スパイラル&ツイスト
山口都代子
1章 ひとり暮らしに憧れて
1章 episode 1 エッチな受験勉強
◆ アブノーマルな受験勉強が始まった。
窓を叩く雨粒をぼんやり眺めていた真美の前に、見知らぬ男が座った。カバンの旭丘高校のロゴに気づいた男は、
「キミは旭丘高校なのか。僕は浪人生で市村大輔だ。よろしく」
真美は相手にせず問題集に没頭しようとしたが、男の視線が気になった。
「違う、そうじゃない。いいか、最初にこの角度を求める。それからだ」
図書館の自習室でボーイフレンドの南条龍平を待っていた真美は、突然の闖入者を訝しげに睨んだ。部活のバスケを終えた南条が、
「真美さん、待たせてすみません」と近づいて、「市村さん、どうしてここへ?」と驚いた。
「龍平くんはこの人を知ってるの?」
「バスケの先輩です」
それが市村と出会った最初だったが、しばらくして探求熱心でヘンタイ気味の男だわかった。真美は1年後輩の南条龍平と交際していたが、いつの間にか割り込んで来た。
2、3日後、市村は一緒に勉強しようと家にやって来た。大人びた挨拶と礼儀正しい秀才の態度に、両親は彼を信頼した。それから時々勉強しに来たが、目的は他にあった。
市村は理数教科が得意で、国立文系志望の真美が理解できるように丁寧に図解して教えたが、交換条件があった。教える代わりに触らせろと言い、最初は遠慮がちに服の上から触っていたが、最近は下着の中に指を入れるようになった。
「痛い! やめてよ! ヘンタイ!」
「この程度で痛いのか? ふーん、バージンってそうなのか、おい、緊張してないか?」
11月、真美は市村の指導で理数教科に自信を持てるようになり、全国模試は高得点の評価が返って来た。地元の大学を志望していたが親元を離れる自由に憧れ、東京に進学したいと思った。幾晩も父親を説得して、やっと東京受験が実現した。だが、東京の受験は冒険だ。ハイレベル受験者が殺到する東京の国立は絶対無理だ。そこで第一志望は横浜国大を選んだが自信はなかった。
不安だらけの毎日が続いたが頼みもしないのに市村は、勉強を手伝う振りして真美の家に押しかけた。親は彼を歓待した。
市村にどこを受けるのか尋ねても答えない。ポーカーフェイスを装っているが、2度目のラストスパークに入った受験勉強に飽きている様子だ。
「おい、文系の物理は易しいぞ、物理で受けろ、楽だぞ。2カ月もあれば完遂できる。面白くない化学式を暗記するよりマシだ。暗記が通用しない物理はキミに向いている。きっと高得点を稼げるぜ。合格するように完璧に教えてあげるからあれを見せろよ。いいだろう? それが条件だ」
「あれって?」
「わかってるくせに確認したいのか。まだ使われていないキミの秘部だよ」
「本当に見るだけ?」
「いや、触るが破壊願望はない。信じろ」
それから物理の猛特訓が始まった。「力学」と「運動方程式」の3法則をみっちり叩き込んだ後、
「約束だ。見せてもらおう」
市村は南条から借りた大型のNikonを取り出し、接写レンズを付けた。
「逃げるな、約束だ。ほら、大きく脚を開け。おい、それでは写せない」
枕を腰の下に入れて、よく見えるようにしてニヤリと笑った。指で貝殻を開いてレンズを向けた。
「そうだ、そのまま動くな」
「ちょっとぉ、まさか写真をばらまいたりしないでよ」
「その予定はない。顔は写さないから安心しろ。男を知らないシンプルな被写体が欲しいだけだ。いいぞ、いいアングルが撮れた。教えたいことがある。いいか、このまま動かないで静かにしていろ」
何をするのかと思ったら、撫でるように触ってキスを繰り返して舐め続けた。
「おや? 硬くなった。やっぱり女も勃起するのか」
ああっ、これって何? 体の芯がジーンとしびれる衝撃が続いた。
「ちぇっ、想定外だ。濡れ過ぎだ」
市村は蜜が溢れた秘部を熱心に連写続けた。
「これまでキミは体を触られても平然としていた。不感症かと心配したがどうやら正常らしい。気持ちいいか? あーあ、蜜を舐めていたら俺は出したくなった。男が出すのを見たことないだろう、見るか?」
市村は膨らんだ赤黒いペニスを見せた。血管が脈打っているのがはっきり見える。見かけもサイズもこんなものだろうと想像していた真美は驚かなかった。手を掴んでそれを握らせられた。思ったよりもゴツゴツと硬くて熱を放つ物体だった。
