第7話 マーク、合同クエストを受ける
ルルリアとパーティーを組んで1週間がたった。僕らはすでに何度か簡単なクエスト(依頼)をこなしていた。
ギルドに帰ってくるとタリアさんが待ってましたとばかりに駆けつけてくる。その大きな膨らみをブンブンさせながら。
「お戻りですか~お疲れ様です~」
僕らの専属受付嬢であるタリアさんが、クエストで採取してきた薬草を手に取り鑑定してくれている。
「はい~今回もクエストは達成です~報酬をお受け取りください~」
僕はタリアさんから差し出された報酬を受け取る。報酬はルルリアと半分こだ。
当初ルルリアは報酬を受け取ろうとしなかったが、それはダメだと説得して半分こに至る。仲間だしね。
コツコツとクエストをこなしていたので、毎月入れている妹のための治療費もだいぶ溜まってきた。
今はパーティーがFランクなので、受けられるクエストも限られるうえに報酬単価も低い。まあその分難易度の低いクエストが多いのだが。
ランクが上がれば難易度の高いクエストも受けられるようになる。その分報酬も上がる。
「では、では~明日のクエストも決めていきますか~ちょうどいいのがあるんですよ~」
タリアさんから差し出された紙をみる。ふむ。「合同クエスト:フレイムタイガー討伐」とな。
合同クエストとは、複数の冒険者が共同で依頼を受けるクエストである。
フレイムタイガーはDランクの魔物だ。ただしそれは単体でという条件つきである。群れるとDランク以上の脅威となるからだ。
僕は備考欄に目を向けた。「100匹以上出現の可能性あり」と書いているではないか。
「タリアさん…これ」
「ふふ~Dランクの魔物ですよ~マークさんのサンマークパーティーなら余裕ですよね~」
「いや、でも備考…」
「草むしりばかりじゃ飽きたでしょう~」
草むしりって…薬草採取だって大事なクエストですよ、タリアさん。
今日のタリアさんはやけに押してくるな。
「それに参加条件が原則Dランクパーティーからとなってますよ」
「大丈夫です~私の特権で参加可能にします~」
いや、ランクの意味どうなってんの。
ん? もしかして…
「えと、これってたくさん討伐すると、タリアさんの評価にも関係しますか?」
「あれ~どうだったかしら~」
思いっきり、カウンター奥に貼ってある「冬の受付嬢トップ決定戦」って成績表のグラフをチラ見してたぞ!
そして、隣の美人受付嬢をじっと睨んでる。たしか隣の人はレーナさんだったか、成績優秀でギルド内でも人気のある人だ。
ははぁ、なるほど。
「タリアさんトップ取りたいんですね?」
「マークさん! お金がたくさん必要だと聞いてますよ~むふふ~」
う、この人…
「たしかに難易度は高いかと思いますが~その分の実入りも良いですよ~むふふ~」
ぐ、すでにこの人に色々握られているような気がしてきた…
「マーク先輩! このクエスト受けましょう! 稼ぐチャンスですよ!」
「う~ん、しかし…」
僕としてはパーティー結成して間もないので、段階的にクエスト難度を上げていきたいところなのだ。ルルリアは旧知の仲ではあるが、2人での連携はまだまだ未知の部分があるし。焦らなくてもいいんだ。
『マスター、やっていいのでは? 連日の薬草採取で、太陽電力は十分たまってイマスヨ』
レクシスが僕に耳打ちする。
ちなみにレクシスは認識疎外スキルを発動しているので、僕やルルリア以外の人には気づかれない。
そうだな、たしかに太陽電力はほぼフルに充電されている。それに知名度を上げるチャンスでもある。ルルリアとしては当初の目標の1つである教会への発言力強化にわずかでも前進したいところだろう。まあ、相当厳しい道のりだろうけど。
ルルリアもレクシスも賛成のようだし。ここは挑戦してみるか。
「わかりました、クエストを受けます。ただし期待しちゃダメですよ」
「ふふ~了解です~これであの生意気レーナに勝てるぅ~」
タリアさん本音が漏れてますよ…
◇◇◇
翌朝、僕らは町の郊外にある街道にて点呼を受けていた。
今回のクエストは複数のパーティーが参加するからだ。
