セカンドダイスの日常 アドベンドカレンダー2022
霜月かつろう
としくん一年目のクリスマス
2022/11/27【さかな、さざなみ、さようなら】
「ねー。店長。ここではクリスマスのイベントやらないんですかー?」
ぐでーっと机に突っ伏しながら女の子が隣にいる店長に向かって疑問を投げかけている。そんなだらしない格好してと思わないでもない。ボードゲームカフェである店内をぐるりと見渡して他のお客さんがその様子を気にする様子がないことを確認してホッとしながらアルバイトである
「クリスマスね。まあ色々やろうとは思うけど今年は日曜日だしね。店内の飾り付けだけで大掛かりなもようしはやらないでもいいかなぁ」
手を休めることなく耳だけはふたりの会話に集中し続けていた。やる気のない返答をする店長の言葉にも理由がある。ついこの前ボードゲームのイベントを店長主催で開催したばかりなのだ。軽い燃え尽き症候群っぽい様子だ。
ここのバイトを始めてからまだ日が浅い分、手伝えることも少なかったけれど俊彰も手伝えることは手伝った。その疲れは未だに取れてはいない。机に突っ伏しているのはハルと呼ばれている常連中の常連さんだ。
大学ニ年生の冬だというのになにをするわけでもなく、ボードゲームカフェに入り浸っているこの年上の女の人をどうあつかっていいのか俊彰は分からないでいた。
「えー。派手にパーッとやろうよー」
ハルが不満にしている理由も分からない。大学生のクリスマスがこんなところに固執しなくてもほかで楽しむことなんていくらでもできそうなものなのに。
「チヒロもミホもミツルも忙しくってクリスマス当日は予定があるって言うの。ひどくないー?」
チヒロさんもミホさんもミツルさんもハルとなかよしでいつも一緒にハルが突っ伏したままのテーブルで遊んでいる事が多い。今日はいないみたいだけれど、クリスマスもいないのか。そういえば智也先輩も休み希望を出していたなと思い出す。
「ああ。智也君も休みたいって言ってたしね。そういうことなんだろうね」
チヒロさんに限って言えば俊彰も分かる。智也先輩と一緒に過ごすのだろう。ふたりが恋人なのはここにいる人は全員知っていると過言ではないくらい公言されていることだ。きっとクリスマスはふたりで過ごすに違いない。ほかのふたりはどうなのだろう。俊彰には知りようもないことだけれど似たような理由なのだろう。であればハルがここまで騒いでいるのも納得できる。
「まあまあ。当日はなにかやるとしてとりあえずこれでもやって落ち着きなって」
店長はそう言うとそばにある棚から小さめのボードゲームをひとつ取り出してハルのテーブルへと持っていた。
「さかな、さざなみ、さようなら?なにこれ」
「一人用のボードゲームだよ。デッキを解体して全てのカードを消し去って無になろうって言うゲーム」
「店長。それって嫌味ですよね」
「さあ?とりあえずやってみればいいんじゃないかな?」
「うっ。わかりましたよ。店長がそう言うときは意味があるって知ってますから。やりますよー」
文句を言いながらもちゃんと箱からカードと説明書を取り出してしっかりと読み始めるのを見て俊彰はなんだこと人はと疑問に思わずにはいられないのだ。さっきまであれだけ騒がしかったのにもう大人しくなっている。
店長もそれを見越しての行動なのか。
「ねえ。としくん。よくわからないからルール教えて」
油断していたところにそんな声がかかって思わず背筋がピンと伸びる。そうしてからゆっくりと店長の方を見る。
「よろしくね。としくん」
にっこりと笑う店長の言う通りにするしかなんさそうだった。
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