体のパーツだとわかっているがなぜ突起するのだろう。これが膨張すると、エロなやつだとすぐバレてしまい、困ることもあるだろう。やっかいな物体だがけっこう可愛いな、そう思った。
「握って上下に擦ってくれ。もっと優しく触れ。爪を立てるな、そうだ、そんな感じだが最初は緩やかに、徐々に速く、そうだ、いいぞ、もうすぐだ」
市村がニヤッと笑ったとき、ペニスはコチコチに硬くなり大きく振動して暴発した。
「うわっ、何これ! 手がベタベタ! ひゃーー、汚ーい、臭ーい!!」
「そう言うな。これは前立腺から出る分泌物の臭いだ、人間誕生の源となる。そのうち好きになるさ」
「ムリ、ムリ、臭すぎ!」
真美は鼻をつまんで窓を開けた。ペニスは霜月の寒空にさらされ急速に萎えた。
1章 episode 2 ラブホ初体験
◆ エスカレートする交換条件の着地点。
物理の「熱力学」と「波動」を終えた後、
「わかってるな、次は何をリクエストしようか。たまには外で遊ぼう」
市村は住宅街を抜けて鶴舞公園へ誘った。桜で有名な公園だが、坂を上がるたびにラブホの派手なイルミネーションがカップルを招く。
「まさか、目的地はラブホ? ヤダ、帰る」
「そうだ、ホテルだが目的は違う。心配しないでついて来い。やりたいことがあってもキミの部屋では落ち着かない。抱くがSexはしない、安心しろ」
市村が選んだのは、レースのカーテンで包まれたダブルベッドだけのシンプルな部屋だった。ラブホ初めての真美は、ブランコや噴水がある部屋を体験したかったから、少し不満だった。
「ナンダ、その顔は? モンクありそうだな。さあ、早く脱げ、ここに来い」
「待ってよ、シャワー浴びる」
「だめだ、蒸れて汚れているキミの匂いが俺は好きだ。洗うな、そのままでいい」
市村はしつこく真美の秘部を舐め続けた。何だかわからないが、何かを欲しがって、その何かを掴もうとしている感覚に真美は戸惑った。
「やはり感じたか、そうだろうな、合格だ。オシッコ出るか、飲みたいんだ。出せよ、頼むよ」
「はぁ? まさか?」
クリトリスを吸い始めた。
「ダメ、ああ出ちゃう! ヤメテ!」
切迫した悲鳴を無視して、市村が大きくクリトリスを吸い込んだとき、真美は我慢できずに出してしまった。喉仏を上下に動かし、すっかり飲んでしまった市村は笑った。
「ヘンタイ! 気持ちワルイ、私、帰る!」
「うーん、新鮮な尿には味はないんだな。ちょっと待て、キミはそんな火照った体で帰ってマスするのか? 俺だってそうだ。まだ時間が残っている、とりあえず風呂に入ってからもう少し遊ぼう。
ジャグジー風呂の後、真美を丁寧に磨きあげてベッドへ運んだ。この男はナルシストか? 鍛えているらしく、腹筋がきれいに割れてお尻はキュンと上がっていた。
「次は天地を反対にする。この位置だ、これを69と言う。いいか、俺のを舐めろ、口に入れろ。まずはそれからだ。だが絶対に噛むな、それだけは勘弁してくれ。いくぞ、いいか」
脚を開かれ触られて、舐めたり吸ったりされているうちに、ペニスを口に含むどころか、真美は体の奥から突き上がる得体が知れないものと闘っていた。外から加えられる刺激に、体の内部から抵抗するように何か押し寄せる。あーあ、もうダメ! ヤメテ! そう思ったとき、どこかがヒクヒクと動き出した。
「ダメ! 触らないで! ヤダ、お願いだからヤメテ…… ヤメテ!」
絶叫を無視して舐め吸い続ける市村に、真美は大きくバウンドして気を失った。
バージンのくせに感じ過ぎて収縮を続ける秘部を眺めていた。これはオーガズムの一種か? 感じた後は触るなと嫌がったが、まるで射精後の男と同じだ。面白い子だと思った。
「おい起きろ、眼をさませ。どうだ、気持ちよかったか? 何だかヒクヒクしてたのを確認した。結局キミだけハッピィで俺は置いてけぼりだった。スキーン腺かGスポットなのか、どっちの刺激が気に入ったかわからないが、キミはフェラフェチだな、発見した。マトモな初体験の前に余計なことを教えて悪かった。これからが楽しみな生徒だ。さあ、帰ろう、歩けるか?」
ボーッとしている真美を抱き包むように連れ帰った。
