きみと、きみと

一号にあんなプログラム、あるはずがない。


戦闘兵器といっても遜色そんしょくない強さ。

相手を破壊するまで自身を顧みない戦い方だった。

レプシナもレベルとしてはかなり上位かつ実戦でも十分使える。

…しかし、一号の攻撃の前では、為す術がないようだった。


「もう、やめろ…」


よびかけにも一号は応えない。今はただうずくまって右腕を庇っているレプシナを、踏み付けている。

そして指を伸ばし、レプシナの腹部に向かって狙いを定めた。


直感する――腹を開いて内蔵部品を破壊する気だ!



あんな無邪気な笑顔なのに…不思議と心許せる雰囲気に、どこか違和感を覚える。


違う。…お前はそうじゃ、ない。



「――――はぁい、ストップ」


不意に現われた人影が、一号の手を止めた。

上の木から降りてきたのか、それは突然だった。


髪は異質な緑色…癒しの色なはずなのに、どこか攻撃的な色に感じた。

開かれた瞳は黒に近い灰色。


「博士がストップって言ってるよ?

…一号もとい、ゼロキくん?」


悪戯っぽく笑う、少年。

もしや森の精霊かと一瞬混乱する。

一号は俺の様子を見るように視線を向けた。俺がすぐに止めるようにと指示すると、叱られた子供のように、とぼとぼと走り寄ってきた。


「ごめんなさい…博士、こわい顔しないで」


いつもの一号だ…。

少しほっとするが、目の前で笑っている緑の少年から視線が外せない。

彼は笑っているのに、どこか威圧的で怖い。不思議なくらい気を許せない人懐っこさを持っていた。

なんだ、こいつ…?


「ジェード!てめぇ…やはり敵だったんだな!」


噛み付くように近寄るレプシナ。それにも薄ら笑いのまま、ジェードと呼ばれた彼は視線を向けるだけ。


「なんなんだ、おまえ…」


「正体を見せやがれ!」



詰め寄る俺たちに、わざとらしく首を傾げてみせる。


「…何度も言ったはずだけど、レプシナは頑固だねぇ。はじめましての人もいるから特別に改めて自己紹介しちゃうよ。

僕の名前は、ジェード。

遺伝子操作実験亜種『アズル三位一体』のひとつ、記憶を司っている部品になるとこです。

この度、ばらばらにされちゃった僕を一つにするために、君たちの喧嘩に割って入ったのよ。


…わかってくれたかな?」


あっさりとぺらぺら話すが、何一つ理解できない。ただ分かるのは…


「お前も、機械人形なのか?」


緑の髪の少年は一号を指差しながら、頷く。


「そこの機械人形と兄弟型。だからレプシナも含めて、いまは三つ子ってわけだね。


あぁ…きみは、記憶を無くしている、んだったよねぇ」


びくり、と体が震える一号。

ジェードは笑う、笑っていない雰囲気のまま。


「そういうわけで、ゼロキもまとめて一緒に来てもらえるかな?

そうでしょ、レプシナ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る