12月17日 竜使いの国の刺繍帯

(※本日06:30公開の短編『ダールェン平原に見られる金の幻影についての調査録』のネタバレをちょっとだけ含みます)






 冗談みたいに辛いスープとペタ、つまり辛いソースに漬け込んで焼いた肉を薄焼きの無発酵パンに挟んで食べる料理をご馳走になり、充分に舌が腫れ上がり麻痺したところで、ちょっとお願いして彼らの交易品を見せてもらいましょう。本来は森の集落に卸しにゆくだけで個人への販売はしていないのですが、こうして仲良くなった相手なら快く割安で売ってくれます。


 ヴォーガリンの竜使い達は羊を育てて暮らしているそうです。でも、テントの近くに羊の群れは見えなかったでしょう? 放し飼いにされている竜達の縄張りがとても広いので、彼らに守られている羊もかなり遠くまで自由に行けるようですね。


 そんな羊の毛を使った美しい金色の染糸と織物が、平原の民の重要な収入源です。金箔を使わずに黄金色の糸を作り出すこの不思議な技法は、この人達だけの秘伝のわざです。試しに「この金色はどうやって染めているんですか?」と尋ねてごらんなさい。一人残らず「何の話だ?」とすっとぼけますから。


「何言ってるんだ、お前?」


 ほらね。


 そんな謎多き金糸を使った飾り帯が、今日のお土産です。といってももちろん、黄金一色のド派手なベルトじゃありませんよ。いや、それが欲しければそれでもいいんですが……とりあえず、もう少し普段着にも合わせやすいものをご紹介しますね。


 この細く細く紡いだ金の糸を少しだけ混ぜ込んだ織物がね、とても美しいんです。例えばこの淡い紫から白のグラデーションになった生地。角度を変えると幽かに金色がキラキラして、まるで朝焼けの空を見ているようです。こんな風に上品に輝く生地に、ほら、これです。星座のような独特の紋様の金刺繍。これを組み合わせると、個性的で華やかながらも派手になりすぎない、素敵な帯になるんです。端っこの房飾りも綺麗ですね。この竜使いのおじさんみたいに、黒いチュニックに合わせるのも格好いいですよ。大変染織に長けた民族ですから、生地の色や織り模様は選び放題です。書架の国で防寒用に買った魔術師風ケープや、砂漠の国マタンで買ったストールに似合うものを選択するのもいいですね。パジャマみたいなベージュのよれよれローブでも、上からこれを締めるだけで一気にお洒落な雰囲気になるので、ファッションに興味のない方へのお土産にもおすすめ。楽してカッコよくなれる便利アイテムだよ、と言って偉そうに渡してあげましょう。


 お気に入りの一本を見つけて、他にも細々した髪紐なんかを手に入れたら、そろそろ洞窟の国へ帰りましょうか。初めての冬の祝祭は、やっぱり神殿の総本山があるヴェルトルートで過ごすのが一番です。明日は久しぶりの空の街ですから、どうぞお楽しみに。


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