1章 episode 3 優等生を罠にはめる快感
◆ 自分に贈る最高のクリスマスプレゼント。
「電磁気」と「原子」を習った舞美の物理は完璧になった。
「よく頑張った。さあ、今度は何をねだろうかな、キミに希望はあるか?」
「まだ絶対にSexしたくない。ヤダ、痛そうだし、怖い」
「ふん、怖いだと? Sex以上の経験をしたくせに、おかしくないか。だが、Sexそのものは単純すぎて女には面白くないはずだ。何か面白いことはないかなあ」
市村は不気味な笑顔を見せたがその日は何もなく、真面目に勉強して1日は終わった。
12月24日、市村はクリスマスケーキと大きな袋を抱え、南条を連れてやって来た。舞美の両親はクリスマスコンサートで不在だと知っていた。
白いセーターの南条はハーフに見える色白の肌と長身の茶髪で、女子の人気はNo.1だ。そのうえ成績もいい。彼は少し戸惑った表情で顔を赤らめながら、
「クリスマスイブだからと市村先輩に誘われました。舞美さんが東京に行ったら会えないから、送別会を兼ねて3人でパーティーしようって。でも僕は邪魔じゃないですか?」
「いや、この子は南条が好きらしい。俺は勉強を教えているだけだ、誤解するな」
「先輩はなぜ大学を休学してるのですか、もっと上を目指しているんですか?」
「そんな話は今日はいいだろう。ほら、ケンタのチキンがあるぞ。温かいうちに食べよう。俺に遠慮せず、この子の相手をしてくれ」
奇妙な雰囲気のパーティーが始まった。なぜ南条を連れて来たのか舞美は不思議に思った。どうしてだろう? 噛み合わない会話がしばらく続いた。
「妙に静かだと思ったら忘れていた。飲もう、俺は高校生じゃないから缶ビールにするが、キミたちはこれがいい。とても軽いワインだ。舞美、グラスを持って来てくれないか」
市村はカッターナイフで栓を抜き、ブルーのボトルを南条に、赤いボトルを舞美の前に置いた。
「さあ、乾杯しよう!」
ワインはとろりと甘く、驚くほど美味しかった。
「すごく美味しいわ。これってフランス?」
「そうだ、アルザスだ。甘口ワインの名産地だ。南条もグイッと飲れ、男だろ」
時はどのくらい経ったのだろう? 少しずつ会話は盛り上がって来た。時間を確かめようと立ち上がった舞美は強烈な眩暈(めまい)に襲われ、南条の肩につかまって床に崩れ落ちた。ああ、何だかフラフラ……
「おい、どうした? 酔っ払ったか、やっぱり子供だな。大丈夫か」
市村は舞美のカーディガンを脱がし、ブラウスのボタンを3つ外して楽にした。それを見て視線を泳がした南条に、
「おい、この子をそこのベッドに寝かしてやれ。あとは男同士で飲もう」
舞美を抱え上げた南条の足元が大きく揺れた。舞美をベッドに移してテーブルに戻ると、すぐ顔を埋めて眠ってしまった。市村は静かにその様子を観察し、しばらく経って南条の服を剥ぎ取って全裸にし、軽々と抱え上げてベッドに移した。仕上げに舞美のブラウスのボタンを全部外してスカートをめくり上げ、スキャンティが見えるようにして、南条の体を舞美にかぶせた。南条のぐにゃりとした白いペニスに「童貞くん、お幸せに」と笑いを堪えた。
睡眠剤が入ったワインで眠っている女と、睡眠剤と興奮剤入りのワインを飲まされて全裸で女を抱いた男。これは面白いなあ。俺が仕掛けた、俺への最高のクリスマスプレゼントだ!
あと1時間か…… 時間はたっぷりある。二人が飲み残したワインをトイレに流し、市村は飲み物を買うためにコンビニへ出かけた。
悲鳴が聞こえたら間髪入れずに部屋に飛び込む、まあ、そんな筋書きだ。そろそろだ、ドアの外で待つとしよう。
南条は夢だと思った。隣に憧れの舞美が眠っていて、ブラウスからピンクの乳首が顔を出している。迷わずキスした。乳首がピクンと動いた。このとき、えっ、俺は裸か? 確かに裸だ。いい夢だなあ。醒めないでずっと続いてくれと願った。キスしたい! 顎を引き寄せキスしたら、舞美は薄眼を開けてちょっと笑った。それを見たら猛烈に抱きたくなった、やりたくなった。唇を塞いだまま押さえ込んだ。ヤバイ! イキそうだ、小さな下着に手をかけた。
「うっ、ううん? ギャーー、イヤーッ!」
1章 episode 4 それは痴夢かレイプか?
