第二話:気のせいったら気のせい
も、もごもご。
ままぁ〜もう食べれないよぉ。
「ふんがッ!」
女神様っぽい人に口へ大量の蜜を突っ込まれ、窒息する夢を見てしまったぜ。
汗は滲んでいないが、額を拭う。
「ん? 夜に雨でも降ってたのか?」
悪夢のせいであつあつのお体。
近くの葉っぱに溜まった雫をずるるるっと飲む。少しだけ、はしたないと思ったが俺しか住んでいないし大丈夫。
「ふぅ〜!」
葉っぱが新鮮すぎるせいなのか、ちょっと泥臭かったが俺の妖精
何を食べても消化するから、腹を下すことなんてないぜ。
「きりっ」
…………妖精になって一ヶ月。
そろそろ一人ぼっちが辛くなってきた。
昨夜は相当暴風だったようだ。俺はグースカ寝ていたから気づかんかったが、外に出ればぐっちゃぐちゃの森。
手のひらサイズの俺を数千匹束ねたぐらいの木が軒並み倒れている。
しかしそんなことに驚く俺ではない。羽をぱたぱたさせて地面に降りる。
「お! いい感じの石やんけ!」
成人男性の手のひらサイズの俺。その俺の手のひらサイズに収まるサイズ。人間であれば小指ぐらいの大きさだろう。
「ほぉ〜? 貴様いい感じの大きさ。俺の親友にしてやろう!」
そんぐらいの大きさの石ころを天に掲げた。ビシッ。
そもそもの話、この森で目が覚めてから人間すら見たことないし、俺が本当に手のひらサイズなのかすらわからん。
昨日もいた……オ、オルトロスみたいなゴブリンを基準にしただけだしな。
と、とりあえず、あいつ? あいつら? がまだ生きているなら、次に会った時は
ちょっと格好いい感じにルビもつけてやるから許してね。
「ふぅー!!」
石がちょっと汚れていたから、息を吹きかけて砂を飛ばす。
「あ、やべ」
そのせいで俺の体から花粉みたいなものが舞った。
「ま、まぁいいか」
俺の花粉は聖なる力的なあれだ。
花粉に触れた奴らはなぜかどいつもこいつも近くのやつと融合するか、究極進化的な感じをする。体感的に九割九部悍ましい姿だが俺は聖なる妖精。
その妖精の花粉であれば、あれらは聖獣といっても過言はない。
「うむっ!」
考えれば考えるほど俺には非は一切ない。
俺ほど聖人もとい聖なる妖精は存在しないだろう。もし俺以外に妖精がいたら、ぶっ飛ばしてやんよ!
しゅっ、しゅしゅっ。
その場でボクサーみたいにジャブとストレートを打つが誰もいない。
ただし、俺が無駄に動いたせいでいつもよりぽふんっっと花粉が噴き出した。
「あ、やっべ!」
右手で握りしめていた石ころ君。多分、俺が妖精になって一番花粉を間近で大量に浴びた気がする。
だ、だって無機質のはずなのに手の中でモゴモゴ動いてるもん。
「きもッ」
ぽいっ。
地面に投げ捨てお手手をぱんぱんっ。
「ふぅ! やれやれ、だぜ」
……ち、ちらっ。
目を逸らしたが少しだけ視線を向ければ、どんどん大きくなる石ころ君。
い、意味がわからない。無機質って急激に成長するの?
それってもう無機質じゃなくて別の何かじゃね?
お前も羽が生えて触覚がある摩訶不思議生物だろって話になるけど、それは置いといて。
「ふぅむ」
石ころ君はどんどん大きくなり止まることはない。既に俺の身長を越している。
お、俺は悪くないよね。
だって俺も花粉を出したくて出してるわけじゃないし。
文句なら夢の中で俺に密を飲ませた女神様に言ってねっ!
「ヨシッ!」
某おマヌケポーズで石ころ君を指差してから、ぱたぱたぱた〜。
俺は逃げた。
家のすぐそばだったけど、数時間もすれば元通りやろ!
そんな感じで明後日の方向へ思考を投げ飛ばし、今日も森を散策する。
……背後から何かが走ってくる音が聞こえるけど、気のせいだろう。
う、うん。
気のせいったら気のせいだ。いいね?
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