第二章 雛沢ももえの窮境

2-1 会員制未成年売春クラブ『CLUBハニー』

 達川は都内某所の奥まった場所で運営されている非合法の会員制未成年売春クラブ「CLUBハニー」のCランク会員だった。


   ◆


「ランクによって変わって来るのが、抱ける女の質です。」


 入会の折りに参加を義務付けられているという説明会の席上で、達川の前に現れた係員を名乗る男は事も無げに言った。「女の質」という人を人とも思わない言葉が、ここがカタギの人間の棲家から隔離された空間である事を顕していた。


 このクラブの会員は入会手続きののち、所定の審査を経てランクが付けられる。

 有力政治家や官僚などはSランクに分類され、名の通った実業家や行使出来る影響力や実権がやや弱いと判断された政治家、大物芸能人などはA。以下、社会的地位や収入・経歴(特に賞罰の有無)などによってB・C・D・Fの何処かに振り分けられる。その後繰り返し利用する事でランクが上がっていく。


「ただ、このクラブに入会されるのは筋金入りの少女愛好者ばかりでして、その中で実際にローティーンの日本人少女を抱けるのは該当会員わずか数名のSランクのみ。以下A、B……とランクが下がる毎に女共の年齢が上がり、外国人の比率が増えていきます。」

「何だ、ハナからロリっ子とヤれる訳じゃねえのかよ。」

「ええ。達川様の最初のお相手を務めますのはこの女です」


 係員はそう言うと童顔ながら体つきと肌質はしっかりとくたびれている女の写真を達川に手渡した。今生の幸せをすでに諦めたかの様な辛気臭い表情を浮かべている。


「まぁ年嵩の童顔女ってのもオツなもんですよ。洗濯板の様な胸と浮いた肋骨、骨張ったケツを眺めて撫でてイマジネーションを働かせれば未成年を犯している気分はそこそこに味わえますし、通い詰めればランクが上がって若い国産女を抱ける訳ですから。」

「っつったって、こんなんじゃヌケねぇよ。」

「ああ、そうですか。」


 眉間に皺を寄せて吐き捨てる達川に係員は顔色ひとつ変える事なく生返事を返した。この手のクレームは慣れっこなのかもしれない。


「まあここの女共はみな様々な非人道的・超法規的手段を使って国内外から性処理用に集められて来てるもんですから、どいつもこいつも一様に虚ろな目をしていて感情の起伏に乏しいってのはあるんですよ。その傾向は年齢が若ければ若い程顕著ですし。」

「愛想も悪けりゃベッドの上でもマグロってんじゃどうしようもねえじゃねえか。」

「なので、そういった会員様は別料金を払って暴力という『刺激』を与えて、女共から反応を引き出されるんですよ。」

「暴力………?」


 達川とてファック中に興が乗って女の尻を引っ叩いたり首を絞めた事くらいはある。が、係員が口にした「暴力」という言葉からは、そんなチンケなレベルの物ではない凄味が伝わって来た。


「素手による殴打、鞭打ち、蝋燭、電撃、三角木馬といったオーソドックスな物から、少々値は張りますが焼きごてやピアッシングといった確実に跡が残ってしまう様なプレイもご用意しております。プレイ中に女が壊れてしまった場合は弁済をして頂く事になりますが……まぁ中にはそこをも一つのアトラクションとして楽しまれる方もいらっしゃいますので。」


 金と権力の前にはあらゆる尊厳が無力になる世界……胸がすくような光景だ。

 やはり日本は本質的には暴力社会なのだ。


 使い物にならなくなった女がその後どうなるのかは訊かなかった。幸せな未来など訪れないであろう事は間違いないが。


   ◆


 アニメファンの間ではそれなりに名が知られ相応の収入もあった達川は、入会こそ許されたもののランクはEからのスタートであった。

 その後店に通いつめて800万円程を注ぎ込み、他の店で出て来たなら鉄拳を叩き込みながらチェンジするであろうクラスの女を耐え忍びながら抱き続け、口が固くて同じロリコン趣味がある子分格のスタッフや声優を数人会員に引き入れ、ようやっとCランクに上がり稀にミドルティーンの女をあてがって貰える様になる迄実に3年を要した。


 なお、噂では「ストライクゾーンは3才から11才」と公言して憚らぬ超有名国民的アニメ監督・那須川なすがわ透もこのCLUBハニーに入会しCランクからのスタートになったそうで、入会すれば即未成年の少女との蜜月が味わえると思っていた那須川はその審査結果に大いに憤慨したという。

 世界中で作品を評価され、恐らく史上最も偉大なアニメ監督として多くの人に認知されているあの那須川さえCランクとは…と、達川はアニメ業界関係者の社会的地位が未だに低く見積もられている現実をなんとも妙なきっかけから突きつけられたのであった。

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