第17話:所長からの依頼

 俺がピーメイ村に来て、二十日ほどたった。冒険者兼ギルド職員という仕事にも少し慣れてきた。大抵は、村の雑務にイーファと二人であたる形なので、やりやすい。 

 ドレン課長は数少ない村人の要望を聞いて、あれこれ俺達に指示を出してくれる。所長は暇そうだ、たまにどこかへ手紙を書いている。


 暇な時間を生かして、俺は沢山ある村の過去資料に目を通したりして日々を過ごしている。なにぶん、謎の多い村だ、調べておくのは無駄じゃないだろう。



 離れた机ではイーファが賢明に書類を作成している。一般的な業務の流れを何度か教えて、今は試しに一人でやってもらっているところだ。イーファの能力的に他の支部に異動してもおかしくない、そんな時、困らない程度にはなっているようにしてあげたい。


「充実した日々を過ごしているようだな、サズ君」


 過去の書類を読んでいると、ルグナ所長が話しかけてきた。


「生活も含めて、ようやく少し慣れてきたところです。大分、皆さんのお世話になっていますが」

「気にすることはない。それも含めての私のようなものだ。イーファ君の指導もしているようで、大変よろしい」


 ルグナ所長にもとてもお世話になっている。彼女もギルドの宿舎部分に滞在していて、連れてきたメイド達が俺の分も料理を作ってくれるのだ。さすがは王族、こんな山奥でも生活しやすいように最低限は整えてもらっているというわけだ。

 なんなら洗濯もしてくれると言われたが、さすがに悪いので自力でやっている。

 それと、宿舎内の男湯が稼働したのも嬉しい。毎日例の温泉に浸かれるおかげか、体調がとてもよい。


 もちろん、イーファにも世話になっている。この村育ちの彼女には色々と教わることが多い。


 当初は不安だった左遷先での業務だけど、人に恵まれたようだ。


「先輩のおかげで、できることが増えて嬉しいです。村もちょっと賑やかになりましたし」

「いやぁ、冒険者が二人になっただけで、色々と融通が効くから助かるよ」


 そんな感じで、イーファと課長からも好意的に受け止めて貰っている。とりあえず、上手く馴染めたと思うことにしよう。


「新人が定着しつつあるのは喜ばしいな。さて、そんな中、面倒な仕事を頼むのは気が引けるのだが……」


 ルグナ所長も暇を持て余して話しかけて来た、というわけではないようだ。


「もしかして、魔物の調査ですか?」

「よくわかったな。ドレン課長と相談して、例年より早めにピーメイ村周辺の魔物調査と掃討を行おうと思うんだ。二人が採取の際、また魔物に遭遇したしね」


 あれから三度ほど薬草採取に行ったが、その時に一度ブラックボアに遭遇した。

 例年に比べると、この頻度で魔物が発生するにはちょっと珍しい。

 

 資料によると、夏ごろに魔物が増える時期があり、そこで町から冒険者を呼んで掃討作戦をすることになっていた。尚、夏に魔物が増える原因も不明。謎の土地である。


「つまり、クレニオンの町に行って依頼をかけるんですねっ」


 嬉しそうに言ったのはイーファだった。人の少ない室内だ、当然のように話を聞いていたらしい。


 クレニオンの町は、コブメイ村から更に半日ほど歩いたところにある大きな町だ。最近、大きな街道が繋がって、この辺りの中心として発展しつつある。

 当然、冒険者ギルドも大きく、ピーメイ村で何かあった時は、クレニオンのギルドに依頼をかけることになっている。


「その通り。私が作った依頼書、課長がまとめた報告書。これをクレニオンのギルドに提出してくれ。基本は例年通り。魔物について聞かれたならば、二人なら答えられるだろう?」

「俺達がいない間はどうなるんです?」


 ちょっとした出張に俺とイーファを行かせるつもりらしい。

 基本的に何もない村とはいえ、二人も職員が抜けるのは心配だ。冒険者でもあるし。


「心配無用、隣村の冒険者を手配する手はずになっている」

「ゴウラ達ですか。それなら平気ですね」

 

 ゴウラ達とは、あれから何度も会った。彼はゴブリン討伐を確認した後、すぐに温泉の王に会って、神痕の使い方について色々と聞いたらしい。

 少しコツを掴んだらしく、明るい顔をしていた。仲間の二人も回復して、彼に鍛えられている。数日留守にするくらいなら、大丈夫だ。


「二人とも、仕事は平気か? 問題なければ明日にでも出発してほしい。準備に必要なものがあれば、遠慮無く言うように」

「はい!」

 

 俺とイーファは同時に答えた。

 ピーメイ村冒険者ギルドにとって年に一度の大イベントの始まりだ。

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