第19話 ジャイアントオーガ

 素材を採る為、採取用ナイフを持ってジンが戻ってくる。


「三人ともやるじゃないか。俺があいつらの注意を引く必要なんて、別になかったかもしれないな」

「何を言ってるのよ。あなたがおとりになってくれたおかげで、私たちが楽をできたのよ。それに、あの一瞬で傷をつけるなんて、流石ねジン」

「そうだな、なんなら俺たちが居なくてもジンなら一人でやれたんじゃないか?」

「それは…どうだろうな」

「確かにジンくんなら一人で倒せたかもしれないね…。逆に闘ってるところ見たかったかも」


 ホワイトウルフの牙を削りながら、クリスがジンを称賛し、残り二人もそれに便乗した。闘っているところを見たかった、と言うサラの言葉に彼は苦笑しながらも、採取を続ける。

 そこでアキラが、あることを思い出した。


「——そういえば、アゴハのヤツ退学処分が決まったらしいんだが、ジンは知ってたか?まぁ、学園の模擬戦で、しかも先生たちの前でA級の禁術なんか使おうとしたんだし、当然っちゃ当然だが」

「それは初耳だな。あの魔法はそこまで危険なものだったのか…?」

「数年前に研究されたものらしいんだが、それを作ったヤツも捕まったって話だぜ。名前はなんて言ったっけな…」


 アキラが瞳を閉じて『う〜ん…』と唸る。

そこに、クリスが普段よりも低いような声のトーンで口を挟んだ。


「……ダグリフ・エドワーズ。彼は、私の父が最後に使った魔法を模造しようとしたのよ。彼は父の知り合いだったのだけれども、相容れない二人だったわ」

「だが、どうしてそれをアゴハは知っていたんだ…?」

「それは分からないけれども、誰かがその情報を漏らしたことは確かね…」

「ねぇねぇ、難しいお話中に申し訳ないんだけど…もう素材は取れたし先進まない?」


 頬を掻きながら、申し訳なさそうにサラがそう言う。その意見に反対する者はおらず、彼らは魔窟のさらに奥へと進んだ。

 再び広場となっている場所へ辿り着くが、サラは未だに先程見た何者かのことのほうが気がかりで、それに大きく反応することはなかった。

(さっきのあれってやっぱり子どもだよね…?もしかしてジンくんみたいに、誰かの付き添いで来てるのかな…?)


「……サラ!危ない!」

「へっ…?」


 心ここに在らず、という状態で先を進もうとする彼女の頭上を目掛けて、岩が落下してくることに気が付いたアキラが咄嗟に飛び出す。

(クソっ、間に合えこの野郎…っ‼︎)

 広場を調べる三人とは別に、一人離れてしまっていた彼女の救出は困難と思われた。しかし、どうして自分の名が呼ばれたのか皆目見当が付かぬ彼女は、くるりと振り向き、その場に呑気にたちどまっている。


「ちょっと…っ、アキラ急に何よ…!」


 驚く彼女にアキラが飛びつき、なんとかサラは岩との衝突を免れることができた。

 彼女は、地面に落ちたそれが大きな音を立てて砕け散るのを見て、やっと状況を理解する。


「もしかして私を助ける為に…ってアキラ‼︎どうしたの⁉︎」

「気にすんな…っ、ちょっとしくじっただけだ…」


 彼は右脚を両手で押さえたまま地面にうずくまっており、その手が血で赤く染めてられていることは一目見て分かった。ジンとクリスも駆けつけるが、誰一人として回復魔法を使える者はおらず、サラは平常心を失ってしまった。


「どうしよう…私のせいで…っ」

「しくじっただけだって言っただろ…?サラはなんにも悪くねぇし、弱音吐くなんてお前らしくないぞ…」

「急いで学園に戻ろう。すまないが、それまで耐えてくれ。大丈夫か?」

「当たり前だろ、ジン…俺はおとこだぜ…」


 吐息混じりではあるが、なんとか声を振り絞って返事をする。そんな彼をジンが背負い、残りの二人が先導して出口へ向かおうとしたのだが、そのとき大きな揺れが突然彼らを襲った。

 恐る恐る振り返り、瞳に映したのは棍棒を持った一体の巨躯の魔獣——ジャイアントオーガだった。赤黒いその身体の色が、見る者たちの恐怖を駆り立てる。

 手に握る棍棒は既に血に塗れており、かなり場数を踏んでいる個体だということが分かる。


「おいおい…あんなのが居るって聞いてねぇぜ…?」

「…っ!クリス、サラ、二人はアキラを外へ連れて行ってくれ。ここは俺が食い止める…!」

「それだとあなたが危ないわよ⁉︎」

「俺なら大丈夫だ。早く‼︎」

「……クリスちゃん、ジンくんの言う通りにしましょう。私一人でアキラを抱えて安全に外に出るのは多分…無理よ」

「…分かった。ジン、すぐに戻ってくるわ。あとはお願い」

「あぁ、アキラを頼んだぞ」


 ジンはアキラを二人に任せ、自分一人でジャイアントオーガに立ち向かうことにした。

 アキラは彼に『わりぃな…』と言い残し、クリスたちと外へ向う。

 勝算などは一切無かったジンではあるが、どうしても彼にはジャイアントオーガに立ち向かわなければいけない理由があった。


「ジャイアントオーガか…。あのときの借りは、しっかり返させてもらうぞ」

(エル兄は、俺を庇ってこいつにやられた…。だから今度こそは——!)

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