第6話 修羅場

 その後、お姫様につきまとわれ続けた。

 何が楽しいのか、それとも単に馬鹿騒ぎの熱気に当てられただけなのかよく笑った。


 もちろん、その間、否応なく問題ごとを起こり続けた。

 そのため、お姫様のお相手をしながらもオレは生徒会の代理としての見回りにも勤しんだ。


 そんな時、なぜかお姫様は厄介なことにやたらと首を突っ込んで、その場をかき乱してくれた。


 例えば、変なお面を被った男と骸骨の男が取っ組み合いの喧嘩をしていた。

 その間に入り込むようにして、お姫様が毅然とした態度で言った。


『お二人とも、少し静かにしていただけませんこと?』

『なんだテメー!』『女は引っ込んでろ!』

『氷よ、舞え』

『ちょっ——』

 

 とオレが止める前にはすでに魔術を行使していた。

 瞬時に、二人の男を氷付けになった。


 もちろん、野次馬たちに囲まれていたがなんとか人混みをかき分けた。

 そして、このままでは壊死して死ぬ可能性もあったため、急いで救護班へと引き渡した。


 ……とにかく、お転婆にも程があるというか、ただのじゃじゃ馬だった。


 などとこちらの疲れた雰囲気など歯牙にもかけずに、お姫様は終始楽しそうにしていた。


「楽しそうだな?」


「ふふふ、だってそのラビットモンスターのお耳とあなた様の仏頂面のお顔、全然似合っていないんですもの」とオレから仮面を奪って、お姫様はおかしそうに笑った。


「っち、そうかよ。てか、これはア……いや、婚約者とおそろいなんだから仕方ないだろがっ」


「へえ、そうでしたか……」


「……なんだよ?別に仏頂面の男でも婚約者はいるんだよ。驚いたか?」


「別にそういう訳ではありませんが……そうですね、あなた様の愛しの婚約者様は、こちらに向かって来ている方でしょうか」


 お姫様の視線がオレの後ろへと向けられた。

 その視線につられて、オレは振り返った。


「——っ!?」


 どうやらアンナ様は相当お怒りのようだ。


 細い腕を胸の前で組んで、ズカズカと急足でこちらに向かってくるのが見えた。


 あ……終わった。


 ●●◯●●


 数秒ほどだろうか。

 わずかにスッと細められた視線を感じた。

 おそらくオレと隣にいる女——お姫様を観察しているのだろう。


 オレはどのように言い訳するべきかを考えようとしたが、アンナが口を切った。


「それで、隣にいる女は誰なのよ?」

「いやこの子は——」

「この子?」

「あ、いや、この人はさっき酔っ払いから助けただけだからこれっぽっちもやましいことなんてないから——」

「もういい、それで——」とオレの言葉を最後まで聞かずに視線を逸らして、アンナはお姫様を睨んだ。

「……なんでしょうか?」

「これ、わたしの婚約者なんだけど」

「だからなんですか?」

「はあ?わかるでしょ」

「……醜い嫉妬でしょうか」

「はあ!?」


 アンナは声を荒げた。

 それに得意な炎の魔術がわずかに身体から漏れている。


 それに対して、キョトンとした表情でお姫様は首を傾げた。

 

 ……勘弁してくれ。


「あ、あのアンナ、いいかな?」

「……何よ?」

「いや、オレが悪かった……だから、とりあえずもう行こう。生徒会の手伝いもこの辺で終わりにするから」

「ふん、わかった。でもその前にこの人と二人だけで話をさせて」

「え?」

「だから、少し待つことくらい別にいいでしょ?」

「……わかった」


 流石にオレのいないところで魔術で決闘することはないだろう。

 一応、アンナは公爵令嬢だし、学院卒業前に厄介な問題を起こすことはないだろう。


 お姫様だって……いやお姫様は意外と手が出るのが早いことがこの数時間一緒にいることでわかってしまったからなんとも言えないな。


 うん、まあ問題ないと信じることにしよう。


 アンナはお姫様を睨んだ。


「そういうことだから、ちょっと付いてきて」

「ふふ、わかりました」とお姫様はおかしそうに微笑んだ。そして、二歩ほど歩いてから振り返った。ラベンダー色の瞳がわずかに細められた。

「それでは……お呼ばれしてしまったのでここでお別れですね。シュウ様、ありがとうございました」

「ああ」

「では、失礼します」


 そう言って、お辞儀をしてからアンナの少し後をついて行った。


 ……てか、貧乏貴族のオレの名前くらいは流石に知っていたのか。

 かつて一度だけ講義で手助けをしたことがあったが、それ以来あまり関わりがなかったはずだが……さすが王族ということだろうか。


 そんなことを考えながら、オレは遠ざかる二人の背中を見続けた。

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