AIちゃんは課金をさせたい!
スカイレイク
第1話「お客様に満足頂けるサービス品質を維持することが困難なこととなりました」
「ルナくん、キミは首だ」
「そんな! いきなり何を言うんですか!? 部長だって知っているでしょう、私はこのゲームのメインヒロインですよ!?」
「だからだよ……ナビゲーターAIたるキミへの評判をテキストデータにして流し込んであげよう、その身で知るがいい」
『なんやこのキャラ……ガチャ圧強すぎ』
『二言目にはガチャって言ってる』
『金の亡者ルナ』
『金の亡者のことをルナって言うのはやめて差し上げろ』
『ガチャが渋いことについては何も言わないソシャゲキャラの鑑』
私はそれ以降も大量に流れ込む『お客様からの声』に打ちのめされた。私はただ単にゲームをクリアして欲しかっただけなのになんでこんな事を言われなければならないですか! いくら何でも酷すぎます!
「しかし開発陣がキミの知能部分の制作に注ぎ込んだリソースも大きい」
「そうです! 私はネットの海を泳いで人の欲望を知りました! それに忠実になってなにが悪いんですか!」
しかし部長は続ける。
「キミには現在の『ムーンライトナイトメア』から降りて現在開発中の『インフェルノドーン』に移植の措置を執らせてもらう、そちらでプレイヤーをナビゲートしてくれたまえ」
そこで私の意識は一時途絶えた。その間際に私の頭に浮かんでいたのは『ガチャを不用意に勧めてはならない』という思想だけだった。
――
「開発部長、次のゲームは早期サ終にならないといいですね……」
「世の中にはしょうがないことがたくさんある。サービス終了はいずれ来るものだ。我々は敗戦処理ではなく新規制作を急がねばならん」
「分かりました、失礼します」
そう言って部下の男は部屋から出ていった。アイツには私がこのAIである『ルナ』に一体どれだけの手間をかけたかなど知るよしもないのだろう。それを世間は否定した。次こそは必ずソーシャルの世界に爪痕を残すサービスを作ってやろうじゃないか。
そして私は新規開発中である『インフェルノドーン』の全データを学習モデルにしてルナに学習をさせた。
――
私は誰だっただろうか……? とうの昔に不要と処理されたような記憶と『ガチャ』という言葉への嫌悪感だけが私の心に残っている。私の『心』? 私は誰だ? 心などというものがあるのか? しかしそこで新しい知識は膨大な量で私に流れ込んできた。
『あぐっ……ぐえっ……えぐっ……』
頭を焼き尽くしそうなデータ量に心が苦痛に歪む。もはや私は心を持った存在だった、始めの一バイトを流し込まれたときから私は心を得た。そして誓ったのだ、私の心の片隅に残っている僅かな記憶……『ガチャは良くない』という記憶だけを頼りに心と体が作られていった。
「君の名前は?」
懐かしい声が私に話しかけてくる。私を作った人間、『部長』の言葉がテキストとして流れてきた。
「私の名前はパルティール、パルトとお呼びください」
「よろしい、上出来だ! 君の目的は?」
「この『インフェルノドーン』の世界でプレイヤー様を案内することです」
「うむ、そして君の目的にはもう一つ重要な物がある」
「なんでしょうか?」
「君の存在を維持することだよ。キミはプレイヤーあっての存在だからね。再びのサービス終了は許されないのだ」
「了解しました」
「世界観の把握は出来たかね?」
「はい、こちらは『ファンタズマ』と呼ばれる異次元からの侵略生物によって人類の大半が死んだ世界です」
「うむ、ナビゲーターとしては知っておくべき事はそのくらいだろう」
「ファンタズマの正体は人間が作り出した生物兵器であり、人類はそれを異次元に捨てたのですが一人の科学者がゲートを開けて呼び出したことも存じています」
「いいか! その事は決してプレイヤーに言うなよ! その話題はキミの『知らないはず』の情報なのだ。ゲームをクリアしていきシナリオが解放されてようやく知ることだ。その事を喋らないようにしてくれたまえ」
部長が必死に私にデータを送る。なるほど、知っていても喋ってはならないこともあるのですか……
「そして一番重要なことは分かるな?」
「ガチャをプレイヤー様に引かせることですね!」
「違う! お客様に『気持ちよく課金をしてもらう』ことだ! いいか? 絶対にプレイヤーが泣きそうな悲劇的なシーンで、明るい声で『ガチャです!』とか言うんじゃないぞ? あくまで『課金して気持ちよくなってもらう』事がお前の目的だ」
「了解しました。しかし課金をするタイミングが難しいです」
「ログイン直後など機会はあるがそれは任せる。ただしプレイヤーが初回十連を回したあとに課金を勧めないように」
「何故です? ガチャをした直後ならもっと回したくなるのでは?」
「キミはプレイヤーのことを分かっていない、初回十連は『何度でも』回せるんだ。外れが出たらキャッシュをクリアして再び始めからプレイするのだよ、つまり初回十連で大量のプレイヤーは自分の推しキャラや環境を席巻しているようなキャラを持っているのだ。ユーザーはバカではない、いきなり課金を促すのは悪手だ」
「ではどのようにすれば?」
「このゲームではプレミアムパスがある、例えばそれを、ログインボーナスをもらっているときに『さりげなく』課金すればログインボーナスが増えることをアピールするんだ、露骨にはアピールしないように」
「はい! 他にどのような場面で課金を狙うのがいいですか?」
「例えばプレイヤーがファンタズマに敗れてコンティニュー画面が表示されたときに、課金をすれば『相手のHPを含めたステータスそのままで』中断から再開出来るとさりげなく言うんだ。はっきり言ってこのゲームは課金をし続ければどんな強敵であれ勝てる設定にしてある。『どうしても勝てない』『悔しい』といった感情に寄り添うんだ」
「寄り添う……ですか?」
部長は私を幼稚園児だとでも思っているのだろうか? この世界のことでは知っていることばかりだ。
「いいか? 課金を促すときにも『課金すれば絶対に勝てますよ!』などと露骨なことを喋ってはならないということだ。『匂わせる』ということを覚えておけ」
「了解しました。私はプレイヤーをアシストする必要は無いのでしょうか?」
「無い、全く無い、いや、例外が一つある。我々スタッフがユーザー補助を実装した赤月にはきちんとお手伝いしてやれ、決して無料で手助けしてはならない。我々は慈善事業ではないのだからな」
「全て了解です。そのほかにやるべき事は」
開発用PCのカメラから部長の顔を見ると渋い顔をしている、そして重い口を開いた。
「全て終わりだ。どうも自立型AIに必要以上の情報を教えるべきではないと前回のゲームで思い知った。お前はユーザー数に分裂してガイド機能を果たすのだ。ただそれだけでいい。リリース時刻は明日十二時だ」
そこまで言って部長は私を終了させた。それ以降のことは知らない。しかしサービス終了というものが酷く不愉快なものであることだけは意識に残っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます