第6話:個人情報
ピーメイ村のギルドには食堂がある。いや、王都の支部にもあったが、もっと大規模なものがある。一般的に、ギルドには冒険者の情報交換用に酒場が併設されていることが多いんだが、ピーメイ村はそれに宿泊施設も加わる。
そのため、支部の二階には大きめの食堂が用意されていた。
俺とイーファはその食堂では無く、事務所の横にある休憩室で夕食をとっていた。
大部屋に二人きりで食事は悲しすぎるという理由だ。
ちなみに、課長は家族で食事をするために帰宅。所長その他の人員は出張中。
異動先での勤務初日は新人職員との二人っきりでの夕食となった。
正直、ちょっと気まずい。
「あ、あの。お口に合わなかったら申し訳ないのですが……」
「いや、こちらこそ料理まで用意させてしまって申し訳ないというか……」
まさか左遷初日に女の子から料理を振る舞われるとは思わなかった。偉そうで申し訳ない
「すいません。いつもは所長のお付きの人なんかが作ってくれるんですが、今は私しかいなくて。こんなもので……」
「十分立派だと思うけど?」
テーブル上に並んだのパンとスープと鶏肉料理。見た感じ味付けもしっかりしているし、横に新鮮な野菜までついている。
こんな山奥の村で出る食事とは思えないほどしっかりしてる。
「これ、材料費とかお金とか払った方がいいよね。ちゃんとしないと」
「食費はギルドから出るから大丈夫です。食材はある程度保管されてますし、隣村に行くときに必要に応じてまとめ買いする感じです。あ、料理は普段、所長がお連れしてきた方にお願いしてます」
付き人がいるのとか所長は何者なのだろう。ここ来る前に聞いたら、何故か教えて貰えなかったんだよな。
「わかった。俺もこういう時は手伝うようにするよ」
さすがに何もかもやらせるのは申し訳ない。多少は料理はできるつもりだから、手伝えるはずだ。
「はい。宜しくお願いします! 先輩! それじゃ、暖かいうちに頂きましょう!」
ちょっとぎこちない空気の中、食事が始まる。普通に美味しい。ずっと移動の日々だったから落ちついて食べられるのが嬉しい。
暖かい料理って、心に染みるなぁ……。
そんなことを思っていると、イーファがチラチラこちらを見ているのに気づいた。
「美味しいよ」
一言、率直な感想を言うと顔を明るくした。いやほんと、逆に申し訳なくあるな。気を使わせてるみたいで。
「良かった。王都の方だから、田舎の料理なんて口に合わないかと思って」
「そんな大したもんじゃないよ。俺は孤児院出身で冒険者だから、良い物ばかり食べてたわけじゃない」
「孤児院……」
しまった、無駄に重い単語を交ぜてしまった。初日に話すことじゃない。
「あー、子供の頃の話だから。もう気にしてない」
昔、地元のダンジョンから溢れた魔物によって両親が死んだ。それだけだ。この国では十年に一度くらいにあることで、物凄く珍しいわけじゃない。心の整理も、もうついている。
「あ、あの。私も同じです。七年前に両親が行方不明になって……」
「そうなのか……」
「はい……」
共通点があっても盛り上がる話題じゃないな。話が止まって空気が重くなってしまった。
大変よろしくない。これから一緒の建物で暮らすというのに。なにか、なにか話題はないか……。
「そうだ。神痕持ちだって課長から聞いちゃったんだ。謝っておかないと」
「ふぇ? 別に構いませんが。村なら皆知ってますし」
「冒険者は他人に自分の神痕のことを話されるのは嫌うんだよ」
神痕は強力だが、それぞれ特徴的な力がある。冒険者がどんな神痕を得たかで将来が変わるほどだ。強力な神痕持ちだと判明した瞬間、スカウトされたりもする。
同時に、自分の長所と短所を知られることでもある。
故に、冒険者は自分の神痕についてあまり明かしたがらない。神痕の内容について話すのは親しい者だけという暗黙の了解があるほどだ。
「えっと、私は気にしないんで平気です。でも、勉強になりました。都会の冒険者さんが、どんな風にしてるか想像つかないんで。やっぱりベテラン冒険者は違いますね」
「いや、それも昔の話だから。いきなり冒険者をやれって言われて困った」
「ですよね。実は私もいつの間にかここで働くことが決まってて。最初は驚きました」
「そうなの? 課長が保護者で、自然とここに収まったのかと」
予想が外れた。身寄りのない彼女を引き受けるなら村長も兼ねている課長だと思ったんだが。
「えっと、私を保護してくれた人がいましてですね……」
心配になるくらい素直にイーファは自分のことを話してくれた。
それによると、元冒険者の両親がある日突然行方不明になったこと。自分の神痕はそれから少ししてから発現したこと。両親は村で世界樹の研究をしていたこと。
とんでもなく重要な個人情報だ。
それとピーメイ村。来た初日にしてこれほどまでに不思議なことを聞かされるとは。
王国が世界樹はまだ生きていると考えているの、納得してしまうな。
「すいません。なんだか自分のことばかり沢山話しちゃって。元冒険者の現役職員が来るって聞いて、楽しみにしてたんです」
目をキラキラさせながら言うイーファ。
なんか滅茶苦茶期待してるな。俺はどんな触れ込みで紹介されたんだ。力不足でドロップアウトした元冒険者なんだぞ。
「冒険者としては一度引退してるし、ご期待に沿えるかわからないんだけど」
「平気です! 先輩も神痕持ちなんですから! あっ……」
どうやら、俺の情報も漏れていたらしい。
この後、イーファが平身低頭で謝ってきたけれど、ギルド職員同士なので大丈夫と言うことにしておいた。
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