◆ 堕ちたプリンスを密かに笑う男がいた。
「やめろ! 何するんだ!!」
市村は南条を舞美から引き剥がした。舞美のスキャンティには放出された精液がたっぷりかかっていた。
南条は初めて女を抱いた感触に浸って、甘ったるい夢でも見ていたのか、それとも興奮剤が効いたのか、タイミングよく射精してくれた。市村は笑いたかったが、驚きのあまり呆然としている南条に、
「さっさと服を着ろ、話はそれからだ」
「舞美、しっかりしろ! 俺の見たところ、キミは危ないとこだったが大丈夫だ、心配するな。見ないから早く着替えろ。南条、お前は何てことしたんだ、自分がやったことがわかってるか! 飲み物を買いに外へ出たが、その隙を狙って襲ったのか? 俺がもう少し遅かったら舞美は終わっていただろう。お前は強姦罪だ、わかったか!」
舞美は泣き出した。本当に襲われたと信じて恐怖に震えて膝を抱えていた。
南条は夢を見たことは覚えている、夢の中で舞美を抱こうとした記憶はある。あれは夢ではなく現実だったのか? いったい俺は何をした? 確かに酔ったようだ、ベッドに運んだとき足がふらついたのを思い出した。後のことは思い出せない。
舞美が欲しい、抱きたい、その気持ちはあったがほとんど諦めていた。自分で服を脱いだ記憶はない。だが俺は全裸だった。舞美の下着は精液で汚れ、俺のペニスの先端に精液が残っていた。どう考えても自分がやったとしか考えられない。
「すみませんでした。夢だと思っていました。あんなことをした記憶はありませんが、僕がしたことだと思います。酔っていたのかも知れません。本当にすみませんでした。舞美さん、申し訳ありません」
南条は泣き続けている舞美を正視できず、俯いて何度も謝り続けたが、本当は自分が泣きたかった。
「酒のせいにするな! これは許されないことだ。警察に通報してもいいが舞美が可哀想だ。必ずどこからか噂が漏れるだろう。俺は見なかったことにしたい。
舞美はそんな噂が立ったら嫁にも行けないだろう。それに年明けから入試だ。この子は受験生だ、警察に呼び出されるヒマはない。南条は学校を続けられなくなる、俺は事情聴取されるだろう。そんなのは面倒だ。誰にとっても何ひとつメリットはない。
舞美、忘れろと簡単には言えないが、強姦されてバージンを失ったわけではない。南条はキミを好きだから服を脱いでベッドに潜り込んで抱いた。これは男のサガだ、南条を責めるな。抱いているうちにキミを欲しくなってSexしようとしたら、俺が戻って来た。そういうことだ」
いっそう激しく泣き続ける舞美に南条は謝り続け、悄然として帰った。南条は自分が情けなくてどうしようもなかった。
泣き続ける舞美を市村はしっかり抱きしめて髪を撫で、
「怖かっただろう、もう大丈夫だ。まさか南条が、あのプリンスが? まだ俺は信じられない。眠っている舞美を残してコンビニに行った俺が迂闊だった、油断があった。悪かった、許してくれ」
舞美は記憶を探った。
ワインを何杯か飲んで強烈な眩暈がして倒れ込んだ。そんな私を南条くんがベッドへ運んだ。そのあとは記憶が途切れ、気がついたら南条くんに襲われていた。確か、スキャンティを脱がそうとしていた。彼の縮んだアレに残っていた射精の跡と私のスキャンティについた精液、どっちも本物だ。何があったのか? 私は何をされたのか? 彼はなぜあんなことをしたのか? 酔っても襲ったりする人じゃないと信じたい。わからない、何もかも……
「まだ怖いのか、心配か? あの坊やに連射能力はないだろうが、確認しよう。脱げよ」
「けっこうよ! 何でもないから帰ってよ、独りで考えたい」
「キミが心配だからいるよ。あとちょっとだけだ」
舞美をいきなり抱え上げてベットに運び、スキャンティを引き下ろして、秘部を眺めて吸い始めた。
「大丈夫だ。確認した。心配するな」
いつまでも吸ったり舐め回されるうちに、舞美は何だか全身がぼんやり弛緩して視界が霞み、そのうちフワフワと宙に浮かぶ錯覚に襲われた。
「ほら気持ちいいだろ、忘れろ、今日のことは。わかったな」
1章 episode 5 納得できない事実
◆ 不可思議なレイプ? わからないけど何か違う。
舞美は除夜の鐘を聞きながら、煩悩かぁ? ふと南条を思い出した。まだ悩んで落ち込んでるのかなあ。いくら思い出しても襲われた恐怖感より、なぜか納得できない疑問が大きく膨らんだ。あんなことをする人とは思わない……
「はい、南条です」
「私よ、舞美よ。ちょっといい?」
南条は無言になった。しばらくして、
「本当にすみませんでした。謝って許されることではありませんが、すみませんでした。ちゃんと謝らなければと思っても、舞美さんに思い出させることになりそうで。すみません、それで電話しませんでした」
「電話したのはそんなんじゃないの。お正月に会ってくれない? 熱田さんに初詣に行こう?」
戸惑っている気配が受話器の向こうから伝わった。
「僕でいいんですか? 行きます! 迎えに来ます!」
「じゃあ、元旦の10時ジャストね、約束よ」
