11月28日 迷宮都市の魔獣骨格プラモデル

 地底洞窟国家で唯一空を見上げられる国境の街イエルは「空の街」と呼ばれていましたが、その国境を超えた地上の隣国フォーレスは「真上の国」と呼ばれています。文字通り、洞窟の国の真上にあるからです。国といっても地底へ続く大穴の周りを取り囲んでいる街ひとつ分しかない、とても小さな国です。というのも、地上の森を歩き回っている魔獣達から洞窟を守るために生まれたのがこの国なのです。


 それ故に、この国の王立博物館は魔獣の剥製や骨格標本が充実しています。かつて貴族の館だった頃の面影が色濃い、神話を描いた天井画と大理石の床――そしてそんな空間にずらりと並ぶキモい魔獣の骨格標本!


 おや、骨に気持ち悪いも何もないだろうと思いましたか? あなた、魔獣の骨を見たことがありませんね? 魔獣の骨というのは、何故だかさっぱりわかりませんが、およそ生き物として生きて動けそうもない、歪でめちゃくちゃな骨格をしているのです。フライドチキンを美味しく食べて、残った骨を無造作に屑籠へぶち込んだら似たような形になるかもしれません。体を支える形でもなければ、内臓を守る形でもない。しかも、個体ごとに骨の形も数も配置も違う。外側は同じ狼型や熊型なのに。そんなものが組み立てられて並んでいる様を想像すると……ほら、気持ち悪い気がしてきたでしょう?


 今日ご紹介するお土産は、その魔獣の骨格標本の1/20スケールプラモデルです。


 欲しいかも、と思ったおかしな方は私と気が合いますね。一番人気はなんといっても魔竜「ミラ」モデルです。ミラというのは魔竜の個体名ですね。化石ではありませんが、一頭一頭骨の形が違うので、区別するために骨になってから名前が与えられます。戸惑いや混乱を表す古語の名がつけられたのは、討伐され運ばれてきた骨を組み立て直す時、あまりの理不尽な複雑さに「もうダメだ何もわからない!」とベテランの学芸員が錯乱して悲鳴を上げたからと言われています。


 話が逸れましたが、そんな「混乱」のプラモデルは言わずもがな、組み立て難易度は最高レベルです。ほとんどの人間が説明書を読んだだけで混乱します。しかしそれがたまらないのだというマニアも多く存在する、人気商品でもあります。


 とにかく難しいので、パズルが苦手な方はいっそ開き直って、好きに組み合わせたオリジナル魔獣を作るというのもアリです。もしくは、もう少し難易度の低いものを選んでみるのも良いでしょう。何せ種族ごとではなく個体ごとにモデルがありますから、種類は異様にたくさん存在します。館長は非常に上品で知的な風貌をした老紳士ですが、これを許可したあたり実は変な人なのかもしれません。


 ここまでご覧になってなお興味がおありの方はぜひ、王立博物館のミュージアムショップへ。庭園には薔薇も咲いていて、デートにもピッタリですよ。ただし、彼女へのプレゼントは一角獣のぬいぐるみの方がオススメです。






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