マッチングアプリで出会った(?)残念美人と婚活を共闘してみた
新森洋助
プロローグ とあるイタい男女の運命でも何でもない出会い
「なんで、なんで男って平気でこんなヒドイことするんですかっ!! できるんですかっ!!」
居酒屋らしい喧噪に包まれているにもかかわらず、周囲にしっかり聞こえるくらいの大声で叫び、グビ姉のごとく大ジョッキをゴクゴクと派手に一気にあおる、隣の女性。
当然、周囲から奇異の視線が突き刺さる。中には、『オイ、男のほうが何とかしろよ』と俺に対して露骨に非難の目を向けてくる者もいた。き、気まずい……俺は別に違うのに……不可抗力なのに……。
「あ、あの。ちょっと声が大きいですよ。見られてますって」
俺は思わず小声でその女性を窘めた。
あんなことがあったばかりだから個室では警戒してしまうだろうと思い、気を利かせてカウンター席にしてあげたのに。これじゃ注目ばかり浴びて逆効果だ。というか俺が恥ずかしい。
しかし、その女性は俺の忠告もまったく耳に届いておらず、ジョッキをドンと勢いよくテーブルに叩きつけた。いや割れちゃうって。
「なんなんですかなんですかなんですかっ!! あんなに調子よく『ハナさん、写真かわいいですねー!』とか、『あなたと付き合えたらいいなあ』とか『会えるの楽しみにしてます!』とか、甘い言葉連発してきたくせに、いざ会う当日になったら、私の実物を遠目から窺って、それで『好みと違ったんで帰りますねー。さよならー!』ってメッセ送りつけてくるとか! 信じられないっ!!」
「も、もちろんそれは同情しますけど……。酷いですよね」
俺はとりあえず頷き、否定せずに肯定する。女性の愚痴は共感してほしいだけ。解決策を求めているわけではない。だから上から目線でもっともらしいアドバイスこそ一番のNG。アプリのコラムに書いてあった。初めて役に立った。
まあ、改めて聞くと確かに最低の行いだ。とはいっても、俺も俺でつい今しがた、会うはずだった女にドタキャンフェードアウトされたばかりなんだけどね。『すみませんー、急に風邪ひいちゃって行けなくなりましたー笑』ってウソまるわかりの文面だったけど。さっきアプリ開き直したら『退会済みです』と表示されたけど。完全にブロックですね、これ。
だったらなんで最初から断ってくんないの? いや、誘った瞬間にブロックされるのもしょっちゅうだけど。
でもまあ、このハナさん(アプリ上の彼女のニックネームだそうだ)が受けた仕打ちよりは、いくらかマシかもしれない。俺にとってはまあよくあることだし。スペック低いしな、俺。
「でしょっ!? ありえないですっ!!」
まあ俺は彼女ほど期待していたわけでも、予想していなかったわけでもないので、そこまでショックでもなかったのだが。……強がりじゃないぞ。
ただ、女なんて信用できない、という元から(正確には中学の頃から)異性に抱いていたネガ意識がさらに補強されたってだけの話で。
「すみませーん! ハイボールくださーい! 味濃い目で!!」
速攻で二杯目を空け、ビールの次に向かうハナさん(仮)。……酒、強いのかな、この人。あんまりそうは見えないんだけど。
(でもそのクズ男、面食いってレベルじゃねえよな……。どんだけ?)
というのも、率直に言って、彼女は十分すぎるほどの美人だったからだ。
年は30の俺よりもいくつか下くらいだろうか。
肩までかかる程度のミディアムヘアーは質感と光沢を感じる黒。整えられた眉とぱっちりとした瞳、流れるような鼻梁に男の半分程度しかなさそうな小さな顔。
装いもシンプルな白のタートルネックのセーターに、ボタン付きのブラウンのフレアスカート。耳には目立ちすぎない程の小さなスタッドピアス(だっけ?)。カフェで初めて男と会う格好としては、気合の入り方もちょうど良いようにモテない俺には思える。
正直、俺なら当たり……いや、コミュ障気味の俺では緊張しすぎて会話にならなそうなレベルの綺麗さだ。
……と思ったんだけど。
「げほっ! げほっ!!」
(あ、むせた)
「や、やば……アルコールが気管支にダイレクトに……!! げほっ!!」」
その黒髪の美人様は勢いがつきすぎたのか、せっかく注文した濃い目のハイボールを盛大に噴き出していた。あ、ちょっと鼻水出てる。ハナさんだけに。
……いや、今のはマジでないな。口に出さなくても頭に思い浮かべただけで罪悪感が湧くレベルの寒さだ。我ながら女に相手にされないのも納得してしまう。
……さすがにこれは見なかったことにするべきだろうな。
「……俺、おしぼりとか拭くものとかもらってきますね」
俺は気まずさから逃れようと席を立つ。
確かに綺麗だけど、性格はなかなかに残念そうな人だ。友達ならいいけど、婚活相手としてならちょっと……と引いてしまう感じ。第一印象ってマジ大切。いや、正確には第二印象なんだけど。
……いや、めちゃめちゃ自分のことを棚に上げているのはわかっているんだけど。この人だって、俺みたいな冴えない陰キャなんてまず興味ないだろうけど。
……にもかかわらず、なぜこんな展開になったのか。
話は数時間前に遡る――――――。
※本日より新作を公開します。肩肘張らずに気軽に読んでもらいつつも、たまーにピリッと真顔になるような話を書いていけたらなあと思います。
ちなみに、冒頭でヒロインが受けた仕打ちは単なるフィクションではなく、実際に聞いた話だったりします。事実は小説より奇なり、ですね。
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