第十二話 ルイ【後編】

「俺達は地球へ帰る方法を探してるんです。そういう魔法はありますか」

「知らね。俺んとこにいるのは『魔術師』だからな」

「魔術師? 魔法を使えるんですか?」

「魔法は使えない。使うのは『魔術』だ」

「……えっと、違うんですか?」

「違うよ。地球人は同じ意味らしいけど、こっちでは全くの別物だ」

「それはどんな?」

「分からん。俺は魔法も魔術も使えない。けど、うちの魔術師が言うには――」


『世界間移動は難しくないよ。難しいのは時間軸の一致だ』


「時間軸! 篠宮さん!」

「その人に会わせて下さい!」

「いいけど、今忙しいんだよ。手が空いたらな」

「いつですか!」

「そうだなー。アイリスが見つかったらかな」

「アイリス? 誰ですそれは」

「ヴァーレンハイトの第三皇女だよ。アイリス=ヴァーレンハイト」

「え?」


 急にあらぬ方向に話が飛び、思わずノアを見た。

 ノアはふうとため息を吐くとつまんでいた枝豆をぽいっと放り捨てた。


「半年くらい前かな。アイリスが消えたんだ」

「行方不明ですか?」

「ああ。皇王は世界中を探して回った。国を踏み荒らしアイリスがいなければ燃やし尽くす。この『アイリス大捜索』で五つの国が炎に呑まれ塵になった」

「そ、そんな……?」

「ああ。これの難民が凄いんだ。うちの魔術師、人良いからほいほい連れて来るんだけどイエダの物資だって有限なんだ。困る。だからノアと協力しようってなったんだ」

「目星はついてるのか、アイリスの居場所に」

「全く」

「駄目じゃないですか」

「だからお前らも協力しろよ。人探しアプリとか作れねえ?」

「本人がGPS持ってれば別だけど、ゼロからはさすがに無理だ」

「顔は? 特徴無いんですか?」

「ある。ヴァーレンハイト皇国皇族特有の容姿をしている」


 ノアは語りたくないのか、ふっと目を伏せた。

 少し息を止め、ゆっくりと口を開いた。

 

「黄金の瞳に炎のような紅い髪。炎を操る美しき皇女」


 ルーヴェンハイトでアニメに登場するような髪色や目の色は無い。篠宮はロシアや北欧系だと言っていた。

 けれどなつのはその容姿を知っている。

 鰐の奇形に襲われた時、火を操り助けてくれたあの少女だ。


『急いで城へ。私の火は長くは持たない』


 しかしその背には火傷痕があった。マリアと同じ火傷痕だ。

 ちらりとマリアを見ると、やはりつんっとそっぽを向いて無言を貫いている。

 だがノアもルイも探しているということは知らないのだろう。

 とても問い質す雰囲気ではない。


「何としてもアイリスを探す。アイリスさえ見つかれば世界間移動くらいやってやる――ってうちの魔術師が言ってる」

「言ってる? 何で俺達が地球に帰る魔法探してるって知ってるんですか」

「ちょくちょく様子見に来てたからな」

「俺らの?」

「地球に帰りたけりゃ俺の魔術師を落とすんだな」


 展開に付いていけず、なつのは篠宮とルイをきょろきょろと見回した。

 けれどルイはお構いなしで立ち上がる。


「さて、そろそろ帰らないと」

「え、ちょっと待っ」

「じゃあな」


 ルイは何もしなかった。ただ立ち上がり、にっこりとひらひら手を振った。

 それだけだった。


「ぎゃっ!」


 何の前触れもなくその場から消えた。

 今度は静電気も何も無く、ただ忽然と消え去った。


「……は?」

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