12月21日 洞窟遊牧民の織物

 冬の祝祭まであと3日。前日には神殿方面へ向かうとして、少し大穴の方へ戻りましょうか。湿っぽくて常に霧が出ていて、妙に音が響くこの洞窟の環境、慣れないと少し疲れますからね。


 薄暗い小道を抜けて地上の光が見えてくると、なんだか安心します。風もなんだか爽やかですし、王都まで行くと木々や草もかなり紫っぽいですが、このあたりは鮮やかな新緑色です。


 空の街の近くに、この爽やかな気候の恩恵を受けた「大草原」に暮らす遊牧民がいますから、今日はそこを尋ねてみましょう。何を隠そうこのルェン族、平原の竜使い達と同じルーツを持つ一族なのです。滅びの時代には南の民もこの洞窟に移り住みましたが、人間が魔王から地上を取り戻した後、故郷へ帰ったグループと、そのままここに残ったグループがいたんですね。さすがに竜は飼っていませんが、とても美しく健康で能力の高い馬を育てることで有名です。馬で駆けながら弓で狩りをする姿はかっこいいですよ。


 そんなルェン族の作る織物が、今日のお土産です。ちょっと布ばっかり買いすぎて嵩張るかもしれませんが、綺麗なものは綺麗なのでしょうがありませんね。


 こちらは金の羊毛織ではなく、草絹そうけんと呼ばれる、植物から作った繊維の織り物です。見かけは白くてふわふわしていて綿花にも少し似ていますが、紡ぐと絹のようになめらかに輝くのでそう呼ばれています。大草原にはこの草が雑草として山ほど生えているので、馬の面倒をみつつ綿毛を採って織物にするのが彼らの生業です。


 草絹はそのままだと陽光を紡いだような生成り色で、神殿長の儀式服にも使われています。彼らの織る布は非常にきめ細やかで肌触りも良く、それだけで大きな価値がありますが、染めもまた美しいので色々と見てみましょう。これなんかいいですね。曇り空のようなやわらかい灰色ですが、こうして襞を寄せると影の部分が青く染まって、雲間から見える青空のような不思議な光り方をします。ハンカチとか一枚、どうですか? それともマントにします?


 お好みのものを何枚か選んだら、工房を見学させてもらいましょう。遊牧の民ですから、機織り機も簡単に分解と組み立てができる独自のものを使っていて、なかなか面白いですよ。


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