ようこそブレイン・トラベラーへ…楽しい脳内旅行をどうぞお楽しみください

行枝ローザ

受付・1

……ようこそ。ブレイン・トラベラーです。

……え?姿がない?

す、すいません……私、入社したばっかりで……

ええと……あの……お客様にはどのように見えていらっしゃいますか?

「あ、あの……わ……ひ、光の玉……みたい……で、す……」

光の玉……ええと……こ、困りましたね……私、本当に3日前に入社して……わっ!わわわっ!!!


「まったくもぅ~~~~……」


暗闇。

私の世界は、ずっと暗闇だけだった。

もっともっと前には明るくて、とっても楽しかったはずなのに、今は暗闇。

そこに小さく丸い金色に光る玉がぼぅと浮かび上がって、私に話しかけて──

そして──


「ようこそ!ごめんね!こういう依頼はめったにないんで、社をあげての一大プロジェクトみたいになっちゃって~」

小さい時にお母さんと一緒に見たピーターパンみたいな恰好をした可愛い男の子…男の子?うん…『男の人』が、目の前に浮かんでいる。

「ん?この格好?君が……七海ななみちゃんが好きだって聞いたから……ダメかな?」

「ダメ……じゃない……けど……」

何歳かわからないけれど、たぶん、私より年上なはず……なのに、なんか変だけど。変じゃない。

「ダメじゃないかぁ~。じゃあ、逆にどんな格好だったら、君は好き?」

好き?

好きな……格好は……


ぼぅんっ!!


「きゃぁっ!!」

アニメでタヌキとかキツネが化ける時に爆発するような、でもちょっと間の抜けた音と紙吹雪やキラキラの星が弾けて──

「どう、かな?」

ふわふわと漂う男の人は、少しだけ雰囲気が変わって同い年ぐらいの男の子になった。

服装も──Tシャツに短パン、ベストを羽織って、すごく動きやすそうなスニーカー。

あの日、一緒に遊んでいた───

「いっ……いた……いたたっ……」

ズキン。ズキンズキン。

急に頭のあちこちが痛くなって、私はすぅっと息を吐いて目を瞑った。



ああ──また、暗闇。

さっきのアレは、きっと夢、だった………


「おい!今度は無理やり記憶を引き出すなよ?いつもの『お客様』じゃないんだからな」

「わ~かってるって!」

うわんうわんと変に響く声がしたと思ったら、ふわふわ浮いていた人はくるんと宙返りをして、どさっと落ちてきた。


い…いったい……なにがおこっている、の……?


イテテ…と言いながら起き上がったその人は、スゴイことにどこも怪我をしていない。

「ええと…加瀬さ…加瀬かせ 七海ななみちゃん……だよね?通常は…ええと……『普通』は……ああもう!話しづらいな!」

「わ、私がオハナシ…しましょうか?」

ふわんと光の玉がその人のそばに現れた。

どこかで見た──?

「あっ!ティンカー・ベル!!あなた、ティンカーベル?じゃあ、おにいさんは……ひょっとして、ピーター・パン?」

驚いて、でも嬉しくて声を上げると、その人と光はくるっと顔を合わせて──光がどっちを向いてるかなんてわからないはずなのに、でもひとりとひとつがお互いを見たのはわかった。

なんでかわからないけど。

「ティッ……ティンッカ……ティンカー・ベル‥って…ベルって……た、確か妖精……ブハハハハハハハッ!!妖精って……ガ、ガラじゃねぇ──っ!アハハハハハハ───ッ!!」

ものすごい勢いで笑う。

絶対この人、ピーター・パンなんかじゃないわっ!

「あぁ……あのっ……ごめんなさい……えぇっと…私は『ヒカリ』って言います。『輝く』って書いて『ヒカリ』」

「ヒ…カリ……さん?」

『かがやく』という漢字はどう書くのだったか──なぜかそう思いながら同じ言葉を繰り返すと、光の玉はぴかっと光って、おねえちゃんぐらいの女の人になった。

「おー、上出来、上出来」

半そで短パンに着替えた男の子が大笑いを止めてパチパチと手を叩くと、『ヒカリ』と名乗った女の人──お姉さんはびっくりしたような顔をしていた。

「うわわわっ!すごい……ちゃんと視覚的になってるぅ……」

「はぁ~……こういう方法もあるのかぁ」

「いや……こういう方法って、シトミさんもさっきやっていたじゃないですか!」

「あ?やった?う~ん……どうだろう?ね、どう思う?七海ちゃん」


どう………おも……?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る