第42話:王国ダンジョン事情
アストリウム王国のダンジョン事情は少々特殊だ。
新規ダンジョンが妙に多いのである。国土全域である日突然現れ、それを冒険者が攻略する。ずっと昔からそんな感じで、ダンジョンを神の恵みの資源として国を富ませてきた。
大抵の新規ダンジョンは浅いもので、一年以内に攻略される。しかし、それ以上に新しく発見されるものが多い。年々範囲は広がり、最近は王都の近くで発見されるのも珍しくない。
「この王国に異常にダンジョンの発生件数が多い理由。それが、世界樹の根なんじゃないかって思うんです」
「……………」
俺の発言に、その場の全員が沈黙した。温泉の王とラーズさんは深く考えて、検討している様子。
最初に口を開いたのはイーファだ。
「あの、そんなことがありえるんですか?」
俺は頭の中で考えをまとめながら話をする。
「世界樹の作るダンジョンといっても、必ず植物型とは限らない。そもそも、ダンジョン自体がよくわからない法則で出現するんだ。かつての世界樹の中にも、人工物っぽい階層もあったらしい」
「それは確かな話だ。中層に石造りで構築されたフロアがあり、休憩所があった。なるほど、確かに根がダンジョンという形で現れているなら、多様なものになるであろう」
温泉の王が俺の話を補足してくれた。
もし世界樹の根、裏世界樹と呼ばれるダンジョンがあったら。
もし、その根が今も活動していて王国中に広がっていたら。
もし、それがダンジョンとして出現していて、根の大元であるピーメイ村周辺にも何らかの影響を与えていたら。
全て仮定の話だが、一応、理屈としてはそれなりに通るように思える。
「根だからといって、わかりやすい形じゃないというのはあり得ますね。問題は、どうやって証明するかですけれどー」
「ギルドの記録と照会すれば、ある程度わかるかもしれません。魔物の活性時期と、王国内で活発なダンジョンに関係があるように見えるなら・・・・・・」
「さすがは先輩です! あ、でも、それなら前に誰かが気づいていてもおかしくないのでは?」
イーファの言うことも、もっともだ。だが、そもそもピーメイ村がド田舎だということを忘れて貰っては困る。
「ダンジョンの記録は各ギルドで個別に保管されている。わざわざ他の地域のものと比べようなんて思う人はなかなかいない。それも、中央から遠く離れた地域なら尚更だ」
「ここが辺境になった故に、検証されなかったということか……」
「全部仮説……いえ、妄想に近いですけれどね」
さんざん話しておいてなんだが、自信は全然ない。思いつきだ。
「いえ! 先輩の神痕から考えても可能性はあると私は思います!」
「わたしも調べる価値があると思います。これって、どこにいけばわかるのでしょう?」
一応、調べる方法はある。今の俺にはちょっと難しい方法だが。
「王都のギルド本部なら、ダンジョン発生と攻略の記録がまとまってるはずです。そこにピーメイ村の魔物発生の記録を持っていけば、比較できると思うんですが」
「お、王都ですか。遠いですねぇ……」
イーファががっかりと肩を落とした。
クレニオンの町くらいなら何とかなるが、片道十五日以上の王都は気軽にいける距離じゃない。それが問題だ。
どうにかして理由をつけられないか。いや、一つ思いつくぞ。
「今、王都の近くで攻略中のダンジョンがあるんです。もしそこも世界樹の根だとしたら、裏世界樹に辿り着く手がかりが見つかるかもしれない」
俺の左遷の原因になったあのダンジョンだ。もしかしたら、あれも世界樹の根かもしれない。もう関係ないものと諦めていたけど、こうなるとどうにかして関わりたくなってくる。
「……サズ君。ギルドに戻って相談するといい。我からも所長へ手紙を書こう。君とイーファが王都に向かえないものかと」
温泉の王が厳かに言った。
「イーファも一緒でいいんですか? そりゃ、ダンジョンに行く可能性も考えると助かりますが」
「ドレンはイーファに経験を積ませたがっている。むしろ、その方が許可がでやすかろう」
そうか。新人育成の名目も足すのか。たしかに、イーファはここでのんびり仕事をさせておくには惜しい人材だ。
「では、私も同じようなお手紙を書くようにしますね。一応、相談役ですから、役に立つでしょう」
驚いているとラーズさんも笑顔で話す。
「いいんですか? なにも見つからないかもしれないですよ?」
「それ故に、色々な手法を試すべきだと我は考えている」
「わたしも同意見です」
王様はやる気だ。彼なりに、この地域に思うものがあるのかもしれない。
どうしたものかと、イーファの方を見る。
「王都……私が王都に……。あの夢の都に私も行っていいんですか?」
目をキラキラさせて呟いていた。これ、行けなかったら相当落ち込むぞ。
おかげで俺も覚悟が決まった。
温泉の王とラーズさんに向かってゆっくりと頭を下げる。
「宜しくお願いします。俺が今の話を、しっかりと所長達に伝えますから」
横で慌ててイーファが頭を下げた。
それから三日後、俺とイーファの王都行きが決まった。
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