12/11 バタフライエフェクト

 女の子の連絡先を知ってしまった。いや先輩ふたりも女の子ではあるのだが、ドキドキ加減が違う。ニコニコしながら下校して、ニコニコしながら母氏の夕飯の支度を手伝った。

 自分は、「実家が太い」とまではいかなくともそこそこ父氏が稼いでいることを知っている。母氏は近所の未就学児から小学校低学年くらいのお子さんに工作を教える、というのどかな仕事を自宅でしている。亡くなった祖父の部屋を使っているので、家の中が散らかることもない。


「春臣さん、ずいぶんご機嫌ね。なにかいいことでもあった?」

 女の子の連絡先を知った話はするべきじゃないと本能が警告したので、

「部活のみんなとクリスマスのプレゼント交換する」と答えた。

「ああ、高校生になったからやっていい、ってお父さん言ってたものね。部活のみんなってどんな人たち?」

 自分は園芸部の顔触れをざっくり説明した。

「やっぱり楽しそうね。バスケしてたころより活き活きしてるわ」

「そうかな。バスケも楽しかったよ」

 今だに懐かしく、決勝3ポイントを投げた日のことを思い出す。そしてそれが、巡り巡って女の子の連絡先に繋がったのだ。

 なんたるバタフライエフェクト。大根をおろしながらずっとニコニコしていた。できた大根おろしは、異様に辛かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る