12月15日 湖の国の神殿のお守り
港町から南下して、湖の国セ=オへやってきました。現地の言葉で「我らの水辺」という名を持つこの国は、地図で見るとよくわかりますが、とにかく湖の多い国です。そして人々は、その湖の周囲にそれぞれ小さな集落を作って暮らしています。今回ご案内するのは、数ある湖の中でも最も大きな「ナ湖」と、それに比例して最も大きな街を築いている「ナ族」の集落です。ちなみに「セ=オ」もナ語ですね。首都という概念はありませんが、それに近い、水辺の人々にとっては憧れの大都会なのだそうです。
とはいえ、書架の国やマタン西部を旅したあなたは、美しく静かな古都といった印象を抱くでしょう。亜熱帯に属し、頻繁にスコールが降るような土地故か、建物はとても風通しのよい木造建築。けれど意匠としては少し隣国迷宮都市フォーレスの石造りの城の影響を感じさせる、複雑な装飾が施されています。灰みがかった白い壁のところどころに、キラキラした銀色のガラスが嵌め込まれているのが美しいですね。銀に輝く湖に面したこの一番大きな建物、これは神殿です。
誰でも出入り自由ですから、少し見学していきましょう。セ=オの湖は色に特徴があるものが多く、人々は自分達の暮らす水辺の色を身に纏う傾向にあります。ですから、ナの神官様が着ているのも白いローブに銀のストールを掛けた神官服です。首から下げているのは、ナ湖の湖底の砂を溶かし固めて作る鋳造ガラスのアミュレットですね。これ、似たものを外のお店で買えますので、後で見にいきましょう。
それにしても神官様達、神秘的な雰囲気をお持ちでしょう。ナの神官は「妖精の目」を持っていることで有名なのですが、妖精の目ってご存知ですか? そう、人には見えぬものを見ることができる目のことです。幽霊が見える霊視持ちとはまた定義が違うのですが、もちろん幽霊だって見えますよ。それに加えて自然の中を漂う細かい魔力の流れだとか、瘴気の作る影だとか、何より精霊を見ることができる、実に不思議な視力です。
精霊を信仰するナの神官は、この「精霊が見える」という能力によって選ばれます。なので数はものすごく少ないです。けれど、他の土地に比べればそういう体質の子供が生まれやすくはあるようで、後継がいなくて困ってしまうことはめったにないのだそう。
精霊というのは肉体を持つエルフやドワーフ達とは違って、淡い光でできたような半透明の体を持っています。精霊が「そういう気分」の時は一般人の目にも映るのですが、そんなことはめったにないので、早朝の水辺でくつろぐ水の精霊様を見つけることができるあのイケメン神官長は、皆の憧れであり導き手なのです。
かなり話し込んでしまいましたが、お土産でしたね。美しい神殿を一通り回ったら、湖砂ガラスのお守りを買いに外の売店へ行きましょう。神殿なのに金を取るのか、と思われるかもしれませんが、作っているのは神官様じゃなくてガラス職人さんなので、代金は彼らの報酬になります。
ほら、そこに並べてありますよ。綺麗でしょう。首飾り型のものが多いですが、ブレスレットもありますね。「湖底の砂を溶かし固めた」と言いましたが、風合いとしては砂漠に隕石が降ってきた時にできる天然ガラス、あれに少しだけ似ています。やわらかく光を通す上品な透明感に、細かな気泡とインクルージョン。ナ湖の底にあるのは銀色に輝く不思議な砂ですから、光を透過させながらも淡く銀色に光っています。
そのガラス玉に穴をあけ、水中蛾の紡ぐ特別な糸を撚った飾り紐を通したものが、湖の精霊のお守りです。効果は主に健康祈願ですね。人間の体というのは大半が水分ですから、精霊の力で水を浄めることで、体も心も健やかでいられるのだそうです。
ひとつ手に入れたら、ごはんを食べに行きましょう。海帰りで魚は食べ飽きた? いやいや、確かにここの淡水魚は絶品ですが、それだけじゃありません。緑色でぷるぷるした不思議食材「豆腐」のスープを堪能しないと帰れませんよ。
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