「ということだ、各自油断せぬよう。では持ち場へ」
一連の説明を終えた人は、Aランクパーティー「黒の狩人」リーダーであるゴランさん。複数パーティーの全体リーダーとしてギルドに指名されたらしい。
作戦内容を要約すると、ここ最近フレイムタイガーによる襲撃被害が急増している。
マルアートの町に通じる街道での被害が多く、商人が何度か襲わたとのことだ。物流も滞りがちだという。そこで商業ギルドが冒険者ギルドにフレイムタイガーの討伐依頼をあげてきたというわけだ。
今回クエストに参加するパーティーは全部で5つ。それを4つに分けて東西南北の4つの街道に展開する。
異変があれば、ファイヤーボールを上空で破裂させて知らせる。パーティーを集結させて討伐開始。
とまあこんなところだ。
「さてと、僕らも行こうか」
ルルリアに声をかける。
僕らはFランクパーティーで2人しかいないので、Aランクパーティー「黒の狩人」と一緒だ。
担当は西の街道だ。
マルマートの町を出て、周囲を警戒しつつ街道沿いに西に進む。今日も晴天だな、さんさんと太陽が僕らを照り付けている。
にしてもさすがAランク、パーティーメンバー全員が相応のレベルだ。集中力すごいし隙がない。
「後衛のレリナです。よろしくね、マークさん、ルルリアさん」
「黒の狩人」メンバーの1人が声をかけてくれた。女性のプリースト(神官)だ。
こちらもよろしくと挨拶を交わす。
うむ、レリナさんの持ってる杖。見るからに立派な
ふとルルリアの方を見る。
わぁ~木の棒みたいなの持たせてる。聖女様なのに…
ルルリアは勇者パーティー時代の貴重な装備をほとんど持っていない。勢いで僕を探しに飛び出してしまったからだ。
「ご、ごめんよルルリア。資金繰りが改善されたらいい杖買うから…」
「え? なんです? ああ、レリナ(プリースト)さん凄い杖もってますね」
「う、うん…」
「マーク先輩~私たちまだFランクパーティーなんですよ、先輩いつも言ってますよね。身の丈にあった装備で十分って。これからも2人でワクワクパーティータイムが続くんですから。装備なんて少しずつ良くしていけばいいだけです」
ワクワクパーティータイムってなんだ。
でも、そうか僕と同じ目線で考えてくれているのはありがたい。だけど僕はいいけどルルリアには良い装備をして欲しい。彼女が聖女としての夢を叶えるためにも実益と外見はある程度整えないとな。
「へ、ろくな装備もせずにこのクエストに参加たぁ。ずいぶんと舐めてるじゃねぇか」
今度はレリナさんとは反対側を歩いていた、戦士風の男が声をかけてきた。
「ダムロス、失礼ですよ。これから共に戦う仲間ですよ」
レリナさん僕らにごめんねの顔をする。
「へえ、へえ。おれは特別扱いが嫌いなんでね。FランクはFランクの仕事してりゃいいんだよ。草でも採取してキャッキャッしてろ」
「ダムロス!」
「けっ!」
彼は不満げに吐き捨てつつ再び、定位置に戻っていった。
う~ん、なんとなく彼の言っていることはわかる。おそらくこのパーティーはゼロから地道に頑張ってきたパーティーだ。勇者グリタスのように初めから国にSランクの称号をもらうのとは違う。だからこそ不相応な奴は嫌いなんだろう。
でも、薬草採取は大事な仕事だぞ。初心を忘れてはいけない。
それから数時間、僕らは西の街道にて索敵を続けた。日も傾き始めている。
「よし、今日はここまでだな。そろそろ町へ戻る」
先頭を歩くリーダーのゴランさんが口をひらいた。
ふう、成果なしか。まあそう簡単に遭遇するわけもないか。
僕がそう思った瞬間、街道の奥から複数の叫び声が響いた。
「なんだ!?」
前方から2~3人の人影が何かに追われるようにこちらに走ってくる。そしてその後ろには。
「フレイムタイガーだ! ケトス、ファイヤーボールを打ち上げて全パーティーに連絡! 総員戦闘準備! 前衛は前へ! 後衛は各自魔法詠唱準備!」
ゴランさんの指示が飛ぶ。僕とルルリアのサンマークパーティー、初合同クエストが始まった。
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