昨年の元旦は冬の嵐が吹きまくったが、今年はポカポカ日和だ。南条は茶色のジャケットで現れた。ハンサムくんが大好きな母に紹介すると、
「へーっ、素敵な方ね。胸がドキドキしちゃうわ。舞美のボーイフレンドではダントツね!」
「南条くんは1つ下なの、学校では『プリンス』って言われてるのよ」
「まあ、ぴったりね。でも南条くん、男の嫉妬ってインケンよ。気をつけた方がいいわ。じゃあ行ってらっしゃい」
南条は顔を赤くして返答に困った。
想像以上に熱田神宮は大勢の参拝客が押し寄せて、長い行列が続いていた。参拝は諦めて、しばらく順番を待って合格絵馬を奉納した。南条が合格祈願のお守りを渡した。
「お守りって何だか懐かしいわ。高校受験を思い出しちゃった。ありがとう」
雑踏を避けて神苑に近い禁足地付近を歩いた。このあたりは参拝客は少ない。
「南条くん、眼を閉じて両手を出して」
南条の両手を握って、こう訊いた。
「知りたいことがあるの。ねぇ、夢と現実の区別がつかなかったことって、今まであるの?」
舞美に包まれた南条の手は小さく震えた。
「すみません。あれは現実です。舞美さんを襲ったことは本当です。言い逃れをする気はありませんが、あのとき夢と現実の境がわからなかったことは事実です。心の中に舞美さんを抱きたいと思う気持ちがありました。これは夢なんだ、夢ならいつまでも覚めないでくれ、とても嬉しい夢だと思ってました……」
「夢だと思ってたんでしょ、でもあのとき裸だった。どうして?」
「舞美さんの胸が見えたのでキスしました。そのとき自分が裸だと気づいたけど、これは夢だ、夢だから裸でも許されると思って幸せでした。そしてキスしたら我慢できなくなって、舞美さんが欲しくてたまらなくて…… でも、服を脱いだ記憶はありません」
「夢だと思って見たとき、私の胸は全部見えてたの? まったく覚えてないの」
「ピラミッドみたいな綺麗な乳房が全部見えました。僕はラッキーと喜びました。すみません、夢と思っていたので」
「えっ、誰がボタンを外したんだろう?」
「市村さんが3つ外すのを見ました。舞美さんをベッドに運んだのは僕です。それから思い出せないんです」
「南条くん、もういいわ。あなたはレイプするような人じゃないと思う。仲直りしよう」
「えっ、本当ですか? 僕はあんなことをしました。僕が怖くないんですか」
「忘れましょう。私、そう決めたから、南条くんもそうして」
「僕を許してくれるんですか?」
「許すとか許さないとかじゃなくて、思い出したくないの! 私がいいって言ってるんだから、そうしましょう、何かモンクある?」
南条はポロリと涙を溢して、おずおずと舞美を引き寄せた。
「仲直りにキスして」
「本当にいいんですか!」
南条は泣きながら舞美を抱きしめて、おずおずと頰に小さくキスした。
「そうじゃなくてここ!」
眼を閉じて背伸びした舞美の腹に、ペニスが当たった。
「あの~ 背が高すぎて、私のおヘソにアレが当たるんだけど」
南条は真っ赤になって、舞美を抱き上げてキスしたが、唇を合わせるだけの幼いキスだった
1章 episode 6 合格祈願と約束
◆ 初めての人、熱田神宮で約束した。
「ひとつだけお願いがあるの、聞いてくれる?」
「はい、何でも言ってください」
「私の初めての人になってくれる?」
「はっ? 僕でいいんですか? あんなことしたのに」
「だから、あれは忘れましょう。だけど入試が終わってからよ。それから抱いてくれる?」
「市村さんはいいんですか? 舞美さんの恋人でしょう?」
「違う、恋人じゃない。私はあなたに決めたの、いいでしょ? この前はアレも見ちゃったし、あんなんじゃなくて、ちゃんと抱かれたいの」
「舞美さん、もう一度キスしてもいいですか」
南条は少しかがんで、顎を両手で包んで引き上げ、ぎこちなくキスした。舌を入れたが、それからどうすればいいのかわからず、そんな気持ちを隠すように、いつまでも力いっぱい抱きしめていた。
3学期に入ると大学入試直前の3年生は殆ど登校しない。舞美は1月中旬に東京へ出発する予定だが、あれから市村は訪れなかった。母は不思議に思って、
「市村さんは来ないけど、どうしたの? ケンカでもしたの?」
「だって、あの人も受験生よ。きっと忙しいんでしょ」
「ほら、この前の背が高くてハンサムな下級生の子、なんたっけ?」
「南条くんのこと?」
「あの子はこれからが大変だろうなって思うのよ」
「どうして、南条くんは背が高くて素敵で成績もいいし、大変とは思えないけど」
「あのね。結婚なんてことになるといろいろと障害がね、多分、女の人の親が反対するでしょうね」
「なぜ?」
「うーん、今の舞美には大人の世界はわからないだろうけどね」
舞美は東京に行く前に市村に電話した。
「しばらくお別れだが、すぐ会えるから心配するな。大丈夫だ、頑張れ! 合格したら進学する大学を教えろ。俺は今は忙しい。じゃあな」
一方的に通話は遮断された。
ああ、やっと入試が終わった! 超ラッキー! 舞美は横浜国大と早稲田と上智に合格した。市村に報告すると、
