エロゲ調教師はダンジョンへ行く〜選択肢に振り回される俺の非日常〜
@6-sixman
第1話 ジョブを獲得した
草木も眠る丑三つ時。
家族が寝静まる家の薄暗い自室でパソコンゲームをしてたら、主人公とヒロインの濡れ場シーンを邪魔するように脳内に無機質な声が響いた。
『おめでとうございます。あなたはジョブ:エロゲ調教師を獲得しました』
「ふざけんな!」
イイ所を邪魔された俺は頭にかぶっていたヘッドホンを外して意気消沈した。
パソコンの傍らに置いたヘッドホンから発する艶声と、俺の盛大なため息が部屋に木霊する。
「システム音声さんタイミング悪すぎだろぉ」
モヤモヤした気持ちを吐き出すように愚痴を漏らす。
ついでにムラムラしてた気持ちも消えてしまった。
行為の最中に顔も知らない奴に声を掛けられる間の悪さといったらない。
「はぁ、まあいいや。気持ちを切り替えよう」
すっかり気分が盛り下がってしまった俺は、パソコンゲームのデータをセーブして電源を落とした。
部屋の明かりを点けて顔を上げながら欠伸する。
煌々と光るLEDライトを見上げながら先ほどの声の内容について考える。
今の地球は昔とは別物となってしまった。
40年前に世界各地で突如ダンジョンが出現したのだ。
今でも新たに出現するダンジョンはまるでゲームみたいな存在だった。
ダンジョンの中にはモンスターやトラップといった危険が潜む反面、摩訶不思議なアイテムや未知の鉱物や素材が発見された。
危険とされるモンスターは倒すと煙の様に消えて、魔石と確率でドロップ品を落とす。
確定で入手できる魔石は特殊な工程を経ることで電力に変換可能だ。そのため環境にやさしい革新的なエネルギー源としてどの国もダンジョン攻略を推進している。
また、時折ダンジョンで発見される宝箱には海外のオークションで億越えもしたアイテムすらある。
だから国も人も目の色を変えてダンジョンに注目した。
そんなダンジョンだが誰でも入れるわけではなかった。
ダンジョンが発見されたばかりの頃に、某国が政府主導で軍隊を投入しようとしたが、ほとんどの者が入り口で立ちつくしかなかった話は有名である。
ダンジョンの出現で変化した地球と共に、人類も変化の時を迎えていた。
ダンジョンの出現と同時にステータスやジョブやスキルといった、これまたゲームみたいな力に覚醒する者たちが世界中に現れたのだ。
ジョブを獲得したと謎の声――今ではシステム音声さんと親しまれている――が脳内で聞こえた者たちのみダンジョンに入場できるのだ。
ダンジョンをはじめとしたこの異質な存在のその正体は未だ掴めていないが、ジョブ獲得者は今では通称、探索者と呼ばれる立派な仕事としてダンジョン攻略する者として世間に受け入れられている。
そんなジョブ獲得者である俺こと、
高校入試を終えて1ヶ月後には高校生となる、ぽっちゃり体型と顔のニキビが気になるお年頃だ。
椅子の背もたれを揺らして顎をさする。
「これで俺も高校生探索者の仲間入りか」
探索者に年齢制限はない。
システム音声さんは人類の年齢の見分けがつかないのか、赤子の頃にジョブ獲得者となった者すらいる。
俺の身近にも中学生探索者なんてのもいるし、探索者学校なんてのまであるほどだ。
高校生探索者は今ではそう珍しくない。
とはいえ探索者は歴としたお仕事だ。
ジョブ獲得者本人が国に申請して受理されれば、その日から探索者になれる。
試験も検査も必要とされておらず、運転免許証みたいに探索者免許証というのを発行されたら新米探索者の仲間入りだ。
日本の場合、各市町村の役所で申請書と死亡同意書を2枚提出するだけで済んでしまう。
欲望に憑りつかれた国と国民ほど怖い物はない良い例だろう。
「書類には保護者のサインが必要だから家族への報告をしないとんだな。それは明日するとして……ステータス」
俺がそう呟くと空中に半透明のウインドウが出現した。
風間風太
ジョブ:エロゲ調教師Lv1
HP:10/10
MP:10/10
攻撃:G
防御:G
敏捷:G
器用:G
精神:F
幸運:F
SP:0
スキル:【エロゲ選択肢Lv1】
これが俺のステータスだ。
名前と獲得したジョブが上に書かれている。
