第24話 『 囚人と運命を弄ぶ騎士様 』


「あーあ、腹減ったなー」


 本日の作業も終わり、ならず者たちはそれぞれの檻で暇つぶしをしていた。


 暇つぶしと言っても犯罪者に与えられた娯楽などはなく、あるのはこの不平等な世界に対する愚痴を延々と呟くだけなのだが。


「もう既に、本日の食事は配給されただろ」


 巨漢の男の愚痴に対応したのは、彼と同じ檻で寝食を共にするやせ細った男だった。


「あんなカビカビなパンと牛の乳のどこがメシなんだよ」

「残飯よりマシだろう」

「……これなら残飯な方がマシ気がしねぇか?」

「…………」


 巨漢男の言い分に、やせ細った男はふいっと視線を逸らす。どうやら、今回ばかりは巨漢男の言い分の方が正しいらしい。


「毎日毎日、残飯より酷ぇメシとも言えないものばかり食わされてよ。たまには豪華なメシが食いてえよなぁ。なあ、プリム!」

「肉団子が私の名前を呼ぶな」


 巨漢男が対面の檻に向かって叫べば。不貞腐れた声が返ってきた。


「お前もお洒落してえだろ」

「五月蠅い黙れ。この囚人服がダサいだけで、別にお洒落したいなんて思ってない」

「今日はえらく機嫌がわりぃな。なんだ生理か?」

「生理じゃない。このクソみたいな毎日に嫌気が差してるだけ」

「そういえばお前、定期的にメンタルゴミッカスになるよな」


 何が面白いのか、巨漢男がガハハッ、と豪快に笑う。隣の檻から「うるせえ!」と怒鳴られるも、それに巨漢男は謝るどころか「黙れ!」と言い返した。


「はぁ、なーんか。この世界がひっくり返りようなことが起きねえかな」

「フッ。そんなこと、起きる訳がないだろ」


 ぽつりと呟いた戯言を、やせ細った男が卑屈気味に返す。

 心の中で巨漢男も、そりゃそうか、と失笑する。

 自分たちは二度と、陽の光を見ることもなければ、浴びることもない。

 ここにいる全員。誰かの命を奪って、大切なものを奪ってきた連中だ。

 そんな奴らに今更人生がひっくり返るような出来事など起きるはずが――


「――やぁやぁ。犯罪者諸君」


 コツコツと床を蹴る音が聞こえて、それが巨漢男――ガエンの前でピタリと止んだ。そして、反響する音と入れ替わるように、飄々とした声音が耳朶を震わせる。


 誰かと思って振り返ってみれば、檻を挟んで犯罪者に向けるものではない可憐な笑みを浮かべる女性がガエンを見下ろしていた。


「諸君らにビックニュースだ。――この檻から出してあげる」


 それは、何の前触れのない運命がひっくり返るニュースで。


「ただし、一つ条件がる」


 目の前の騎士――シエスタは、まるで神様が如くガエンたち囚人を弄ぶのだった。

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