「ということは中大法と慶応か、落ちたのは。イケルと思ったが中大法の落選は想定外だ。この中で一番つぶしが効くのは早稲田だ。あそこは勉強しなくても卒業できるが、上智はそうではない。俺だったら早稲田を選ぶ。ただし横浜国大より学費がかかるが。ゆっくり考えて好きなとこへ行け。
話は変わるが南条が好きか? あの坊やに抱かれてみるか? 俺は楽しみだ。言っとくが俺は東大に行くことに決めた。また会おう、楽しみだ」
「はぁ? 東大だって? ウソでしょ! ふざけてる! どうして?」
休学の話は知っていたが、まさか東京で会おうとは考えてなかった。ヤバイ! あれを急ごう。
舞美は約束どおり南条に電話した。彼は合格をとても喜んだ。行ってもいいですかと言う彼に、外で会いたいと告げて、しらとり公園で会った。たくさん話をしたが会話はうわずり、肩を並べて歩く二人はいつしか無口になった。寒いな思ったら、ひらひらと淡雪が舞って来た。
「ねぇ、行こう。私が決めたことだから、ホテルに連れてって。お金だったら持って来た。家じゃまずいもん」
「そんなこと心配しないでください。でもホントにいいんですか?」
ひっそりと肩を寄せ、手を繋いでラブホへの坂道を歩いた。彼はパネルで和室を選んだ。何だか落ち着きそうだからと笑っていた。
そこは時代劇のセットのような部屋で、ダブルサイズの夜具が敷き述べられて、枕元に行燈(あんどん)が置かれ、真っ赤な長襦袢と派手な男物の浴衣が用意されていた。部屋に入るなり、南条は布団に押し倒して服を脱がせようとした。
「待って、このままだと恥ずかしい。私、きれいになりたい」
すみません、抱きしめた腕から舞美を解放した。
1章 episode 7 ビビった初体験
◆ こんなつもりじゃなかった、マジに緊張した。
ヒノキの匂いが漂う大きな湯船に身を沈め、窓ガラスに貼りついた淡雪を眺めていると、南条が入って来た。
南条は、色が白くて七難隠すと言われる舞美と同じくらいに色白だった。膨らんだピンクのペニスを見て舞美はギョッとした。太さも長さも市村の1.5倍はありそうだ。あーあ、選択ミスかと不安になった。あれでは痛そうだ。まいったなあ、こんなはずじゃなかったのに、舞美はだんだん緊張した。
「舞美さん、こっち向いて」
南条は湯船の中で抱きしめて永い永いキスを続けた。これじゃあ、のぼせちゃう! 彼はAVを観て研究したのか、全身にキスを浴びせた。ハンカタのペニスがぶつかる度にドキリとした。乳房? そこじゃない、あそこ、あそこにキスしてと思ったが言い出せなくて、舞美は黙ってされるがままになっていた。優しく拭きあげて布団へ運んで、キス! キス! いつまでも続く連続キスに寒くて震えた。寒い! ゾクゾクする。あなたのように燃えてないのと言いたかった。
「舞美さん、緊張してる? もっとリラックスして」
はぁ? そうじゃなくて湯冷めしそうなの! 寒いの、でも緊張もしてるかな。セオリーどおりマジメにキスして触ってくれるけど、そうじゃない、違うの! やっとあそこに手が触れた。だけど市村とはまったく違う。これじゃ感じない、濡れないの、舞美はじれったかった。
「あの~ 寒いの。布団に入ってもいい? これを着るわ」
長襦袢にくるまって本当に震えた。南条は心配そうに見つめ、温めますと言って布団に滑り込んだ。大きな体にしっかり抱かれて、やっと少しずつ舞美は温もっていった。
彼の手をあそこに誘った。
「お願い触って。もっと優しくゆっくりよ。ああ、そうよ」
市村から触られた感触をイメージすると少しは温かくなった気がした。そうよ、そこなの、そのまま続けて、お願い! やっと濡れて来た。
「舞美さん、眼を閉じて」
南条はコンドームを付けてプッシュインしたが、互いに緊張してスムーズに入らない、途中までしか進めない。眼をつむって脚を開いたまま、舞美はしがみついた。こんな彼の姿を見たくなかった。幾度も途中までしか進めない状況に、永遠にこのままでいいと願う気持ちと、このまま終わったら彼が可哀想、そうも思った。
ついに、上へ逃げようとした頭が押さえられてしまった。何回めのトライなのか、途中までしか進めなかった亀頭が奥まで侵入した。激しく突き上げられ、ズシンと腹に響く振動とそれに続く南条の動きは舞美を慌てさせた。
思わず、痛いと叫んだが、その声が聞こえないのか前後に動き続け、大きく身震いして何かを呻いて舞美に被さった。重なったまま動かなかった南条は、「ごめん、大丈夫?」と優しい眼をしてキスした。
市村が言ったようにSexってシンプル過ぎて面白くないのかもしれない。やだぁ、チクチク痛い。あーあ、終わった、私のバージンは散ってしまった。舞美の頬にポロリと涙が落ちた。
「ありがとう、舞美さん」
抱きしめた彼の眼に涙があった。最悪のクリスマスイブを思い出したのだろうか。
抱き上げられて、再び湯船に沈められた。
「もう一度いいですか」
耳元でささやいて、返事を待たずに布団に運び、巨大化したピンクのペニスを強引に侵入しようと迫った。あっ、痛い! ホントに痛い、ウソじゃないってば!
