第26話 『 弟とならず者の邂逅 』
「0番隊なんて私聞いたことないんだけど」
森の中を歩きながら言うリアンに、シエスタは束ねた髪を揺らしながら答える。
「そりゃそうよ。だって私が創ったばかりなんだから」
「そんなの勝手に創って平気なの?」
「ちゃんと
「そこに国王がいないのは何故かしらねぇ」
わざとらしく尋ねるリアンに、シエスタは「たまたまよ」と澄ました顔で返した。
「国王様の許可を取っても構わないけど、それだとアナタと弟くんに不都合なことがあるでしょう」
「そうね。まぁ、仮にそうなった場合、アノンの正体を隠せばいいだけだけど」
「いくらなんでもそれは無理があるでしょう。自分の息子だってすぐに気付く……」
「気付かないわよ」
二人の会話を黙って聞いていたアノンは、リアンのわずかに剣幕の増す声音に双眸を細める。
「あの男は気づかないわよ。だって生まれてから一度しかこの子の顔を見ていないんですもの。たとえ名前を見ても、他人のように扱うに決まってるわ」
「それって親のすることじゃ……」
「アナタも貴族の娘なら分かるでしょう。ああいう連中は、自分に不都合なものは隠すか抹消する汚い奴らなの」
「私はリアンと違ってアルフォート家の娘として誇りがあるし、母様と父様は尊敬しているわ。……ただ、他はどうしようもない奴らだとは思っているけど」
言下に声の調子が低くなるシエスタに、リアンは「ほらね」と嘲笑する。
リアンは王族の娘で、シエスタは貴族の娘として通じる疑問を持っているのだろう。ただ一人、アノンだけは二人の会話についてこれずに小首を傾げるばかり。
なので、姉さんたちも大変なんだー、と思いながら眺めていると、
「はぁ、この腐った世の中で、アノンだけが唯一の癒しね」
「ごめんね弟くん。君には少し難しい話だったよね」
「はいっ。正直姉さんたちが何を話してるのか分からないけど、ただ大変だってことは分かりました!」
「それだけ分かれば十分よ~」
「アンタは本当に弟くんに甘いわね」
なぜ姉に褒められているか分からないが、シエスタの顔を見る限り純粋に褒められている訳ではなさそうだ。
そんなやり取りをしながら歩き続けると、ようやく木々に囲まれていた視界が晴れる。
「さ、ここが今回の入団テストの試験会場よ」
「……なにこれ」
シエスタの言葉に、リアンが眉間に皺を寄せる。
試験会場、という割には随分と作りが簡易的に思える。
アノンの数十メートル先に、おそらく休憩所であろう仮設テントが設けられており、そしてその奥には直径100メートル程ある頑丈な檻で囲まれた広場があった。
「……途轍もなく嫌な予感がするのだけど」
「大丈夫。リアンは関係ないから」
「うちの大切な弟が関係あるでしょうが」
「まぁまぁ、落ち着こうよ姉さん」
友人の胸倉を掴む姉を宥めるアノン。
そして、姉に胸倉を掴まれているシエスタはというと、飄々とした態度を崩さぬまま言った。
「弟くんの言う通り。過保護のお姉ちゃんは今日は黙って弟くんの活躍を見守ってなさいな」
「アンタ。アノンに変なことしたら首斬るわよ」
「怖ぇ。友人の首を容赦なく斬り掛かるとか本当に友人のする所業?」
「弟の安全と友人を天秤に掛ければ、傾くのは前者に決まってるでしょう」
「ブレないわね、アナタも」
鋭い視線を送るリアンに、シエスタはやれやれと肩を落とす。
「弟くんたぶん問題ないわよ。この前少し手合わせした時に強さは把握したつもりだから」
「当たり前でしょう。私の弟は誰にも負けないわ」
「お姉ちゃんがそう答えるなら何も問題なし。……それに、どちらかと言えば問題があるのは〝あっち〟の方なのよねー」
「「あっち?」」
シエスタの言葉に小首を傾げる姉弟。
そして、その言葉と同時にそれは現れた。
「たくっ。久々に外に出れたと思ったら、なんだってこんな森の中になんか連れ込まれなきゃいけないんだ」
「文句言うなよ肉団子。例の騎士に聞こえたらまた監獄に戻されるかもしれないでしょ」
「はっ。騎士如きに怖気づいてんじゃねえよ」
茂みの奥から騒がしい声が聞こえて、アノンとリアンは怪訝に眉根を寄せる。
「どうやら彼らも来たようね」
そういえば、シエスタが先程入団テストを受けるのはアノンだけではない、と言った気がする。
どうやら、この騒がしい声の主たちがアノンと共に入団テストを受けるらしいが、
「――なっ」
茂みから現れたその集団に目を見開いたのはリアンだった。
姉は信じられないものでも見たかのような形相で固まったまま、シエスタはアノンに顔を向けて告げた。
「あれが今日弟くんと一緒に受ける人たち――もとい、犯罪者集団よ」
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