ジョブ名の後ろにあるのはジョブレベルを表示している。モンスターを倒したり、スキルを使い続ければジョブレベルは上がって、各種ステータスが上昇していく。
HPは生命力という意味ではなく、本人への身体ダメージを肩代わりしてくれる目に見えず触れないバリアみたいなものだ。
ただし痛みはダイレクトに本人に伝わるので、HPがあるから攻撃されても大丈夫なわけじゃないし、HP0になったら肉体へのダメージが通ってしまう……そうだ。
中学の授業やネット情報なので実際どんなものか俺もよく知らないのだ。
俺は試しに学生鞄から筆箱を取り出し、その中からボールペンを手に取った。
キャップを外してボールペンのペン先を左手に突き付けて、勢いよく押し込んでみる。
ボールペンのペン先と左手の接触部分から痛みが走る。
「ぐっ……痛みはあるけど、インクが付着した跡は左手に無いな」
念のためメモ用紙にボールペンで線を引くと黒線が用紙に描かれていた。
インクが切れていた訳じゃないし、本当に身体ダメージを肩代わりしてくれたようだ。
もう1度ステータスを見たらHPの数値が1減っていた。
俺は他のステータスもざっと確認していった。
MPは、魔法スキルに必要なエネルギー数値だ。
獲得したジョブによっては魔法スキルを覚えず、不要な項目になるそうだが俺のジョブはどうなのか気になるところだ。
攻撃~幸運までの項目は、読んだままの表示の意味だ。
ややこしい所を挙げるとしたら、防御と幸運だろうか。
防御はHPバリアの耐久力を示していて、防御が高いほどHPが減りづらく身体ダメージを受ける危険が減るのだ。
幸運はモンスターを倒した時のドロップ確率を良くする。他にもクリティカル攻撃時の確率判定やHPの減少を運よく免れるなどある。
本当にゲームみたいな話である。
これらの項目にはA~Gまでの7段階がある。
A段階だと超人レベルで、ここまで上げればヒーロー映画の主人公みたいな奴らの世界になる。
更に上のS段階があるそうだが、上位探索者のステータスにも稀にしかないので参考にならないな。
それらに比べて、ほとんどG段階の俺のステータスは雑魚ってわけだ。
ダンジョン攻略すらしてない初心者以前の状態だから仕方ない。
そしてSPは、ステータスの数値や段階を上げるのに必要なものだ。また、スキルの取得やスキルレベルを上げるのにも必要で、使い道についてはしっかり考えないとならない。
SPの数値を稼ぐ方法は、モンスターを倒してジョブレベルを上げるか取得済みのスキルを使い続ければ自然と増えていくそうだ。
そしてスキルについては、獲得したジョブに則したスキルが取得できる。
スキルは使用すれば使用するほどスキルレベルが上昇して効果が良くなるそうだ。
ステータスのスキル項目をタッチすると取得可能なスキルが調べられる。
ただしダンジョンでしか見つからないスキル結晶を使えば、ジョブに関係しないスキルを取得できる。
とはいえスキル結晶は希少かつその恩恵も計り知れないので、市場では高値で取引されていて入手は困難だ。
「はたしてジョブ:エロゲ調教師で俺はダンジョンでやっていけれるのか。めっちゃ不安だわ」
だってエロゲ調教師だぞ。
調教師ってことは前衛ジョブじゃないだろう。
そもそもエロゲってなんだよ。いや、エロゲは好きだしやってたけどさ。
どうやって未成年がエロゲを購入したかって?
ネットは偉大だと世の男性諸氏は理解しているだろう。これ以上は紳士協定で言うのは憚れるわい。
うーん。
だからってジョブ獲得者になったのに探索者にならないのは損なんだよな。
探索者にならない者のスキル使用が発覚したら厳罰化されてるし、最悪その場で通報されて即逮捕なんてニュースもある。
そんな探索者は収入が良くて世間体も良い仕事だし、子供が将来なりたい職業でも男女ダントツ1位をかっさらっている。
頭空っぽなガキの考える理想の大人の仕事は、金と将来性がある仕事なわけよ。
当然、俺もそんな烏合の衆の1人だ。
そんな俺にこんなチャンスが巡って来たんだ。
絶対に手放したくない。
だから俺は、いつの日か夢見たテレビ画面の向こうで憧れた探索者に俺は成るんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます