」
私は、ばっさり切り捨てた。
しかしシカコは強行突破してきた。
「ほら、このページ見てみ」
シカコは、まるで自由研究を楽しむ小学生みたいな表情で、男児向け漫画雑誌を見せてきた。
うっわ、頭の悪そうな小学生キャラが、よくわからない理屈で、うんち漏らしてる……しかも、そんな頭の悪そうなキャラに、おもしろい造形のマスコットキャラが過激なツッコミを入れていた。いかにも小学生が喜びそうなギャグ漫画である。
でも、私にはまったく刺さらないギャグであった。
「シカコ。あなたは、私にこんなお子様向けの汚いシーンを見せて、なにがしたいわけ?」
「こういうシーンってさ、小学生男子のキャラがやるからギャグになるんであって、女子校生がやったらエロになるだろ?」
悔しいけど反論できなかった。ええそうよ、たしかに女子校生がこのシーンをやったら、そういう趣味の男性たちは喜ぶでしょうね。
とはいえ、そんなバカな発言を、満員電車の中でいっちゃだめでしょう?
ほら、近くの会社員や大学生たちが、『こいつ、絶対ヤバイやつだ』と露骨に目をそらしたじゃないの。
いまさら他人のフリをしたところで手遅れだから、これ以上の被害を防ぐために、シカコから男児向け漫画雑誌を取り上げた。
シカコはニヤニヤしながら、私の脇腹をつついた。
「なんだよサカミってば。そんなにコロコロ読みたかったなら、いってくれればよかったのに」
「ち、が、う! シカコのおバカな行動を抑制するために、お下品の源を回収しただけよ」
「なぁにが、お下品を回収だよ。人間なんてのはな、お下品なサイクルをしないと便秘になっちゃう生き物なんだぜ」
「わけのわからん理屈で正当化すな」
「わけわかるだろ。あたしは便秘と縁がないけど、シカコは便秘と縁がある。毎日難しいこと考えて、うんうん唸ってるから、胃腸が動かなくなるんだぜ」
「なにもこんな人前で、私が便秘がちなこと話さなくてもいいでしょ!」
私は、シカコとの論争がバカバカしくなったので、男児向け漫画を突き返した。
「いちいち体裁を気にするなよ。どうせあたしたちにラブはないんだし」
シカコは男児向け漫画の表紙のキャラと同じように、べろべろばーっと変顔をした。まるで可愛げがない。
だが彼女のいうとおり、私たちにラブはない。
よく勘違いされるのだが、女子校で無菌培養された女の子たちに、近隣の男子高校生たちが惚れる展開は、ただの幻想だ。
うちの女子校は、かわいくないことで有名だった。それもずっと昔から。どうやら偏差値の低い女子校は、可愛さを捨てた大和ナデシコの巣窟になりやすいようだ。
一年生のころはおしゃれに気を使っていた子も、二年生になるころにはすっぴんを通り越して寝ぐせを放置したまま登校してくる。
可愛さを捨てる瞬間は、私にも覚えがあった。おしゃれのために早起きするのがめんどくさくなったとき、女子校の生徒はズボラになるのだ。
ただでさえ素材のよくない女子たちが、身だしなみに気を使わなくなれば、男子たちに見向きもされなくなって当然だった。
「そんなにラブがほしいなら、共学に進学すればよかったでしょ」
私はシカコの変顔に対抗して、べーっと舌を出した。もし美少女がこの顔をすれば、きっと男子たちがきゅんっとしてしまうんだろう。だが私は美少女ではないので、ただ健康的な舌を出しただけで、なんのアピールにもならなかった。
「やだよ、共学なんて。男の目を気にして、あれこれ気を使うんだろ? ほら見てみろよ、共学に通ってる女子たちを。やけに気合入ったメイクだろ」
シカコは、新しいおもちゃを見つけた犬みたいな瞳で、車内の他校生たちを観察した。
まぁたしかに、共学に進学した女子たちは、髪型からメイクまで気合が入っていた。あきらかに他人の視線を意識しているのだ。
でもあの気合の入りようは、共学に通っていることだけが要因じゃないだろう。
「自分の可愛さに自信がある子ほど、お化粧に気合が入るんじゃないの? そういう子は、女子校を避けるはず。だって男子との出会いがなくなっちゃうだろうし」
私の分析に、シカコは唸った。
「出会いか、なるほどなぁ。あたしたちには、本当に男子とのつながりがないもんなぁ」
「なによ、共学を嫌がってるくせに、男子との出会いは欲しいわけ?」
「そりゃ欲しいだろ、女の子に生まれたからには、白馬の王子様を求めるもんさ」
「その夢には無理があるわよ。白馬の王子様にも、相手を選ぶ権利があるんだから」
私は、少女漫画みたいなロマンスを信じていなかった。あれは女子の願望を物語に落とし込んだだけで、現実世界には存在しないものだ。もしロマンスを本気で信じてしまったら、いつか都合のいい話に引っかかって、資産をむしりとられるだろう。
そんな私の現実的な視点に、シカコは対抗した。
「そこを一発逆転できる必殺技があればいいんだろ? ……いいこと思いついた!」
「いわなくていいわ、どうせおバカなアイデアだから」
「好みの男子の前で、うんち漏らせばいいんだよ! そうしたら、エロになるから、その男子落ちるじゃん!」
「落ちないわよ! むしろ逃げられるに決まってるでしょ!?」
「そんなもん、やってみなきゃわからんだろうが!」
シカコは、まるで暴走したトラックみたいに、ふんっと力んだ。おそらく本人としても力んだフリだけで、本当に出すつもりはなかったんだと思う。
でもシカコはポージングだけではなく、本当に力んでしまったらしい。わずかな空白のあと真っ青になった。
「……ちょっとだけ出ちゃった」
最悪、なんでこうなるかなぁ……ああもう、満員電車なのに、周囲のお客さんたちが、鼻をつまみながら、さーっと離れていくし。私だって離れたいわよ。なんで朝からうんち漏らしたやつの近くにいなきゃいけないわけ?
だがシカコは、ぼろぼろ涙を浮かべながら、私にすがりついた。
「サカミ、信じて。あたし本当は、もらすつもりなんて、一切なかったんだ」
そうね、いくら珍説を思い浮かべても、なんの対策もなしに実行するほどバカではないものね。わかったわよ、中学時代からの友達として見捨てないで助けてあげましょう。
「どっちみち次の駅で降りるんだから、駅のトイレで処理するわよ。遅刻覚悟でね」
私が助け船を出したら、シカコの涙が引っ込んだ。
「ありがとう、サカミ。本当にお前と友達でよかったよ」
そうね、私もシカコと友達でよかったわ、退屈しないから。
こうして私たちは、学校の最寄り駅である千葉駅に降りると、女子トイレに駆け込んだ。シカコの名誉のために細かいことは伏せるが、幸いスカートは無事だった。まぁパンツはアウトだったけど、それは見なかったことにしましょう。
あとは駅構内にあるドラッグストアで簡易パンツを購入して、問題解決。
現在の時刻を確認すれば、通学路を走ることで、どうにか予鈴に間に合いそうだった。ふぅ、シカコがお下品なやらかしをした直後は、どうなることかと思ったけど、一件落着ね。
シカコは、しおれた顔で、コロコロコミックを胸に抱えた。
「なぁサカミ、新しいパンツにはきかえたことで、ギャグ漫画の真理を修正することになったよ。あたしは女子校生なのに、大勢の男子の前で漏らしても、全然モテなかった」
いや、そりゃどんな美女だって、通勤通学の電車で漏らしたら、逃げられるってば……。
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