第1話 かまってください

ことの発端は数時間前のこと。


「ねーねー、何してるのー?」

「ゲームばっかしてないで、わたしたちにも構ってよー!」


2人の小さな女の子、いや、天使と悪魔が俺にそう訴えた。

ちなみに『天使と悪魔のような子供』ということではない、

6頭身10センチくらいのフィギュアの天使と悪魔の女の子が2人、

意志を持って俺の頭の上を飛び回っているのだ。


「あのな、俺は今ゲームしてんの!見てわかんない!?」


いいかげん煩くてたまらなかったので、

俺はスマホを片手で持ち、イヤホンを外してから、彼女たちにこう返事をした。

もちろん、相手をしてもらえない彼女たちは、そんな俺の言葉に反発する


「一日中やってるじゃん!」

「そうだよそうだよ!私たち生み出しといて、この扱いは無責任!」


そう、確かに元々フィギュアだった彼女たちに命を吹き込んだのは俺だ。

ちょっとした愚痴を聞いて欲しかったから。


だが…こんなにうるさいのは予想外だった。


「俺は、話し相手が欲しかっただけだ!もっと言うと愚痴相手!」

「だから聞いたじゃん、くだらない喧嘩でしょ?」

「愚痴聞いてあげたんだから、今度は相手してよ」

「どこがだよ!傷口に塩塗るようなことしか言ってないくせに!

せめて天使の方は優しい言葉かけてくれてもいいんじゃねーの?」

「悪尊天卑だ!差別反対!」

「権利は平等に!」


何だよ悪尊天卑って、悪魔尊敬して天使を卑下?してねーよ。

天使っぽい言動を頼んだだけじゃねーか!


大体、優しい意見と厳しい意見を聞こうと思って、

この能力をこの二つのフィギュアに使うことを決めたのに……

当てが外れたのも大概だな。


「大体、何でお前らまだ動いてんだよ、

他の奴らは、1日かそこらですぐに元のフィギュアに戻ったぞ」

「知らない、動けるんだからしょうがないじゃん」

「命は大事にしないとね」


答えになってない。

いや、こいつらは俺に命を吹き込まれただけなんだから

そんな俺の細かい能力のことまで知ってるわけないか。


なんか、そんなやりとりが急に馬鹿らしくなる。


お互いがお互いの欲をぶつけ合う言い合いほどくだらないものはない。

しかも冷静に考えたら言い争いの内容はかなりくだらないものだった。


俺は途中で手を止めていたスマホのRPGゲームに視線を戻した。


しかし、天使と悪魔は急に何も言わなくなった俺が逆に気になったらしい。

騒ぎこそしなくなったが、天使と悪魔は俺のスマホを覗き見てくるようになった。


「どんなゲーム?」

「異世界ファンタジー、勇者が悪魔倒すの」


できるだけ簡潔に答える。

もうさっきみたいなやりとりで、貴重な冬休みのゲームの時間を潰したくない。


集中してゲームをプレイしている俺が不思議で仕方ないらしい。

天使と悪魔が俺に問う。


「飽きないの?」

「そんなに面白い?」

「面白いよ。もういっそ、この世界もRPGだったらよかったのに」


そしたら、この世界のような信頼できる仲間と現代よりも深い絆で結ばれた友情なんかが実現したんだろうか。


それを聞いた悪魔のフィギュアはこんなことを言い出した。


「もしさ、この世界が、本当にそのゲームと一緒になったらどうする?」

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