「舞美さんは東京へ行くんでしょう。僕は思い出が欲しい。戻って来るまで待ちます。だから、もう一度だけ!」
すごい力で無理やり突撃し、スキマをぴったり埋め尽くした。痛みは少し薄らいだが、激しく動くにつれ、ズーンと下腹部が痛くなり、何だかヒリヒリする痛みも加わり、両足が痺れてしまった。南条は激しく動き続けて、ドクンドクンと大きく脈打ち、何かを呻いて静かになった。そして、力が抜けたように舞美に体を預けた。重い! 男の人ってこんなに重いんだ。終わったようだ。舞美は自分のお腹が彼のペニスで大きく膨らんだ錯覚を感じた。
周囲には6個のコンドームの残骸が残された。
南条は送ってくれたが、あそこに何か異物が残っている気がして遅れがちの舞美に、
「舞美さん、舞美って呼んでもいい? 僕のことリュウって呼んで。でも、本当に大丈夫?」
「大丈夫じゃない! あそこに何か入ってる気がして普通に歩けない! 痛い、やだぁ」
そう甘えた私を抱き上げて、
「舞美が好きだ、大好きだ!」
1章 episode 8 つかのまの幸せ
◆ 高校生活が終わってしまう、わずかな時間。
翌日、受話器を取ったのは母だった。
「ああ、南条さんね、舞美は風邪気味で寝てますけど、起こしましょうか?」
「熱があるんですか?」
「大したことはないの、微熱かな。受験疲れが出たのかしら。かったるいとか言って、ご飯も食べずにまだベットにいるのよ」
「僕、行ってもいいでしょうか?」
「いいわよ。歓迎するわ、プリンスくん」
南条は、真紅の薔薇の大きな花束を抱えてやって来た。それにはピンクの「合格おめでとう!」のリボンが巻かれていた。ママが南条を案内したが、舞美は穏やかな表情で眠り続けていた。
「まあ、呆れた子ね、まだ寝てるわ。起こしていいわよ」
「あの~ 待たせてもらってもいいですか」
「悪いわね。もうすぐ起きると思うから待ってくれる?」
寝顔を見つめた。きっと昨日のSexで疲れたんだ。可愛い人だなあと見とれていた。眠っている唇をそっと盗んだら、「うーん」とつぶやいて布団に隠れようとした。顎をグイと引き寄せて唇を強く塞いだら、ビクッと体が動き、恐々と眼が開いた。目が醒めたようだ。
「えーっ、どうしたの? 南条くん?」
半分寝ぼけたままの舞美はボーッと訊ねた。南条は隠し持っていた花束を出して、
「合格おめでとうを忘れてた、はい、プレゼント! 二人だけのときはリュウって呼んで欲しいな」
「うわぁ、嬉しい! プリンセスになった気分だわ」
飛びついたら今日もまたアレがお腹にぶつかった。リュウって可愛い! すぐ膨らむんだからと思った。
「ごめんね、着替えるから部屋の外にいて」
ドアの外で待っている南条を見て、プリンスくんは礼儀正しい坊やなのねと母は微笑んだ。
「ママ、花瓶はどこ? こんな素敵な花束をもらっちゃった! ああ、いい香り」
「花束のプレゼントなんて、パパが知ったら驚くわね、ちょっと待って、紅茶持ってくるわ」
ダージリンの芳醇な香りと薔薇の甘い匂いが部屋中に漂い、昨日のことが忘れられない南条は、舞美を抱き寄せてキスを続けた。
「昨日はありがとう。僕はとっても嬉しかったけど、舞美は風邪引かなかった、大丈夫? 心配で薬を持って来た。そうだ、市村先輩は東大らしい」
「うん、知ってる。ものすごく驚いたけど、そんなに頭がいいの?」
「よく知らないけど東大は本当だ。舞美はどこに行くのか決めた? 横浜国大? しばらく会えないから僕は悲しくて仕方ないよ」
「早稲田に決めたの。住むのは民間の女子寮なの、男子禁制でワンルームの個室よ。100室以上ある大きな建物なんだって。早稲田は男子が多いから普通のアパートやマンションはダメって、女子寮しか許さないって、パパがすごく心配して、下見に行って勝手に決めちゃったの」
「僕も心配だ、本当だ。もう一度会えないか? 忘れられない。しばらく我慢しなきゃいけないから抱きたい、お願いだ!」
「あのぉ~ まだ痛いの、ぽっかり穴が空いたみたいで、今もそのままなの」
「ああ、ごめん。僕のせいでそんな辛い思いをさせてしまって。だけどお願い、もう一度、だめ?」
「うーん、電話する」
リュウが帰った後、『南条医院』の薬袋を見つけた母は、
「プリンスくんのお父さんが医者なの?」
「女医さんよ。南条くんが生まれてすぐ離婚したらしい。お父さんの顔は知らないって。そんなことを聞いた気がする」
「ふーん、そうなの。あの子、舞美を好きみたいね。若いっていいなあ、羨ましい」
