第八話 敵になる地球人【前編】
倒れた男を医療団へ運ぶと、葛西を始め数名の地球人にノアとマリアもいた。
事情を説明すると、地球人集落シウテクトリの名前にノアは眉をひそめた。
「シウテクトリ……」
「知ってますか?」
「国はな。だがあそこは女神ルイスを祀る宗教国家で、地球人集落なんて名称じゃなかったはずだが」
「……出て行ったんだよ」
「え? あ、駄目ですよ横になってなきゃ」
男は目が覚めたのか、額を抑えながらゆっくりと起き上がった。
葛西が水を渡すとがぶがぶと飲み干していく。
「気分はどうですか」
「大丈夫だ。有難う。助かったよ」
「無事でよかったですよ。名前は? 地球人ですよね」
「鈴木武志だ。助かったよ。有難う」
「それで、地球人集落ってのはなんです」
「まんまだよ。こっちに来た地球人が集まってるんだ」
「へー。ルーヴェンハイト以外にも地球人がいるんだ」
オフィスからこちらへやって来た時、なつのは篠宮と一緒だった。
すぐに朝倉とも再開できたあたり、てっきりもれなくルーヴェンハイトに出るのかと思い込んでいた。
だが月城のように巡業することもあるなら他の土地に地球人がいるのは当然だ。
しかし集落を作るほどの人数がいるとは思っていなかった。化け物の出現でこの世界に恐怖を感じ始めたなつのにとって、なんだかそれは心強く思えた。
「シウテクトリ人が出て行ったってのはどういうことだ」
「それにあの鰐を知ってたみたいだが、あれは何だ?」
「……地球人の作った奇形動物だ。魔力珠を使って改造をする」
「へ?」
「人為的に作ってるってことか?」
「そうだ。そこらを平然と歩いてる。だからシウテクトリ人は出て行ったんだ」
「まさか乗っ取るために作ったの!?」
なつのは思わず声を上げた。
戦争や殺戮とは無縁の世界で生きてきたなつのには考えられないことだ。
けれどそれは男も同じだったようで、悲しそうに俯いた。
「……元々は普通に暮らしてたんだ。シウテクトリ人は良くしてくれた。けど学者とかエンジニアとか、地球の技術であれこれやり出した奴らがいる。その結果が奇形動物さ」
ぴくりと篠宮の指が震えた。
篠宮もエンジニアだ。まさに今地球の技術であれこれやっていて、少なからずルーヴェンハイトの文化は変わってしまった。
化け物を生むようなことにはなっていないが、無いとは言い切れないのかもしれない。
それは恐ろしいことに思えたけれど、篠宮は表情を崩さなかった。
「地球人は襲われないってのは何でだ?」
「正確には魔力量が低いと襲われないってとこだ。奇形動物は殺そうと思って襲ってるわけじゃない。餌となる魔力珠を食いに行ってるだけなんだ」
「……そうか。こっちの世界の人間は魔力珠の塊みたいなもんだ」
「あ」
襲われた時、化け物は月城の血を舐めていた。
月城は既にこちらの人間と同じ肉体になっている。ならばその血には魔力珠も多く含まれ、連中にとっては餌そのものだ。
「戦わなきゃ死ぬってんならそれも仕方ない。だが俺達は平和に暮らしてた!」
鈴木は急に声を張り上げて、ぎりぎりと唇を噛んだ。
目には涙が浮かんでいる。
「あれは俺と家族になってくれた女も食ったんだ! 何の罪も意味も無く!」
「それで逃げて来たのか」
「そうだ。ルーヴェンハイトは平和だって聞いたから」
鈴木はちらりと目をノアに向けた。
飲んだくれている姿だったら皇子とは分からなかっただろう。今は豪華な服と整えられた髪、誰が見ても皇子だと察するに容易い。
ノアは壁にもたれかかり腕組みしていたが、視線を受けてふうとため息を吐いた。
「俺はノア=ルーヴェンハイト。ルーヴェンハイトの第三皇子だ」
「御高名はかねがね」
鈴木は背筋を伸ばし礼をした。
礼儀正しい姿からは、きっとサラリーマンだったであろうことが想像できる。上司に遭遇したような気持ちになり、なつのは思わず背筋を伸ばした。
「奇形は何匹いたか覚えてるか」
「覚えています。実験も、多少ですが見てました」
「見た限り殺したが全てとは限らない。生き残っていた場合、繁殖する可能性はあるか?」
「はい。繁殖しルーヴェンハイトを食いつくすよう、雄雌を用意してたと記憶しています」
「そ、そんな」
「手を貸せ。全部死んだか、怪我人は今後異常が起きたりしないか調べる必要がある」
「もちろんです!」
鈴木は大きく頷くと、室内をきょろきょろ見回してから葛西を振り返った。
「妻がシウテクトリ人医師だったのでこちらの医療を知っています。よければ手伝わせて下さい」
「それは頼もしいわ。ぜひ知恵を貸してちょうだい」
「喜んで」
そうして、鈴木は医療団の一員となり様々なことを教えてくれたようだった。
主に薬の調合で、複数の食べ物を混ぜ合わせることで効力を発揮するらしい。現ルーヴェンハイトではその種類が圧倒的に足りないらしく、果樹園の拡大が始まった。
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