「ママもいい人を見つければ? パパにも飽きたでしょ?」
「そうねぇ、ふふっ、面白そう! 明日からマジメにダイエットしなくっちゃ!」
やっと違和感が取れた舞美は電話した。
「お薬、ありがとう。元気になれたわ。日曜日がいいかな? 私はヒマだけどリュウは高校生だもん」
「ありがとう! 嫌われたと思って落ち込んでた。どこへ行こうか? 僕に任せてくないか。明日、本丸公園で10時でいいかい」
1章 episode 9 舞美に夢中の南条
◆ リュウに抱かれるとなぜか心が温かい。
舞美は芝生で走り回る子供たちを眺めていた。幼い頃、よく両親と一緒に来た記憶がある、ママのおにぎりを懐かしく思い出したら、南条がフランクフルトを買って来た。フランクから溢れ落ちそうなケチャップをペロリと舐めた舞美を潤んだ眼で見つめ、耳元でささやいた。
「舞美を見てるともう我慢できない、行こう」
南条はベッドに寝かした裸の舞美をずっと見つめていた。見られているうちに舞美にはじわっと妖しげな感覚が生まれて来た。何も触られていないのに、これは? なんだか温かくて幸せな気分になった。
「舞美の裸を心に刻みたい、だからずっと見ていた。とても綺麗だ! 舞美の真珠貝を見たい! いいよね」
いきなり脚を開き、秘部を覗き込んだ。両手で左右に開いて見つめ続け、舌でなぞり始め、舌を尖らせて奥まで舐め始めた。ぬるりとした感触と見られている恥ずかしさ、生温かい吐息が花芯を覆って放さない。
「あぁ、お願い、抱いて」
待っていた南条はスルリと滑り込み、優しくゆっくり動き始めた。舞美の両肩をしっかり押さえて、やがて幾度か激しく震えたあと、ピクンピクンと身震いして果てた。
「今日は痛くないだろ? 舞美を壊したくないからセーブした。この前より良かった? 感じてくれた?」
「私、何だかフワフワしてるの。どこかに飛んで行きそうで怖い! お願い、抱いて」
すがりついた舞美を抱きしめた。
ずっと抱きしめて、肌がふわっとピンク色に染まるまで愛撫を続け、そろりと花芯へ入っていった。大きな安らぎに抱かれて舞美は幸せだった。
「少しだけ我慢して」
激しくピストンを繰り返し、ラストは体重をかけて貫いた。痛い! 泣き出した舞美の涙を拭いながら、
「ああ、最高だ! 離したくない!」
ボーッと天井を見上げている舞美を抱き上げてシャワーを浴びせ、
「舞美が他の男に抱かれると思うと、悲しくて辛くて気が狂いそうだ。舞美、僕を忘れないで、大好きだ!」
激しくキスしてベッドへ運んだ。もっともっと愛されて、何も考えられないヒクヒクの世界に堕ちたい、そうしたら市村のテクを忘れられると、舞美は思った。
動けないように羽交い締めにして、いきなり挿入しようとした。驚いて逃げようとした舞美はそのまま捕らわれた。痛い! 南条の変わりように驚いた。
痛い! 涙目でしがみついた舞美を抱いたまま、激しく腰を動かしたかと思うと、一瞬止めて再び乱暴に腰を揺すり、ガクッと崩れて重なった。
「舞美、ごめん。怖かった?」
「ううん、怖くはなかったけど痛い。まだ慣れてないから痛い」
南条は笑い泣きして、いつまでも舞美を抱きしめていた。
4月3日、東京に出発した。
14:20、新幹線ホームに南条はスズランの小さなブーケを持って現れた。
柱の陰に隠れて「舞美、僕を忘れないで」と抱きしめて、小さくキスしてすぐ離れた。
母は笑って見ていたが、父は険しい目付きで「あの男は誰だ?」と尋ねた。
確かスズランの花言葉は、「幸せがまたやって来る」だったと思い出した。
初めての一人暮らしでちょっと心細くなって月を見上げていた舞美に、母から電話があった。
「夕ご飯は食べたの? これからは一人だからちゃんと食べるのよ。ところでね、プリンスくんを見てパパは心配にしたみたい。東京に行かすんじゃなかったと嘆いていたわ。しつこく尋問してたけど、彼は賢い子ね」
「尋問? 何それ? 南条くんのこと怒ってた?」
「怒ってはなかったけど不機嫌だった。どこの学生で何年生か、なぜ見送りに来たかってね。大学生と思ったみたいで、年下だとわかって少し安心したみたい」
そうか、南条より市村が不気味だ。あまりにも静かすぎる。でも、市村のあのテクにハマりたいなあ、一人暮らしの初日はちょっぴり淋しかったが、市村の電話はなかった。
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